12.女王の貫禄
「おいリンちゃんまだかよおおおおお!」
あーやっちゃった。というかまだあの人テーブルについてから5分しか経っていないのに。いつもああやって叫べばリンが来るからってそうするの、いい加減やめて欲しい。
ナナバと顔を合わせて苦笑い。七海店長が早足で私たちの横を通り過ぎて行く。
勿論ながら当のリンは太客のお相手だ。あの
膝を着いて頭を下げる七海店長を見て、どうにか私も手助けできないかと思った所だったんだ。
「失礼致します。レイラと申します。一杯わたしとお付き合いいただけますか?」
胸元の大きく開いた黒のシックなマーメイドラインドレスの裾をひるがえしてリンの指名客のテーブルに入ったのはナンバー1のレイラ。驚く私を見て「大丈夫よ」ってレイラの目が言っているのが分かった。
「東様、こちら当店ナンバー1のレイラでございます」
すかさずそんな言葉を発する七海店長に、客の東はナンバー1って言葉にほんのり目を輝かせた。
だけどすぐにハッとした顔に戻って、「俺は騙されないぞおおお!!」なんて今にも暴れ出しそう。だからか、レイラのボーイ、ジャンが馬面を思いっきり
「あのお方に相談されているのですよ、リンは。…貴方との事を…」
そこまで言ったレイラは今度は声を潜めて東の耳に顔を寄せる。そこで私たちには聞こえない声で何かを言うと、東の顔が見違えるかのように真っ赤になったんだ。
上機嫌になった東と一杯きっちり飲みきったレイラの所に「失礼します。レイラさんお願いします」ジャンが手を差し出して待っている。わざわざ手なんて差し出さなくてもいいのにそれをやるジャンは私から見たら下心丸見えだ。
「東様、とても楽しいひと時でした。もう少しだけリンをお待ちくださいね」
「ああ、そうするよ。えっとレイラだっけ?次は君を指名してもいい?」
「ふふふ。ではリンには内緒でお待ちしております」
ものの数分で東の機嫌を直し、更には自分の方へと持っていってしまう。流石はナンバー1だと思えた。
「…たく、無茶しすぎだぜレイラさん。あんなのほおっておきゃいいのに」
「ご心配なく。藍沢、東様にフルーツの盛り合わせ付けといてあげて、私からで」
キャストのマイを移動させていた私にレイラが指示を飛ばした。そうくると思っていたから私はすぐにファーランに伝えた。
「さすがですねレイラさんは」
厨房の奥で一息つく私の所にカツンと靴音をたててやってきた七海店長。銀の眼鏡を人差し指で押し上げると、自由に飲めるように用意されている烏龍茶をゴクリと飲み干す。喉仏が上下に動いてなんだか妙に色気を感じてしまって、それに気づかれたくなくて目を逸らした。
間接照明のお店はわりと暑く、ベストだけのボーイと違って私とナナバの黒服はジャケットを羽織っている。遠くから聞こえてくるキャストや客の笑い声に紛れて、七海店長が私を呼んだ。
「藍沢さん。大丈夫ですか?少し顔色が悪い」
「え、あの」
七海店長の手がふわりと私の額に触れる。今日は少しキツめにサラシを巻いたせいか、ちょっとばかり空気が薄く感じてしまっていて…
「あの平気です」
そう言うも口の中が乾いて喉が痛い。あ、ヤバい。…周りの音が遮断されて左右の視界から黒い闇が迫ってきて私はしゃがみ込んだ。
気づいた時には七海店長に抱き上げられて控え室のソファーへと連れていかれた。