04.シャンパンタワー
カウンターの奥にある厨房にいたファーランに「エンジェルブルータワー一つお願いします」手短にそう告げた。初っ端タワー入れちゃうレイラは格が違うというか。
開店して20分以内にタワーが入ると、その日は必ずタワー合戦が始まるのがお約束だった。だから、厨房ではそのタワーをひたすら造るバーテンダー兼調理師のファーラン。その横で手伝っているのはキャッシャーのマルコ。なんならそのまた後ろでヘアメイク担当のペトラまでもがタワー造りを手伝っていた。
「げ、もうかよ!?ブルーってレイラさん?」
先程五条オーナーに忙しくなる事を告げられて散々顔を
エンジェルブルーはブリュットヘイローというシャンパンで、漆黒のボトルに天使の羽、さらに色鮮やかなラベルの特徴的なデザインだ。LEDでキラリと光るボトルはテーブル映えすること間違いなしだから、例えばキャストの誕生日だったり記念日的な時にこうしてシャンパンタワーでお祝いする事が多かった。
車の付いたカートでタワーを運ぶボーイのジャン。
それが近くを通ると皆注目を浴びる。ナンバー1の席は一番奥に控えてある為、店の最奥まで行く間に釘付けになる客を見つけると、すぐ様私はスッと膝まづいていたのを立ち上がるとキャストのところに耳打ちしに行く。
「サクラさん。橋本様、いかがでしょうか」
「ええそうね」
お客が呆気に取られている間にそう告げてまた場所を移動する。
うちのナンバー3のサクラさんの常連客橋本なら、同じタワーを入れてくれるはずと睨んで耳打ちした。
キャストは勿論であるが、黒服はそのようなほんの些細な客の顔色も読めなければ務まらないと教わった。
本当なら同じ土俵に立って頑張りたかったけれど、人を持て成すというのは適当な心構えでできるもんじゃないと。ここにいる夜の蝶達は皆、それぞれ立場も立ち位置も違うけれど、その本質だけは揃って持っている。
それが例え野心だろうと、酒好きだろうと。
借金を抱えている自分はなりふり構っていられる立場じゃないと言うのにそれができなかった。けれどゆき乃さんだけはそんな私を見捨てる事なく助けてくれた。私が生きる道を付けてくれた。だから絶対にゆき乃さんのナンバー1は守ってみせる。
「お待たせ致しました。こちらの不死川様より当店ナンバー1のレイラへ、エンジェルシャンパンブリュレットヘイローのブルーカラーをいただきました」
ジャンがドレスと同じ色の蓋の空いたシャンパンボトルをレイラに手渡すと、レイラは実弥の頬に小さく口付けた。
「不死川様と、素敵なひと時を…」
そう言って塔のてっぺんからそのシャンパンを掛け流す。数本使ってタワー全部を埋めたグラスを一つ取ると、レイラは少しだけ声を張って「カンパーイ!」と綺麗なソプラノボイスを響かせた。
ふわりと鮮やかなブルーのドレスが揺れて、眩しかった。