10.レイラを支える客

今日は太客との同伴だから、お店とは違う少しタイトなワンピースでレイラは出掛けた。
同伴は開店前に客と買い物や食事をしてから少し遅れて一緒に出勤する。店に着いたらドレスアップしたレイラとの時間を楽しめる。
特別感を味わえるようにと、客の好みに合わせた服装をするのがレイラのポリシーだった。
開店前の打ち合わせは、レイラのスマホに事前に送っておく。客は一人ではない。3号店の話が広まり、昨日よりも客は来るだろう。

「今日も売上いきそうですか」

背後から聞こえた声に、いつも以上に反応してしまうのは昨日のアルミンのせいだろう。
私は振り返ることなく、「レイラさんなら大丈夫です」と静かに答えた。

「昨日は遅くまでいたのですか?」
「いいえ、スケジュール確認を終えてからアルミンに送ってもらいました。もう、歩いて帰るなんてことはしないので大丈夫ですよ」
「そういうつもりで聞いてるわけでは…」

何かを言おうとした七海店長の言葉に被さるように、控え室から出てきたリンが彼の名を呼ぶ。

「相談があって…昨日話したことなんだけど」
「昨日…?分かりました。それならミーティングルームで話しましょう」

リンの言葉によって私達の会話は終わりを告げた。リンを差し置いて私の会話をする事なんてない。
私を一瞥するリンの顔から「邪魔だ」と言わんばかりのオーラを感じる。絡まる腕から視線を逸らせない。
二人はもしかしたら付き合ってるのかもしれない。いつまでリンと一緒にいたのだろう。リンの部屋に上がって話をしたのだろうか。いつまで…朝まで?

「……」

一度は口を開いたけれど、私は何も言わずに二人に頭を下げてからその場を離れた。
戻るのを待ってました、なんて口が裂けても言えるはずなんてないのに。





CLUBローゼが開店してすぐ、入口が騒がしくなり急いで向かう。まだ同伴で来るには早い時間だ。

「やぁ!レイラはいるかい?」
「ハンジ少し静かにできないか…」
「エルヴィン様、ハンジ様。ようこそCLUBローゼへ」

深々と頭を下げた先にいるのは、レイラの太客であるエルヴィンとハンジだった。この時間の来店は珍しい。
エルヴィンは名のある政治家で、ハンジは大学病院の教授だ。二人は旧知の仲である。実はこの店のバックであるリヴァイからの紹介なのだが、マフィアとの繋がりを知られては困るからと、これはオーナーと店長、それからレイラしか知らない事実だった。
そして、私が女であるということを唯一知っている客である。

「申し訳ありません。本日レイラは同伴でしてテーブルに付かせて頂くまでにお時間が掛かるかもしれません。いかがいたしますか?」
「構わないよ。ハンジと話があるしね。他の人をテーブルに呼ぶ必要もない……頼むものはすべて、レイラに付けておいてくれ。まだ早いが、3号店の祝いだ」

エルヴィンが腰を折って私に耳打ちする。さすが、情報が早い。恐らくその事があったからハンジと一緒に来店してくれたのだろう。

「お気遣いありがとうございます。では奥のテーブルをご案内いたします。レイラが来たらご挨拶させていただきますので」
「そうだ藍沢、知ってる?マリアの新人。場内指名をいくつも取ってるらしい。ヒストリアが警戒してるって噂だよ」

フレンドリーに肩に腕を回され、ハンジが私に教えてくれた噂。
それはまだ、ローゼのキャスト誰一人知らないものだった。

novel top / top