ぽとぽとと落ちた草紙洗の花が、雪に覆われた地面を彩っていた。花弁ではなく花首から落ちるため、椿は武士には忌み嫌われている。でも、私はこの草紙洗の花が好きだった。幼い頃に初めて美しいと感じた花だったからかもしれないし、寒さの中に咲く姿に強さを感じるからかもしれないし、潔く散る様に親近感を覚えるからかも、しれない。

「ナマエ、そろそろ中に入れ」

 幸村様が屋敷から顔をだし、私に声をかけた。「はい」と従おうとすると、「それは、」と幸村様が息を吐いた。

「美しいな。余り見ぬ花だ。私はその花が好きだよ」
「……そうですか」

 私は曖昧に頷いた。でも内心、幸村様がこの花を美しいと思うのは道理だろうと思う。私はいつか、明日か明後日かもしくはもう少し先か、この方のくのいちとして戦場で死ぬだろう。そして幸村様だって、明日か明後日かもしくはもう少し先に、ひとりの武士として死ぬだろう。幸村様、共に美しく散りましょう、そう思える戦をしましょう、そして、幸村様はきっと、それを叶えてくれる人だ、と縋るように想っているのだ。

散花風月
(210413)
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