「ナマエってヘンだよね」
「ああ、これはマジだ。ナマエが一番変わってる」

 全く同じと言っても良い、そっくりな顔を二つ並べて、二人は口々に言った。変と言ったら、あんたたち二人が筆頭だろう……と言いたい気持ちを抑えて、私は無理くり愛想笑いを浮かべる。むしろ私は、素敵な個性をお持ちの方々ばかりのあの学校で、かなり没個性で、地味で、凡庸で、集団に埋没した存在だった。そして私はそれでよかったのだ。数少ないアジア人として、生真面目さや謙虚さは自分としては武器のつもりだった。……"だった"、と過去形なのは、ある時を境に、私はそれらの武器が全く不要になったからだ。

「入学してしばらくは、名前はすごく普通の人だと思ってた」
「わかる。僕も、アジア人然としてるなァとしか思ってなかった。だからあの日、本当に驚いたね」
「ああ、すごく驚いた」

 そして二人は、おかしさを堪えきれないかのように、くつくつと喉をならして笑った。彼らのこの笑い方が好きだ。何かを企んでいるときの笑い方。何か面白いことを思い付いたときの笑い方。そういえば、あの日も、二人はこの笑い方をしていたかもしれない。

「あの日、あの日だよ。僕らが、フィリバスターの花火を持ってきて」
「火トカゲに食わせてやったんだ。そしたらメチャクチャ綺麗なゲロを吐きまくった。あれは圧巻だった」
「そしたらナマエがスッて忍者みたいに来たんだ。真面目なアジア人に叱られる! って僕は咄嗟に思ったんだけど」
「ああー、まさか、ああ来るとはね」

 双子はまたくつくつと笑った。私も、あの日のことはよーく覚えている。ヒヤヒヤ花火を食わされた火トカゲが、煌めく焔のような星を談話室中に撒き散らしたのだ。それはまるで白昼夢のような、宇宙のような、絵本のような、乗り物酔いのような、幻覚のような、不思議で恐ろしく、そしてひどく美しい光景だった。でも私はその時、談話室に撒かれた星なんか見ていなかったのだ。

『すごくきれい。でも、あんたたちなら、もっとすごいことできるよ』

 二人の目をまっすぐ見て、そう言ったのを覚えている。確かに見える、二人の星降る瞳。火トカゲが吐いた花火の残骸なんかよりも、ずっと鋭利で、熱を持っていて、美しい、本物の星。二人が、この鬱屈した世界を切り開くという確信と共に、眼窩に宿る彗星。凡庸で退屈な『武器』など全く不要であると即座にわかるほどの、暴力的なまでの輝きが、私を焚き付けたのだった。

「さあ、」

 私は二人の話を遮った。ホグワーツを飛び出てから、私たちには、やりたいことが山ほどある。

「思い出話よりも、もっと面白いこと考えようよ」

 気付けば、私もくつくつと喉を鳴らして笑っているのだ。


瞳に星降る人
(201219)
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