交わる情
「ちょ、ドラケンっ……そんなとこ、ん…汚い」
鋭い眼光を私に向けたまま、あろう事か私の足の傷周りをペロリと舐める彼に頭がクラクラした。未だかつて過去の男に足なんて舐められたことない。だからそこが甘く疼く場所だなんて知らなかった。
「あ? 別に汚くねぇよ。それより感じてんの?」
「ちがっ……ぁ」
「…もう、限界だ」
そう呟くように吐き出したドラケンは、私の足を下ろすや否や体を寄せて顔を近づけた。吐息がかかる程の距離で一瞬止まるも、私の名前を小さく呼んだあとにその距離を縮めた。
噛み付くように私の唇を塞ぎ舌を絡める。いつもよりもなんだか余裕がないというか強引な感じがして、それが私に不安を与えた。押し返そうとした手は掴まれそのままソファへと優しく押さえつけられる。片膝をソファについて、私に覆い被さるようにキスを続けるドラケンの手が静かに服の中に入ってきた。
「ダメ、ちょっと…ドラケンっ…」
「キスは良くて体はダメってか?」
言われてズキンと胸が痛む。ずっと見て見ぬふりをしてきた自分の行いを咎められている気分だった。中学生だと知ってから一線を越えないようにと思っていた。だけど与えられる唇の熱を拒否することなく受け入れて、いざ体を求められたら拒否するなんて、相手が中学生とか関係なく虫のいい話だ。
そして、拒否して初めて自分がその温もりを求めている事に気づいてしまった。きっと、私が無意識に抗っていた理由はこれだろう。もう一度体を重ねたら、きっと均衡を保っていたものが崩れてしまう気がした。未成年相手に、本気になってしまいそうで怖い。それでも、触れている彼の手を私は離せない。
「はぁ〜……分かった、悪かっ、」
「……ぃこ」
「あン?」
「ソファ…狭いから。ベッドがいい。連れてって」
私から離れようとした彼の服を掴んで止めたのは、完全に勢いだった。あとで後悔することになるかもしれない。それでも、いまドラケンが離れてしまう方が寂しい。中学生だからとか、本気になってしまうからとか、そういう邪念をすべて脳内から消してくれる魔法があればいいのに。
「ハルおまえ……可愛いわ、そういうとこ」
そう口許を緩ませて笑うドラケンに、心臓が甘く痛む。その余韻に浸る間もなく、彼は私を抱きかかえると軽々とベッドへと運び下ろした。
以前よりも自分が何をしようとしてるのかハッキリとしている意識。だから私を見つめるドラケンの視線に体が熱を帯びていく様子も手に取るように分かって、それが更なる羞恥を運んでくる。完全に私の方がテンパってる。私に触れ服に手をかけていくドラケンに、無駄に饒舌になる。
「私ね、付き合ってた人に騙されてたの。奥さんがいる事も知らずに付き合ってた。子供ができたからって振られて……んっ、ぁ…」
「今からお前抱こうとしてる男の前で、知らねぇ男の話するたぁいい度胸してんじゃねーか」
「それがあの日…君のこと拾ったあの日なの。私ね、ドラケンのこと利用したんだよっ…」
そして今も、利用している。最低な女だ。ふとした瞬間に思い出してしまう。騙されたのに、偽物の愛だってのに。私はまだ何も吹っ切れていない。それなのに――
「いいじゃねーか」
「…え?」
「俺の手を取るのに理由が必要だったんなら、いくらでも利用されてやるよ。ハルが最低な女でも構わねぇ。寂しさ紛らわす道具でも何でもなってやるよ」
「ドラケン…」
交わる視線にドクンと大きく心臓が動く。それがドラケンの本心なんだと鵜呑みにはしていない。いつも凛々しく上がっている眉が少し下がり、悲しそうな顔をしたから。そう見えただけかもしれないけど、何となく、何となく。
「拾ったのが、ドラケンで良かった」
気づけば私は、彼の頭を抱えるようにして抱きしめていた。胸に彼の顔が当たってるとかそういう事はどうでもいい。何故そんな風に抱きしめたのかは分からない。だけど、本当にドラケンがあの日いてくれなかったら私はもっと堕落していたと思うから。もっと彼を、奥さんを、その子供を…恨んでしまっていたと思うから。
「あったけぇなハルは」
「ドラケンだよ、温かいのは。すごく心地いい」
無意識に頭を撫でたら、胸の中で「ガキ扱いすんな」って怒っていた。だけど上げた顔は怒ってなんていなくて、むしろ笑っていて、真顔になると同時に私の唇を優しく塞いだ。
体がベッドに沈んでいく。触れられる場所すべてが熱くて、吐息と共に声が漏れてしまう。
今日は雨が降っていない。だからだろう、自分の声が耳に響いて恥ずかしい。声を抑えようと手の甲を唇に当てていたら、ドラケンがその手をベッドに押さえつけた。
「抑えんなよ」
「…ん、だって……っ、恥ずかしい」
「それ、煽ってるって分かって言ってんのか?」
吐息が混ざる声で囁かれれば耳さえも甘く痺れてくる。全身彼の毒牙にかかってしまったかのようだ。気づけばもう、余計なことは何も考えられなくなっていた。
「ぁっ、ドラケンっ…ゃあ、あっ、そこっ…」
「……っ、いい眺めだなっ…」
突き上げる刺激に、私は漏れる声を抑えられなかった。私を強く優しく抱く彼は私の名前を囁き、時折喉を鳴らしながら顔を歪ませて快楽に耐えているようだった。
そんな彼に私の心臓は縮まる。そして新たな感情が生まれそうになるのを誤魔化すかのように、目を閉じて何度も彼の名前を呼んだ。