ほとんど嵐と言ってもいいくらいの雨だ。止めどなく耳を支配する雨音が、神経を麻痺させる。こんな陰鬱な日は、カーテンを閉めきり、ミルクティをたっぷりいれて、積んであった小説を開くのだ。私が立ち上がり薬缶に水を入れようとすると、シリウスは「俺も」とだけ言った。まるで、世界から遮断されたかのように感じる、こんな日は、杖も箒も闇も光も全部一旦置いておく。二度と来ることのないかもしれない日常に、そっと身を委ねるのだ。

雨音が切り取る
(200614)
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「今話した全部が作り話って言ったら怒る?」

 これが全て、作り話だったらどんなに良いだろう。シリウスは明らかにボロボロで、傷だらけで、深い悲しみをたたえた顔をしていた。

「ごめん、本当はお前にも会うべきじゃないって、わかってるけど」
「ううん、ううん、シリウス。私は、」
「お前なら、信じてくれると思って、」
「シリウス、」
「最後にお前の顔を見られてよかった」

 シリウスは静かに笑った。親友を二人なくし、一人に裏切られ、これから自身の自由をもなくそうとしている人の、美しく悲しい笑顔だった。

「ぜんぶ、ぜんぶ、作り話にするよ。本当じゃない、嘘の世界の話に。空想の話になるよ」
「シリウス、だめ、やめて、」
「オブリビエイト」

 白く光が弾ける。今、私の目に写るのは、酷く悲しく笑う、美しい人。それだけ。

今話した全部が作り話って言ったら怒る?
(200719)
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 冬になったホグワーツの夜は暗い。本当に暗い。星も見えない曇天の中、ルーモスの灯りがなかったら、きっと足下すら見えなかっただろう。杖先にある灯火だけを頼りに、前をずんずんと進むシリウスを追いかけた。

「ちょっと、早いよ」

 声をかけるとシリウスは立ち止まり振り向いた。

「お前が遅いんだよ」
「暗いんだから」
「ほら、早く。急ぐぞ。時間がない」

 シリウスは焦ったように、私のローブの袖口を掴んだ。その拍子に、私の手の甲に少しだけシリウスの手が触れた。すぐに離れる。体温と体温が混ざり合った手の甲は、燃え上がってしまうかと思うくらい、熱かった。

「はは。お前、手汗かいてる」
「もー! うるっさい!」
「うるさいのはお前だっつの。声でかすぎ」

 そういうシリウスの手だって、ひどく汗ばんで、熱かったんだから。ついでに、ランタンに照らされた彼の耳は心なしか赤い。この冷まじさの中で、私達二人だけが、殊更に熱を持っている。

星がなくても歩ける
(210410)
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