12.幸せです。

 風柱邸についてから案内された部屋には、真新しい着物と寝間着、それから文机が置かれていた。ハルがこの家に来た時に困らないよう、実弥が事前に用意していたものだった。


「ハルの好みが分からなかったから適当に選んだが…気に入らなかったら、」
「ううん、嬉しいです! わざわざ用意してくださってありがとうございます。それに部屋も…わたしは無くてもいいのに」
「部屋は余ってんだ、構わねェ。それにお前は使用人でもなく俺の、妻だろォが。余計な気を遣うな」
「優しいですね、実弥さんは」


 ハルの言葉に照れた実弥は、「荷物の整理でもしろォ」とハルの頭をクシャッと撫でると居間の方へと行ってしまった。
 鼓動が心地よく程よい速さで胸の内を叩く。荷物を広げると、ハルから深い溜め息が零れた。
 この数ヶ月で色んなことが目まぐるしい勢いで変わっていった。自分はきっと、鬼殺隊として一生を終えるのだと思っていた。怪我はしたもののこうして今も生きている。そして、風柱の妻になっている。
 そんな事をぼんやりと想いにふけっていると、じわじわと多幸感が押し寄せてきた。夢にまで見た、夢のまた夢だと思っていた幸せの中にいるのだと思うと、今すぐそれを伝えたかった。


「実弥さんっ!」
「うおっ、」


 部屋を出て実弥の元へと向かう。縁側で刀の手入れをしようと胡座をかいていたその背中に思い切り抱きついた。
 大きくて手が回らない程の鍛えられた身体。ずっと触れたいと思ってた大好きな人の温もり。今の状況が嘘ではないと教えてくれる心音。


「ありがとうございます…わたし、今とても幸せです。実弥さんのそばにいられて、とても」


 背中に顔を擦り付けながら小さく呟く。ガチャリと刀を置いたような金属音が聞こえたかと思えば、ハルの手に重ねるように実弥の手が触れた。


「こんな日が来るとはなァ。俺自身も信じられねェと思うが、俺はこの手を離したくなかった。俺も、同じ気持ちだ…」


 実弥の身体が少し動き腕を引かれる。簡単に実弥の開いた隊服の中に身体が収まり、強く抱きしめられた。
 そのまま顔を上げると、眉を下げ口許を緩ませて微笑む実弥がいた。彼の名前を囁いたハルの声は空気に触れた瞬間、実弥によって奪われた。
 この唇に触れるのは何度目だろうか。この先もずっと、数え切れないくらいこの温もりを感じていたい。
 ハルが実弥の羽織をキュッと掴む。啄むような口付けを繰り返したあと、苦しくなって大きく息を吸い込んだハルの口内に、実弥の舌がにゅるりと入ってきた。
 驚きと興奮と心地良さで、ハルの口端から妙な声が漏れる。初めての感覚に心と身体の奥が震える感覚になった。


「顔が硬ぇぞ…引き攣ってる。俺はお前がいいっていうまで、」
「ううん、大丈夫。緊張はしてるけど、実弥さんが触ってくれたら安心するから」
「……あんま煽んじゃねェ」


 ハルの緊張を解きほぐすかのように、実弥が頭を撫でる。それから優しくて熱いその唇で、何度も何度も口付けをした。

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