最近ずっと、夜寝付けないでいた。特に理由はない、はずだ。そろそろと音をたてないように談話室に降り、一人ソファへ身を埋める。

「寒ー……」

 お湯とマグカップを呼び寄せ、もう一つ、ポケットから出したスープの素を目の前のテーブルに並べた。封を開ければ安っぽいにおいが鼻腔をくすぐり、お湯を入れれば熱気が湯気となってわたしを襲う。こんなスープは偽物だ。でも、わたしには多分、これがお似合いなのだ。

「ナマエ?」

 男子寮の方から声がしたので見上げると、そこにいたのはシリウスだった。偶然起きてしまったのか、すこし寝癖がついている。そうやってよそ見をしながらカップに口を付けた所為か、口の中を少し火傷してしまった。「熱っ……」スープは偽物でも、お湯は本物だ。

「こんな時間に起きて何してんだよ」
「別に」
「なんか、話すの久しぶりだな。隣、座っていい?」
「どうぞ」

 シリウスの隣でこうしてスープを飲んでいるだなんて、不思議な感覚だ。一緒に授業を受けることや、週末出かけることはあっても、談話室で暖かい飲み物を飲みながらお喋りするなんてことはしたことがなかったのだ。

「それ、おいしいの?」

 シリウスも自分のカップとスープを呼び寄せ、お湯を注いだ。二人してインスタントのスープを一緒に飲んでいること、それ自体がまるで滑稽で、少し笑ってしまった。本当ならわたしじゃないはずだ。ここに、シリウスの隣に、いるのは。

「おいしくないよ」
「ふうん」
「おいしくない。でも、すきなの」
「確かに。安っぽいけど、なんかクセになるな。俺もすきだよ」

 シリウスが言う「すき」の唇の形を、舐めるように見つめる。一口、一口、と飲む度に、さっき火傷をしたところがヒリヒリと痛んだ。

つくりかけのにせもの
(110515)afterwriting