隠れ恋愛体質

「すみません、ハル先輩に合コンなんて。急に欠員が出たんですけど彼氏がいない人が見つからなくって…ただお酒美味しいお店なので楽しんでくださいね!」

 オフィス街から少し離れたお洒落なお店に向かう途中に、本日の合コンに私を誘った後輩からそんな言葉をもらった。
 偶然にも彼女と街で再会したのは一か月前のこと。同じバイト先で、歳が離れてはいたけど懐かれていた記憶があり、思い出話に花を咲かせて、その時彼女に「彼氏はいない」と答えた記憶が蘇る。
 頼まれたら基本断れない性格で、きっと人数を合わせなければ彼女の立場が悪くなってしまうのかも、と考えを巡らせた挙句、私はこうして合コンに参加することにしたのだ。

 昔から内気で人見知りな性格だった。取っ付き難いと言われることも多かった。本当は、クラスの人気者達みたいにはしゃいだりしたいという願望はあっても自分には出来ず、根が真面目な所が常にそれを邪魔していた。
 そんな私は大学に出ても社会に出ても、新たな自分を開花させる暇などなく、バイトに明け暮れ仕事に邁進し、気づけばキャリアウーマンという肩書きを手に入れることになってしまった。
 よく周りから「恋愛よりも仕事が好きそう」なんて言われる。でも実際はそんなこと無くて、少女漫画は好きだしドラマを見ればキュンとだってする。
 本音では恋がしたい。彼氏を作らないのではなくできない。恋愛をしたくても出来ないから仕事に時間を注いだ結果が今なのだ。決して恋愛したくないわけではない。むしろ、優しくされればすぐに惚れてしまうような恋愛体質だと思う。
 それを無意識に隠すようになったのは、自分の年齢がアラサーと呼ばれる結婚適齢期になっているからだろう。

「…あ、美味しい」

 それ故に、合コンなんて場違いだろう。後輩とは5歳の年齢差がある。だから当然その場にいる面子も若い。もう恋愛を楽しむ年齢ではなく、結婚前提の付き合いをする年齢。そう簡単に踏み込んでいけない。
 その言葉を飲み込むように美味しいお酒を流し込む。お酒に強い女はモテない。それも分かっていたけど、弱さを見せることが苦手だからか、そんな些細な演技も出来なかった。

「もう一人の方はまだ来ないんですかぁ?」
「あぁ、もうすぐだって連絡来たけど」

 そんな会話が耳に届く。私の前の席は空いていて、仕事で遅れているらしい。それなら私は最初から不要だったわけで、人数を合わせなくても良かったんじゃないかな。盛り上がる人達に断りを入れてトイレへと立ち上がる。
 戻るのが気が重い。これなら一人で家飲みしていた方が良かった。帰ろうかどうしようかとトイレを出てから考えていると、すれ違った酔っ払いに肩を当てられ身体がよろけた。
 ヒールがつっかかり倒れそうになった身体は、壁に当たることも無く、むしろ温かな手によって支えられた。背中から両腕を掴まれ、「大丈夫ですか?」と耳元で聞こえた声に慌てて振り返る。

「す、すみません…」
「いや、ぶつかったのはあちらであろう。謝りもせず失礼極まりない。貴女に怪我などなくて良かった」

 私を支えていたのは、端正な顔立ちをしていた男性だった。凛々しい眉が印象的だ。異性に触れられる事など久しくなかった私には、助けてもらうためとはいえ、両腕に触れる温もりに胸が高鳴る。
 大きな瞳が私を捕え口許に笑みを湛えると、私の心臓は簡単に跳ね上がる。この恋愛体質が憎い。
 きっと顔が赤くなっている。私はそれを隠すようにお礼を言ってその場を離れると、私の存在を忘れているであろうテーブルにつく。
 もう帰ろう。後輩の所にそれを伝えに行こうと、上着を取り立ち上がると、さっきの男性がコツンと靴を鳴らして近づいてきた。

「遅れてすまない。おや、もう帰られるのか?」
「あ、えっと…」
「仕事が終わらなくてな。煉獄杏寿郎だ」

 清々しい程の挨拶に、女性陣が色めきだったのは言うまでもない。

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