あなたの全てに心が鳴る
彼のマンションに向かう途中にコンビニに寄って必要なものを買い揃えた。こういう時、私も大人になったなと思う。心臓はずっと激しく内側から叩いているけど、脳は冷静に働いている。学生のように勢い任せというわけではない。
会計を済ませてから雑誌コーナーで待っていた彼に声を掛ける。すると、「先に出て待っていてくれ」と先に外に出るように促した。一瞬疑問に思うも何も考えずそれに従い、店内の彼の動きを見て察知し一人顔を赤面させた。
私が下着を買うのを分かっていて離れて待っていてくれたり、避妊具を買うのも同じタイミングでレジに行くことにならないようにと考えてのことだろう。その行動を経験豊富と思うのではなく、彼の性格からくるものなのだろうと思えるのは、まだ出会って間がなくても彼の誠実さにたくさん触れてきたからだろう。少し前の私なら、不安に思っていたかもしれない。でも彼の想いに触れ、離したくないと言ったあの瞳に、そんな不安を感じる余裕なんてなかった。
「少し散らかっているかもしれないが…」
鍵を開け、先に私を部屋へと入れてくれる。さりげない紳士的な行動も、私の胸を甘く鳴らす要素となってくれる。
男性の一人暮らしの部屋は思い返せば初めての経験だった。部屋に入るだけでも緊張するのに、これから起こるであろう出来事を想像し、今にも心臓が口から飛び出してきそうだった。それを誤魔化そうと、小綺麗にされている部屋を見渡し、「散らかってなんていない」と伝えようとした私を背後から大きな温もりが包み込む。
彼に後ろから抱きしめられているのだと理解するまで少し時間を要した。たぶん心臓が一瞬止まっていたのかもしれない。
「すまない…がっついてると分かってはいても抑えられそうにない。ずっと貴女に触れたかった」
こんな言葉、人生で貰ったことない。きっとこの先もないだろう。それ程までに私の胸を熱くさせ、心も身体も疼かせる。
年上なんだから、という言葉が彼と出会ってから常に脳裏に浮かんでいた。年上なんだから冷静に。年上なんだからリードして。年上なんだから甘えてはダメだ。年上なんだから…と。
だけど本当は、恋をすると甘えたい。ずっと触れてたい。今まで私自身も気づいていなかった本心が彼の熱に触れて開放されていく。
巻き付く彼の太い腕に手を添える。彼の甘く熱い吐息が耳朶を掠め、触れた私の手にもう片方の彼の手が重なった。
「抑えられないのは私のほうかもしれません。煉獄さんに出会ってからずっと、私の心臓が壊れたみたいに動いてる。今も緊張して吐きそう。だけど…私もずっと触れたかった。れん……杏寿郎、くんに」
首を少し動かし振り向けば顔を赤らめている彼と視線が絡む。でもその瞬間、押し付けられた熱い唇。にゅるりとすぐに入り込んできた舌が感情を流し込むかのように動き回り、私の舌を追いかけてくる。
息をしたくて離そうと思っても、彼の腕が腰に巻きついて引き寄せるからそれが出来ない。顔を上げ少し背のある彼からのキスを、全身で受け止める。その熱が離れたのは、私のお腹に彼の熱くなっているものがしっかりと当たるようになった頃だった。
お互いの顔は紅潮し唇は唾液で光り、熱い吐息が顔を撫でる。
「もっと呼んで欲しい…ハルさん」
熱を持った雄々しい表情と、私に名前を呼ばれて喜んでいるような表情とが混ざりあっている。
あ、可愛い。やっぱり年上だからだろうか、彼のそんな表情に母性も擽られているのは確かだった。
「杏寿郎くん…好きよ」
「俺も大好きだ。愛してる…ハルさんが欲しい」
本当ならシャワーを先にと思っていたけどその行程さえ煩わしいと思った。早く彼に触れたい。彼の愛を感じたい。
唇を重ね合わせながら、彼に誘導されるがまま寝室へと移動し、そのまま大きなベッドへと雪崩れ込む。ふわりと甘い柔軟剤の香りが私達を包み込んだ。