わたしとイルミはあまり似た双子ではなかった。イルミの真ん丸目と違ってわたしはどちらかというと釣り目でミルキやキルアと似た形だったし、暗殺の修行もイルミには似ずあまり好きではなかった。それでも父さんやお爺ちゃんが、わたしたちは一卵性双生児だと言うのだから、そうなのだろう。わたしたちは仲の良い兄妹であった。わたしたち双子が名家に生まれた長子だという問題を抱えているにも関わらず、兄妹として仲良くやってこれたのは、ゾルディック家が長子相続に拘らない家であったことと、わたしが女であったこと、この二点に因るものだろう。

 小さい頃から、イルミが大好きだった。イルミ以外のものは全て嫌いだったし、逆に言えばわたしを喜ばすものなどイルミ以外何一つ与えられることはなかった。母さんはよく、わたしに対して、「ナマエちゃんは、お兄ちゃんの後ろにくっついて回ってるときが一番可愛いわ」と言ったものだ。わたしは、イルミしかしらない。イルミの背中だけを見て、イルミの手だけを握って、生きてきた。イルミだけがわたしの世界なのだ。




「……で、ボクのところにきたわけ?」
「ヒソカのところにいると思ったのに。いないなんて! 騙された」

 もちろん、大人となった今、イルミだけ、なんてそんな幼稚なことは言ってられない。今ではお風呂もベッドもバラバラだし、仕事も別々にこなしている。でも時々、イルミが仕事で長いことうちに帰ってこない日が続くと耐えきれなくなって、こうして方々を探し回るのだ。

「もうかれこれ2週間はイルミを見てない。知ってるでしょ、わたし、イルミがいないとダメなんだよ」
「キミたち、きょうだい同士で執着しすぎなんだよ。ボクは見てて面白いけど」
「しょうがないでしょ、わたし、イルミしか知らないんだから。今まで何も与えられなかったのに今さら別のことに興味を持てなんて、残酷すぎるよ」
「くっく、さすが双子だ、そっくりだね」

 ヒソカのところにやってくるのは、ほとんどイルミを探すときだけだ。それなのにこの男はいちいちわたしの名前を呼び止め、やたらと高そうな店へ引っ張っていっては夕食やら晩酌やら振る舞ってくれた。わたしはあまり食というものに興味がなく、目の前のムニエルや色とりどりの酒が美味しいものなのかわからなかったが、店員の接客態度やテーブルナプキンの質、店の立地などからしてかなり高級な店だということは容易に想像がついた。

「キミはつまらなそうに食事をするね」
「つまらないから」
「本当、ナマエはイルミにそっくりだ」

 イルミに似ている、そう言われる度、違和感に似た感覚がこそばゆく背中を這っていく。家では母さんに散々、イルミとは似てもにつかない兄妹だの、イルミと違って出来損ないだの言われ、はたまたミルキやキルアにはイルミと違って親しみやすいだの、話しやすいだの言われているのだ。自分だってイルミを見ていると(いくらなんでもわたしはここまで無愛想じゃないわ、)と思う。なのにこの男、ヒソカはわたしを見て、イルミと似ていると言う。

「わたしは、あんなに無愛想じゃないし、デリカシーだってもっとあるけど。自分でもそう思うし、弟たちもそう言ってる」
「些細な点を見るとね。でも大した違いじゃないよ。キミたちは、そっくりだ。まるで同じ、いきものだ」
「そんな、ことない、暗殺だってイルの方が上手いし。母さんたちに期待されてるのもイルの方だよ」
「そうやって、瞬きをせずに、まるで感情を殺すみたいに話すところ。一つのことに執着するふりをして、現実から目を背けるところ」
「……」
「キミはただ、自分と同じものを見て、好きだと言っているにすぎないんだよ。他に好きなものを作るのが怖くて、イルミをそんな逃げ場にしてる」

 わたしは違う、そんなんじゃない、そう思えば思うほど、うまく喋れなかった。呼吸ができない。口をぱくぱくと動かすわたしを、ヒソカは滑稽そうに眺めていた。からん、マドラーと氷が触れ合って、底で淀むパイナップルジュースが渦を作る。イルミだけがわたしの世界だったはずなのに。そういえばこの男はいつの間に入り込んできたのだろうか。

Around The World
(121123)