奇妙な生活
その日から私とドラケンの奇妙な生活が始まった。
一先ず身元を把握して信用の可否を判断して、と色々と考えてはいたものの、遅い時間に外に出て次の日マンションの隣の公園で私が出勤するまで待っていた彼の姿を見て、まぁいいかという気持ちになった。
ドラケンの生い立ち、そして住居がファッションヘルスだと言うことは彼から話してくれた。正直驚いたけれど、それよりもっと私を驚愕させたのは、その話を笑って話すドラケンの姿だった。
それと同時に納得した。どうしてこんなに大人びているのか。単純に体格だけの問題ではなさそうだ。
「今日は集会だから帰らねぇ。戸締りしっかりしとけよぉ」
「それドラケンが言うセリフ?」
「それもそうだな」
「12時までは起きてる。それまでに終わるなら帰っておいで」
ドラケンは、不良というか暴走族の一員だった。稀にこうして特攻服というやつで外に出るからだ。その大きな背中には「東京卍會」と刺繍が入っている。まぁ刺青が入ってる時点で、勉学に励むような学生ではないことは把握していたけれど。
私はそれに関しては何も聞いてない。聞けば話してくれるだろうけど、会話の端々で分かる情報だけで十分だった。知ったところで、私には関係ない。
夜出掛ける事も咎めていない。でもまぁ小言はいってる。少年の非行を完全に見て見ぬふり出来る程、私は不真面目ではないからだ。まだ鍵を渡していないから、夜遅く帰る時はファッションヘルスの家に帰っているらしい。朝に帰ってきたり、夕方待っていたりする。
きっと彼にとって私もこの場所も、ただの暇つぶしなのだろう。
「俺がいなくて寂しいのかぁ?」
「……どうだろ」
「あ?」
「なーんてね! ほら、いってらっしゃい」
背中をバシンと叩く。面倒くさそうな靴を履いて立ち上がると、ドラケンは私の方を向いた。見上げるほどの高身長、切れ長の瞳。こうして真顔で立たれて見つめられると、その背後にある理性を保つための材料が霞んでしまいそうだった。
「ハル…」
伸ばされる手が私の頬に触れ、それから後頭部へと回る。近づく顔に、この先の展開が分かる。それでも私はそれを拒否することはなかった。唇を寄せて軽く触れる。それから啄むようにまた唇を重ね合わせ舌を絡めた。
ドラケンとの生活で、最初の時以来、身体を重ねることはしていない。彼も手を出してこない。だけどキスはしてくるし受け入れている。もしかしたら、私が与えてるものへのお返しのつもりかもしれない。ギブアンドテイクってやつだ。
「行ってくる」
赤の他人の中学生を住まわせるなんてどうかしてる。そんな事は分かってる。男に振られて寂しくて人恋しくて、その穴埋めにしているなんて私は最低の大人だ。そんな私が彼に何かを言う資格なんてない。
背後に感じた温もりに目を覚ました。いつの間にか寝てしまっていたのだろう。ソファに居たはずの私がベッドにいる。体の向きを変えると、そこには髪を下ろしてタンクトップ姿で私を抱えているドラケンがいた。私が動いたからだろう。閉じていた瞼がゆっくり上がる。
「ばぁーか」
「…へ?」
「戸締りしとけっつったろ! 俺じゃねぇ奴が入ってきたら犯されてんぞ」
「あれ、オートロックは…」
「あン? 裏口は暗証番号入れりゃ入れるって言ったのはハルじゃねーか」
私の額を指でぐりぐりと押す。加減してくれてるのかは知らないけど、結構痛い。
「痛いんですけど…」
「痛くなかったら意味ねぇだろ」
「おかえり、ドラケン」
「…ぉう」
もしかして私のために早く帰ってきてくれたのかと勘違いしそうになる。ただ集会とやらが早く終わっただけなのかもしれない。
それでも、小さく「ただいま」と零し、私を抱き枕のようにぎゅっと抱えている大きなドラ猫は少し照れているようにも見えた。