14 摂氏23°、曇りのちアレルヤ(上)


「予選通過は上位42名!!!残念ながら落ちちゃった人も安心しなさい!まだ見せ場は用意されてるわ!!」

ミッドナイトの声がスタジアムに響き渡る。予選通過は42名、スクリーンに映し出される面々を見るに、殆どがA組B組の生徒のようだ。まあ、予想通りの結果と言えよう。

「…良かった」

ヒーロー科が上位を独占する中、27位という中々の位置に食い込んだ心操君。まさか普通科生が残るとは思っていなかったのか、周りのクラスメイト達も騒ついている。

「そして次からいよいよ本選よ!!ここからは取材陣も白熱してくるよ!キバリなさい!!」

どうやら息つく暇もなく本戦が始まるらしい。ドラムロールとともに、第二戦目の種目が発表される。勢い良くスクリーンに大きく映し出された3文字に、私は思わず困惑した。

「騎馬戦…?」

次の種目は、騎馬戦とのこと。周りは見知らぬヒーロー科ばかりだ、団体戦だなんて果たして大丈夫なのだろうか…。

しかし私の心配を他所に、どんどん話は進んでいく。ミッドナイトの説明によると、どうやら基本的には極々一般的な騎馬戦のルール通りらしいが、先ほどの予選での順位によって各々異なるポイントが与えられるようだ。最終的に集めたポイントが高いチームが勝ち、順位が高い人ほど与えられるポイントは多く、結果その人の騎馬は狙われやすくなる…ということらしい。そう考えると、中盤の順位だった心操君にとっては比較的やり易いルールかもしれない。

「それじゃこれより15分!チーム決めの交渉タイムスタートよ!」

そうこうしているうちに、15分間のチーム決めの交渉タイムが始まった。目を細めて心操君を探せば…遠目だが、尻尾が生えている人と一緒にいるのが見える。良かった、私の心配はどうやら杞憂だったらしい。

「もう少し近くで見たいけど…ああ、双眼鏡でも用意しておけばよかった」

グラウンドの様子は数台のカメラで常時追っているようで、その都度スクリーンにも映し出されている。しかし、他の選手に興味はない私にとってそのシステムはあまり意味がない。私は心操君さえ追えればそれで良いのだ。

「(…別に、ここにずっといろとは言われていないし…)」

もう少し見やすい所に行こうと、私は席を立った。目立たないようにこっそりと普通科の輪から外れた瞬間、後ろから急に声を掛けられた。



*****



試合開始を告げる音が聞こえてから、早数分。

「《MAISON de ORIDATE》の御子女と同じ高校だなんて、是非一度お話をしてみたかったんですよ!」

「実際は檻舘さんが経営をしているという噂は本当なのかい?」

「あの、えっと…」

私に声を掛けてきたのは、見知らぬ男女数名。それは、雄英高校の経営科の人達であった。普通科の輪から外れ一人になった瞬間囲まれてしまい、あれよあれよという間に経営科の席に連れて行かれてしまった。

「近々ヒーロー事業に手を出すらしいけど、具体的なコンセプトとかは決まってるの?」

こうなってしまうと騎馬戦の観戦どころではない。下手に動かなければよかった…と数分前の浅はかな自分を後悔したところでもう遅い。こういう人種は、話し始めたら止まらないのである。

「以前あの"熱中大陸"で檻舘夫妻の特集が組まれたとき、二人が君の話をしていて、ずっと話を聞きたいと思ってたんだ」

「ああ…」

そういえばそんなこともあった。全国放送のゴールデン番組で両親の密着が組まれた際、予定になかった質問が来て、両親がうっかり私の話をしてしまったのだ。私もバタバタしていてチェックしきれず、気付いた頃には既に手遅れだったのを覚えている。

「てっきり君は経営科にくるものだとばかり思っていたのに…」

「ええと、その…専門的な分野を極めるのは、私如きには早過ぎると思ったので…」

会話そっちのけで試合を盗み見るが、残念ながらこの場所からでは選手は豆粒程度にしか見えない。スクリーンに映し出されるのは目立っている派手なヒーロー科の人達ばかりで、残念ながら心操君は全く出てこない。ああ、なんてもどかしいのか。

「今からでも遅くないと思うよ!ぜひ編入しない!?」

「うちはいつでも歓迎するよ!」

「(ああ、最悪だ…)」

そうこうしている間にも時間は着々と過ぎていく。経営科の人達からの圧を愛想笑いで躱しているうちに、試合時間はあっという間に終わりを迎えてしまう。

「TIME UP!」

「えっ!」

試合終了を告げるプレゼント・マイクの高らかな声が会場内に響き渡った。会場は熱気に包まれており、さぞかし盛り上がった試合となったのだろう。…残念ながら、私はその波に乗れていないのだが。

「1位、轟チーム!2位、爆豪チーム!」

「(心操君は……!?)」

矢継ぎ早に順位が発表されていく。反射的にスクリーンに目を遣れば、そこに映っていたのは、画面一杯に映し出された彼の姿。その顔には、不敵な笑みが浮かんでいた。

「3位…鉄て…アレェ!?オイ!!心操チーム!!?」

何ということだろうか。プレゼント・マイクの実況に、試合を観ていたはずの観客も騒ついている。

「さ、3位…?」

心操君の実力を軽んじていたわけでは決してないが、それでも相手がヒーロー科ばかり強者揃いの中、全12チーム中3位とは。正直、驚きを隠せない。

「なんてこと…」

折角の見せ場を見逃してしまうなんて。クラスメイトとして、ファンとして、あるまじき行為だ。最悪以外の何物でもない。

「檻舘さん?大丈夫?」

「え、ええ…」

アンタ達のせいよ、とは流石に言えない。ああもう、一体どんな顔して心操君に会えばいいのか…!

「一時間程昼休憩挟んでから午後の部だぜ!じゃあな!!」

相も変わらずテンションの高いプレゼント・マイク先生の声が響き渡る中、私は経営科の席で一人、項垂れるしかなかった。

「はあ…」



14 摂氏23°、曇りのちアレルヤ(上)


.



- 17 -
BACK/TOP