「すくいさん、アイス溶けてる」
「わっ!」
薄暗い一室。一人暮らしの狭い部屋にお似合いの小さな画面をこれでもかと凝視していたすくいさんは、俺の言葉に慌てて持っていたスプーンを握り直した。
これ、環くん観たいって言ってたよね、とすくいさんが近所のレンタルビデオ屋で借りてきたDVDは、半年くらい前に巷で話題になったアクション映画だった。一緒に行きたいね、なんて話していて、結局二人の休みが合わずに流れてしまっていたそれ。さもない会話を覚えていてくれたことが嬉しくて、事前にわかっていたのなら電気屋に走って今より3倍くらい大きなテレビを新調したのに…と本気で思ったが、彼女に呆れられるのが怖かったので口には出さなかった。
「面白くなかったら、ごめん…」
「それも一興ってやつだよ!でも面白いといいねえ」
そう言って二人並んでソファーに腰掛けたのが30分前。お風呂上がりにアイスクリームを食べるのが日課のすくいさんは、今日も今日とて遠慮なしに俺の家の冷凍庫を開けて、彼女が日々詰め込んだ沢山のフレーバーの中から本日のお気に入りを選んでいたのだが…映画鑑賞のお供にそれは、完全にミスチョイスだったと言わざるを得ない。彼女の小さな手に包まれた容器の中身は、無残にもどろどろに溶けてしまっていた。
「話に夢中で食べるの忘れてた…でもほら、アイスって溶けかけの方が美味しいから」
「それは溶けすぎだと思うけど」
「そ、そんなことないよ!」
そう言ってすくいさんは、乳白色の液体を小さなスプーンで掬い上げて、慌てた様子でその桃色の唇に運ぶ。うん、おいしい!と綻ぶ顔が愛らしくて、思わず俺は人差し指でそっと彼女の頬を撫でた。この時点で俺の興味は完全に、映画から目の前の可愛い恋人に移っていた。
「あっ」
二回三回、と容器と唇の行き来を繰り返すうちに、匙の表面張力に敗れた一雫が、ルームウェアから惜しげも無く晒された彼女の太腿にぽとりと落下した。照れ笑いを浮かべながらその雫を人差し指で拭い、ぺろりと舐めとるすくいさんの艶々とした赤い舌がちらりと見えてしまい、気付けば俺は、その美味しそうな果肉に向かって己の舌を差し向けていた。
「んう…ッ」
ひやりとした彼女の口腔内が、俺の熱い舌に絡まりぬるくなっていくことに酷く興奮を覚える。息苦しそうな彼女のくぐもった甘い声が鼓膜を揺らした。バニラの甘さとざらついた舌の感触を感じながら、もっともっとと、さながら意地汚い子供のように、俺は彼女を貪り続ける。
「た、環くん、映画、明日返却なの」
「俺がまた借りてくるから」
「アイスも、まだ」
「もっと高いやつ、買ってくるから」
息も絶え絶えに訴える彼女の言葉をあらゆる理由で跳ね除けて、口付けに乗じて彼女の掌から無理やりアイスを取り上げた。テーブルの奥に押しやったそれは、もう彼女の口に入ることはないだろう。勿体無い気もしたが、この行為を止めるつもりは毛頭なかった。容器を奪われ行き場を無くした彼女の指を己の指に絡ませ、そのままソファーに押し倒す。アイスの味などとうに無くなっているのに、俺の舌は彼女を頑なに離そうとはしなかった。やがて酸素の限界がきたのか、弱々しくトントンと胸を叩かれたので、名残惜しいと思いつつも唇を離す。間に見える透明な糸を辿っていけば、そこには頬を薔薇色に染めて涙ぐむすくいさんが、熱に浮かされたような表情で俺を見上げていた。ずくり、と腰が疼くのがわかる。
「すくいさんが嫌なら、やめるけど」
「…環くんのいじわる」
そう、俺は性格が悪い。すくいさんが嫌がっていないことなど、既にお見通しなのだ。それでも敢えて言葉にするのは、眉を八の字にして拗ねるその顔が見たいからに他ならない。
「ひゃっ」
肌触りの良いルームウェアの中に手を差し入れ、彼女の細い腰を指でなぞる。俺の手が冷たかったのか、単に擽ったかったのか、彼女は小さく悲鳴を上げた。いつもはあんなに饒舌なすくいさんは、こういうときは決まって口数が少なくなる。だからこそ声が聞けたことが嬉しくて、俺の指は無遠慮に彼女の身体を這い続けた。柔肌を堪能しながら進むと、案外早く到達した双丘。どうやら元々下着は付けていなかったらしい、彼女のその無防備なその様子に思わず喉が鳴る。少し力を加えるだけでふにゃんと形を変える柔らかさを掌全体で堪能して、中心でぷくりとその存在を主張する蕾を人差し指で弾けば、きゃん!と彼女が吼えた。
