君に送る熱視線


 仕事が一段落し、息抜きがてら給湯室で先日手に入れた美味しい紅茶の茶葉の封を開けた。鼻腔を揺らす香ばしい匂いを肺いっぱいに入れる。それだけで気分も上がるってものだ。
 無意識に鼻で歌っていたのだろう。茶葉が蒸れるのを待っている時、突然背後から声をかけられた。

「何を呑気に歌ってやがる」
「リ、リヴァイ主任! お疲れ様です!」

 突然の上司の登場、しかも鼻歌を聞かれたとなれば羞恥が湧き上がる。一瞬で頬が熱くなるのに、背筋は冷や汗が伝う。何故なら、リヴァイ主任は手厳しい人だからだ。眉間に皺を寄せていることが多く、その視線は危険認知のレーダーでも付いているのかと思うほどに鋭い。部下のミスをいち早く察知することから、影ではそう呼ばれていた。
 仕事は出来るし普段直接関わることはないけれど、彼の部下でもある私からするとお気楽に会話ができるような相手ではない。
 ピシッと背筋が伸び固まったままの私をジロリと睨む。給湯室を使うのだろうか。いやむしろ私が何か入れて差し上げるべきなのか。きっとそうだ。

「あの、リヴァイ主任は何を、」
「――なってねぇ」
「へ?」
「そんなに蒸らしたら苦味が出る。せっかくの茶葉を台無しにする気か?」
「…え?」
「貸せ。淹れてやる」

 何が起こっているのか理解するのに時間が掛かった。リヴァイ主任が普段何を飲んでいるとかそういうのは全く知らない。例え知っていたとしても、こんな風に紅茶のウンチクを喋りながら私には紅茶を入れてくれるなんて事、誰が想像しただろうか。
 あの鋭い視線はそのままだけど、リヴァイ主任が好きな茶葉の香りを語り出したあたりで私は限界を迎えた。

「…ふふ……」
「あ? 何が可笑しい」
「いえ、可笑しいわけでは…ただリヴァイ主任のイメージが変わったというか…可愛いなって! そうだ、オススメの紅茶教えてください! 私も好きなんです、紅…茶……」

 最後まで言い終わらないうちに、気づけば給湯室の壁に追いやられていた。あまり身長差のないリヴァイ主任の顔が、私の顔の近くに寄る。脳内で「これが噂の壁ドンか」と冷静な判断をしているものの、実際は固まって何も反応できていない。

「土曜11時に駅前に来い」
「え…?」
「その発言撤回させてやる」

 その意味を理解し心臓が激しく脈打つ頃には、リヴァイ主任はカップに紅茶を注ぎ終え、自分用のカップを持ってその場から離れていた。





「紅茶淹れたよ!」
「あぁ、サンキュ」

 ほのかにフルーティーの香りがする紅茶を、仕事用の書類に目を通している彼に手渡した。それから自分もソファに座り一口啜る。隣から、「まぁまぁだな」なんて声が聞こえて思わず笑ってしまう。

「何笑ってる…」
「ねぇ覚えてる? 給湯室で初めて紅茶の話をした時…私のこと壁ドンしたの。その時のこと思い出して。後からあれがデートの誘いだったって知って、ますます可愛いなぁって思ったの、リヴァイのこと」
「おい、ゆき乃…誰が可愛いって?」

 カップをローデスクに置くと、私の顎を掴むように触れると前触れもなく唇を塞いだ。まるで食むように、これ以上言わせないと言わんばかりの甘ったるいキス。二人から同じ紅茶の香りがして、それがまた彼と同じ時間を過ごしているのだと実感できる。なんとも幸せな香りだ。

「その発言は撤回させてやるって言っただろう」
「覚えてるんだ?」
「当然だ…お前に近づくチャンスだったからな」
「いつから狙ってたのよ、私のこと」
「さぁな」
「密かに狙われてたなんて気づかなかったよ」
「何度も目が合ってたじゃねぇか」
「睨まれてると思ってた 」
「…ゆき乃」

 好きだ、という言葉の代わりにリヴァイの甘い口付けが降りてくる。言葉で言ってくれることもあるけど、こうして触れ合ってる時も彼の想いに触れられる気がする。
 リヴァイとのキスは、いつだって甘い香りが漂う。紅茶の香りを纏うそのキスは、媚薬のように私を熱くさせていく。

「好きよ、リヴァイ」
「このまま抱くぞ」
「いいよ…リヴァイの好きにして」

 切れ長の目を見開いたリヴァイの顔色が変わる。私の名前を呼ぶ度に、そこに彼の熱が込められているみたいに心に伝わってくる。愛されてるって全身で感じられる。
 リヴァイの左胸に手を添えると、速い鼓動が手のひらに伝わった。澄ました顔してるのに。
 視界がぐるりと回り背にソファがつく。真下から見上げるリヴァイの顔は惚れ惚れするほどカッコイイ。溜め息が出る程。それでも――

「ゆき乃…」

 愛おしそうに私の名前を呼ぶリヴァイを可愛いと思ってしまう私は、彼の強い愛から逃れられる日は一生来ないだろう。




(気づけばその笑顔に見惚れていた)

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