11.風柱の妻になりました。

 負傷してから一ヶ月程経って、ハルは蝶屋敷を退院した。しのぶと蝶屋敷の皆にお礼を言い、荷物を背負い歩く。
 鬼殺隊を退くことはすでに当主である産屋敷耀哉には手紙で伝えてあった。自分の荷物などいつも身につけて持ち歩くもの以外何も無い。一般隊士が使う共同の住居へ残りの荷物を取りに行く。基本的に任務へと出向いているため、そこには殆ど人はいない。全ての荷物を風呂敷に詰め、一礼をしてからその場を離れた。


「迎えに行くって言っただろォが。勝手に出てんじゃねェ……退院しても、まだ完治してねェんだぞ」


 玄関を出てすぐの場所で、腕を組み門に背を傾けて立っていたのは実弥だった。任務から帰ったら迎えに来るとは聞いていたが、それがいつなのか分からず、長く蝶屋敷で世話になっていたハルは、退院できるようになったのだからベッドを空けなければと早々に出てきたのだった。
 完治はしていなくても歩く訓練もしなければいけない。そう何度も言っているのに、実弥は事あるごとに手を貸そうとしてくるのだ。


「もう、心配しすぎですって! ほら、だいぶ歩けるようになりましたし、蝶屋敷にこれ以上お世話になるのは申し訳ないので」
「だったらせめて俺に連絡してからにしろォ」
「どうせ連絡しても怒るでしょう?」
「チッ……ほら、行くぞォ」


 ハルの手から荷物を奪うと、それを肩に掛け歩き始める。今から向かう場所は風柱邸だ。実弥に会いたくて通っていた場所ではあったが、今ではそこに向かう意味が違ってくる。ハルは今日から、実弥と一緒に暮らすのだ。
 急に襲ってくる緊張で歩く足が止まる。不思議に思った実弥が振り向いた。優しい声色が落ちてくる。


「少し…少し緊張してまして……」


 馬鹿がァ、何度も来てる場所だろォ。なんて茶化されると思っていたハルだったが、実弥からそんな言葉は聞こえなかった。


「…いいんじゃねェか。まぁ、お互い様だ」


 そう言うと実弥の手が伸びてきて、もじもじと両手を合わせて弄っていたその手を掴んで歩き出した。
 その横顔は赤く、実弥も照れているのだと分かるとその緊張も解れていく。今までハルの一方的だった想いが重なり、こうして目に見えて分かるとまた違う鼓動を運んでくる。
 その大きな手を握り返し、ハルの口から想いが零れていく。


「…好きです、実弥さん」
「知ってる」
「わたし達、夫婦になるんですね」
「あァ、そうだ」
「今日はもう任務はないんですか?」
「…今のところはねェな」
「では、今宵は初夜ですね」


 言葉が詰まってグッと実弥の喉が鳴る。顔を赤くした実弥がハルの方を向き、「そういう事言うんじゃねェ」と照れるから、ハルも同じくして顔を赤くしながらも顔が綻んでいく。
 こんな表情を見られるのは、きっと継子なら無理だっただろう。ハルは継子になることで実弥の近くにいようとしたけど、それではハルの心はきっと満たされなかったなとその顔を見て思った。


「この先どんな事があっても、わたしは実弥さんのそばにいます。離れません。覚悟しておいてくださいね!」
「お前がしつけぇことはもう知ってる。言っとくが、俺も相当諦めが悪ぃらしい。覚悟しとけェ」
「そんなの最高じゃないですか!」


 笑顔を向けたハルに照る陽の光。そこに影ができたかと思えば、実弥の唇が優しくハルのそれに触れた。
 心音が耳元で鳴っているかのように激しくなるも、こんなにも幸せな瞬間があるのだと初めて知った。


 藍沢ハル。
 本日、風柱の妻になりました。


―part one Fin―

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