13 The Die Is Cast !


「雄英体育祭!!ヒーローの卵たちが我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!!」

プレゼント・マイクのよく通る声が会場に響き渡り、その声に応えるかのように、観客からは割れんばかりの歓声が上がる。祭典とはよく言ったものだ。会場を埋め尽くすこの熱気は、まさに祭りと呼ぶにふさわしい。

「どうせてめーらこいつらだろ!!?敵(ヴィラン)の襲撃を受けたにも拘わらず鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!!」

「…正直、舐めてましたわね」

「檻舘?」

待機場所で整列しながら、私は無意識のうちに独り言を呟いていた。横にいた心操君が怪訝そうな顔でこちらを見ている。

「…例年、メインは3年で1.2年はおまけ程度と聞いていたので今年は様子見しようと思っていたのですが……まさかこれほどの集客力があるなんて」

会場全体を埋め尽くす人、人、人。メディアの数も、私の予想より遥かに多い。

「費用対効果なんて気にせず、さっさとスポンサーとして名乗りをあげるべきでしたわ…折角の機会でしたのに…完全に失策です」

この盛り上がりを見るに、ウチの会社のヒーロー産業進出のタイミングとしてはうってつけだったろう。ううむ、惜しいことをした。

「檻舘は平常運転だな」

「心操君こそ、そんなに緊張していては出来るものも出来なくなってしまいますわよ」

「…わかってるよ」

いつもより強張った表情の心操君。それも当然か。なんたって今日は、体育祭本番だ。

「B組に続いて普通科C・D・E組!!」

プレゼント・マイクが普通科を呼んだ。先程のA組に比べるとどうしてもその扱いは雑と言わざるを得ないが、まあ仕方ないだろう。どうしたってこの体育祭の主役はヒーロー科だ。

「俺らって完全に引き立て役だよなあ」

「たるいよねー」

後ろからクラスメイト達の不満げな声が聞こえてくる。まあ確かに、当事者からすれば雑に扱われることにいい気はしないだろう。私は特に気にならないが、周りの反応を見るに快く思っていない人は多そうだ。

「選手宣誓!!1−A爆豪勝己!!」

入場行進が終わり、18禁ヒーロー・ミッドナイトが一人の生徒の名を呼んだ。その名前にあれ、と思ったのも束の間、気怠そうな様子を隠さずに登壇した男子生徒は、何時ぞやヒーロー科の教室の前で会話をした金髪の不良少年だった。

「知り合い?」

「いえ、この前の体力テストの際に私がご迷惑をお掛けしてしまった方ですの」

「…あの時カラーコーンを檻舘に直撃させた奴か」

「あれは私の不注意ゆえですわ」

そういえば、心操君が宣戦布告をしたのも彼であったか。因縁を感じているのか、隣の心操君は今までに見た中でも一二を争うほどに怖い顔をしている。

「…それにしても彼、ヒーロー科の入試トップだったのですね」

あの粗暴な言動からは想像もつかない。超難関の雄英高校でトップということは、正しく現時点、この学年で最もプロヒーローに近い男ということなのだろう。ウチとしては、是非とも在学中にコネクションを作っておきたいところだ。

「せんせー、俺が一位になる」

「(…性格には難がありそうだけど)」

「せめて跳ねの良い踏み台になってくれ」

ステージ上の彼の言動を見る限り、イメージキャラクターとしての起用にはリスクが伴いそうだ。炎上を跳ね除けるほどの実力や人気が彼にあれば良いのだが…まあ、今ここで心配することでもないか。

「さーてそれじゃあ早速第一種目行きましょう」

そうこうしているうちに、あれよあれよと進行が進む。元々タイトなスケジュールを組んでいるのか、それとも単にミッドナイトがせっかちなだけなのか、それにしたって早すぎだろう。

「いわゆる予選よ!毎年ここで多くの者が涙を飲むわ(ティアドリンク)!!」

「心操君、健闘を祈ります。くれぐれも怪我だけはしませんように」

「檻舘は?」

「私はもともと競技自体に興味はありませんから、巻き込まれる前に避難致しますわ」

体力・能力ともに規格外のエリート集団と一緒にいたのでは、私みたいな凡人は一瞬でやられてお終いだ。怪我をする前に早くエリア外に出なければ。

「さて運命の第一種目!!今年は…コレ!!」

けたたましいドラムロールの音とともに、大きなスクリーンにドーンと映し出された5文字。

「障害物競走、ですか…」

そうしている間にも着々とコースが作られていく。まずい、このままでは人の波に飲み込まれてしまう。

「我が校は自由さが売り文句!ウフフフ…コースさえ守れば何をしたって構わないわ!」

「心操君」

「檻舘…」

「心操君がこんなところで負けるはずありませんわ、ともかくリラックスです!」

私は早口で彼に伝える。貴方なら大丈夫だと、そう気持ちを込めて右手の拳を突き出す。

「…ああ!」

彼にも伝わったらしい。ニッと笑った心操君が、同じく拳を突き出した。コツンと合わさったそれに、思わず笑みが溢れる。

「それでは、また会いましょう!」

ミッドナイトの煽る声が聞こえる。今から最後尾に向かっても私の鈍足ではきっと間に合わない。私は少しでも被害を受けないよう端にむかって走り出した。

「スタート!!!」

開始の合図とともに、背後で大群が走り出す音がする。地鳴りが響き渡るその様子にゾッとするが、どうにか人の波に飲まれることは回避できたようだ。

「…心操君なら、大丈夫ですわ」

私の声は、喧騒に掻き消された。こうして慌しくも、波乱万丈の体育祭が幕を開けたのだった。


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