映画やなんかじゃよく、高いところから落っこちたときにスローモーションになったりするじゃないか。頭のなかを走馬燈が駆け巡ったり。……あれ、嘘です。足を踏み外して「あっ、」と思った次の瞬間には床に頭をしこたま打ち付けた痛みが襲ってきます。ソースは私。

「だっ、大丈夫?!」
「いったぁ……、」

 階段の上から駆け寄る一人分の足音。

「ごめん! 本当にごめんよ! シリウスが来ると思って……ちょっと脅かしてやろうって……」

 ジェームズ・ポッターは踊り場に伸びたままの私の顔を覗き込み、冷や汗をかいていた。初めて、こんなに近くで顔を見たかもしれない。よく見ると、うなじの辺りはひどい寝癖がついている。

「頭、痛むかい? えっと医務室に……」
「ポッター」
「今マダム・ポンフリーを呼んでくるからね、」
「私と付き合って」
「え?」

 時が一瞬止まった。どうやら、スローモーションになるのは、高いところから落っこちたときじゃないらしい。

「……頭打ったみたいね?」

君が突き落とす恋
(210416)
(title by icca
back to … list or Apathy