「ひぃ…あッ!うう…」
声を我慢するすくいさんのその理性を暴きたくて、俺はやや乱暴に彼女のルームウェアを剥ぎ取った。露わになる白くて艶やかな肌。外気に晒されて僅かに鳥肌が立っていることさえ愛おしくて、俺は思わず視界に広がる柔らかな胸にしゃぶりつく。杏色の頂を舐めて、甘噛みをするその度に彼女の身体がびくびくと震えるものだから、俺は面白くなってついついがっついてしまう。舌で左右に嬲り、少しだけ赤みが増したその蕾を吸い上げる。人差し指と親指でくりくりと弄っていると、やがて頭上から彼女の切羽詰まった声がした。
「もっ…!」
はあはあと肩で息をする彼女の声に反応して胸から顔を上げれば、顔を真っ赤にし涙をぽろぽろと零す彼女がいて、急に肝が冷える。
「す、すくいさん…」
自分の調子に乗った言動を振り返り、おろおろと弁明の言葉を探す。しかしどうやら、彼女の様子は俺の想像とは少し違うようで。
「もっ…!胸ばっか…ッし、下も…触ってよ…!」
「……ッ」
嗚呼もう本当にこの人は、俺を焚きつける天才だ。ごめん、と一言謝って、俺は彼女の唇を優しく啄んだ。甘やかしたい反面、ぐちゃぐちゃにしたいとも思ってしまう。俺は本当に最低な人間かもしれないと頭の隅で考えながら、けれどもその手を休めることはせず、貪欲に彼女を堪能し続ける。下腹部を撫で、そのままハーフパンツの下に手を滑り込ませる。お望み通り彼女の秘められた箇所へと指を差し向ければ、そこは既にびっしょりと湿っていた。
「こんなに濡れてたのに、気づかなくてごめん」
「そういうことは言わなくていいよ…!」
ハーフパンツも下着も剥ぎ取り、一糸纏わぬ姿になったすくいさんは、恥ずかしいのか身体を縮め、膝を折り畳もうとする。しかしそれを己の身体で阻止し、彼女の小さな体に覆い被さった。中指を彼女の割れ目に充てがうと、そこは驚くほどすんなりと俺の指を飲み込んだ。
「ひゃああ…ッ」
「痛くない?」
「痛くはない、けど…ッ あぁン!」
彼女の痛くない、という言葉を聞いて、俺はすぐに人差し指と薬指も中に差し入れた。彼女の嬌声に気を良くした俺は、三本の指をゆっくりと出し入れしながら、ばらばらに動かす。ざらざらとした内壁を撫でれば、彼女の声が一際高く跳ねた。
「可愛い」
月並みな言葉しか出てこない口下手な自分が恨めしい。でも本当に、すくいさんは俺なんかには勿体ないくらい素敵な人で、可愛い可愛い俺の恋人で。
「(…嗚呼、美味しそう)」
喘ぎ声を上げ続ける彼女の痴態に、俺はごくりと唾を飲む。昂りを抑えきれず、俺は無意識に彼女の白い首筋をがぶりと噛んだ。あう、と彼女があげた呻き声に、更に興奮を覚える。
「…ごめん、つい」
身の丈に合ってない感情だとは重々承知しているけれど、そんな彼女を自分だけのものにしたい、彼女の全てを食べてしまいたいと願ってしまう。そんな俺の浅ましい独占欲を彼女が知ったら、一体どう思うだろう。器の小さい男だと軽蔑するだろうか。しかし大らかな彼女のことだ、環くんは仕方ないなあ、と笑って受け入れてくれそうな気もする。
「謝らないでよ。私だって、環くんのこと、欲しいもん」
熱を持った彼女の掌が俺の腰を這った。そのままスエットのゴムに手を掛けられ、瞳を潤ませながらすくいさんが強請る。
「だからさ、早く、私のこと食べて。ね、環くん」
「…うん」
今日何度目かわからない口付けを交わしながら服を脱ぐ。肌同士が触れ合い、体温が上がるのが自分でもわかった。互いの汗やら何やらで、既に身体はじっとりと湿っている。熱を孕んだ二人の身体は、もう充分すぎるほどに熟れていた。
「いただきます」
そう言ってすくいさんの腰に手を掛けた俺に、召し上がれ、残さず食べてね、と彼女が囁いた。残すものか、骨までしゃぶり尽くしてやると心の中で笑って、俺はゆっくりと彼女の中へ入っていった。