07.心配性なマフィア
「隣の界隈の江戸川組がここ最近うちの界隈を荒らしてやがる。もしかしたらこの店にも顔を出すかもしれねぇ。その時はすぐに俺を呼べ」
「あーなんかちょっと下が噂してたかも。物騒だよねぇ最近。ゆき乃は大丈夫?…たぶん状況からいって一番狙われ易いのはゆき乃だよ」
五条オーナーの言葉に苦笑い。そしてリヴァイに合わせて私をレイラではなくゆき乃と呼ぶのも五条オーナーだけだ。そもそもリヴァイをVIP以外に通すことはまずないし、そこでならレイラと呼ばれなくとも他の客に私の名前が伝わることなどなかった。
ソウメイのロゼがくるまでに…という事で、ルイ・ロデレールのロゼをコポコポとグラスにあける。リヴァイはロゼがお気に入りだった。
グラスを私から受け取るとコツっと私のグラスにくっつけてから飲んでくれる所に、小さな優しさを感じてしまうなんて。
「今の所は特に代わりありません」
「ならいいが、近いうちにこの店にも来るかもしれねぇから、くれぐれも気をつけろよ。ゆき乃を頼むぞ五条」
「分かってる、分かってる。心配性なんだからリヴァイは。まぁでも僕はシーナ行きのキャストを選別しなきゃならないから、ゆき乃の事は七海と藍沢にも伝えておくよ」
「そうしろ」
ニッコリ微笑むオーナーと、ニコリともしないマフィアに背筋がぞくりとしたなんて。
暫くすると、リヴァイの注文したシャンパンタワーが届く。今日一の高級シャンパンでのタワーに、お店の中は大変賑わった。
さすがにリヴァイと同じシャンパンタワーを入れられる客は今夜はいなかったようで、終わってみればお店の売上は平日なのに週末のようにぶっ飛んでいた。
シャンパンタワーのせいで、キャストの一人であるサシャが酒を飲みすぎてフロアに転がって大の字で寝ている。それをコニーが抱き起こして連れて帰ろうとしているのが見えて笑ってしまう。いつもの光景にホッとしてるのも束の間、ボーイのエレンと黒服のナナバが言い争っている声も聞こえてきた。というよりかは、ナナバがエレンを叱りつけている。
ボーイを取り締まっているのは黒服で、ナナバとハルの言う事を聞かなくてはならない。それをこのエレンはよくよく無視して自分でキャストを動かす。そうすると全体の動きが狂ってしまって、うまいこと動かせない場合が出てきてしまう。今回はナナバとハルのファインプレーで特に問題なく回せたけれど…
「要注意ですねエレンは。ちゃんとナナバの言う事を聞かないとダメですよエレン」
さすがに七海店長に言われたらムスッとしながらも「了解です」なんて不貞腐れている。
これがいつもの風景で、いつもの日常だった。
実弥と今日来てくれた常連さんには忘れることなくお礼と謝罪のメッセージを送る。そして、プライベート風な自撮りも添えて。こうするとわりとすぐにまた来てくれる。
「レイラ、送るよ〜」
スタッフルームの外から五条オーナーの声がして立ち上がる。終電のなくなったこの時間、キャスト一人一人を自宅まで送っていくのもボーイ達の立派な仕事で、ナンバー1の送りはこの五条オーナーと決まっている。どの道ハルと一緒に住んでるんだから最後にハルと一緒に帰るよ!って言ったものの、これはこれで仕事だからと断られてしまった。
「藍沢お先に〜」
売上金が合わないのか、キャッシャーのマルコと七海店長と話し込んでいるハルに声をかけると「あ、お疲れ様です」ふわりと短い髪を揺らした。