あの人が私を忘れていてくれたらいい。全てを忘れて、夢にまで見た太平の世を夢想しながら眠る。ああ、これは概ね、あの人が願った結末ではないか。あの人が私を忘れていてくれたら、私は思う存分あの人を想うことができる。あの人のいないこの世に生きながら、あの人のことばかりを考えていられる。かつてあの人は「お前のこと、呪いながら死のうかな。そうしたらお前は俺を忘れないでしょ」と言ったけれど。私は、あの人のいないこの世を呪う。あの人のいない今生を呪う。小糠雨に潤う豊穣の地を、呪いながら、あの人がこの呪われた世界を忘れられるよう、願うのです。

小糠雨に思う
(200614)
(title by icca
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