「うお、エンデヴァーの息子」
「……」

 流石のランチラッシュとはいえ、こんな時間になれば生徒の数もまばらだ。土曜の午後に、わざわざ学校に来て学食を食べようなんて生徒は多くない。多くない、のに、だだっぴろい大テーブルのど真ん中に一人ぽつんと座ってざる蕎麦を啜っていた人間が、よりにもよってあの轟焦凍だったのだ。思わず、声が出てしまった。そして、睨まれた。

「……お前は」
「いや、ゴメンナサイ。知り合いじゃないです。モブです。経営科のモブ生徒です」
「経営科か」

 轟くんは気にした様子もなく蕎麦をすすった。ぴちっと小さく水滴が飛ぶ。良く見ると、轟くんの前のテーブルは水滴だらけだった。

「意外と不器用」
「何か文句か」
「いや、可愛いところもあるんだなぁって」
「……」
「あは、モブの戯言だと思ってもらっていいです」

 私が斜め前の席(前の席は水浸しだったので)に着くと、轟くんは非難がましくこちらを見たけど、何も言わなかった。広い学食に初対面の二人が、斜向かいに座っている。変な感じだ。

「あの……私。エンデヴァーにね、助けてもらったことあるんですよ。妹が川で溺れて、助けようとした私も溺れちゃって。10歳くらいの時だったかな。川にいる子ども二人掬い上げるなんてヒーローにとっちゃチョロすぎて、エンデヴァーは覚えてないと思いますけど。でもお陰で今生きてます。感謝してますよ。それで、ヒーローを支える仕事がしたいと思ってここの経営科に来ました。だからね、入学したときから、ちょっと轟くんのこと気になってました。憧れのヒーローの息子だから」
「……そうかよ」
「でも、この前お母さんに聞いたんですよ。あの時私達を助けてくれたのは、エンデヴァーじゃなかったって。なんかね、エンデヴァーの息子さんも近くに居て、川を凍らせてせき止めてくれたらしいんですよ。そのお陰で助かったって」
「……」
「あなたは、憧れのヒーローの息子じゃなかった。あなたが、憧れのヒーローだったんですね。轟くん」
「……俺は」

 轟くんは、またぴちっと水を飛ばして蕎麦をすすった。

「悪ぃけど、覚えてるよ、あんたのこと」

 憧れのヒーローは、意外と不器用で、意外と可愛くて、意外と近くにいた。最高じゃないか。

火花を纏って生まれた恋の話(轟)
(210427)
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