大きさより感度の方が重要だな
仕事帰りに本屋に寄った。目的は大好きな人に作る料理の腕を上げたいと料理本を探しに行ったのだが、目を引いたその表紙の文字にもう一冊手に取りレジに並んだ。
夕食を作り終えた頃、テーブルの上に置いていたスマホが小さく振動する。どうやら彼は少し残業をするらしい。お皿に盛りつけるのはもう少しあとにするとして、私は買ってきた本を取りソファに座った。
表紙は至って普通のファッション雑誌。その隅に書かれている文字の中にある『バストアップマッサージ』という私にとっては輝かしいページをいそいそと開き入念に読み始めた。
別に深い悩みという程でもない。だけど女の象徴ともいえるこの胸が私のコンプレックスでもあった。確かに昔は相当悩んだけど、大人になり恋人が出来ればその悩みは小さくなっていく。
ただ、先日買い物に出掛けた時に通った少しお洒落なランジェリーショップ。そこに並ぶ下着を見て、さぞかし豊満なバストであれば、身に着ける楽しさもあっただろうにと思ってしまっただけだ。
一通り読んだあと、彼が帰るまでの間にお風呂に入ろうとシャワーをし湯船に浸かる。一日の疲れを取るのはやっぱり熱めのお風呂だ。
湯船のお湯が私の身体を型どるようにまとわりつく。胸元を見てしまうのは癖だろうか。谷のないそこに触れ、さっき読んだマッサージをやってみる。
こんなので本当に大きくなるのだろうか。
「ハル、いま帰ったぞ」
「あ、杏寿郎! おかえり〜!」
私の声が浴室に響く。浴室の入口に立つ彼、杏寿郎の姿がぼんやりと見える。こうして帰ったらわざわざ声を掛けに来てくれる律儀な彼だが、いつもならすぐにその場を立ち去るはずが、その姿はずっとぼんやりと見えている。
服が汚れたのだろうか、なんて思っていたら、ガチャリと扉が開き、鍛えられた筋肉を携えた杏寿郎が入ってきた。
「…え?!ちょ、なに?」
「たまには一緒に入るのもいいかと思ってな!」
お風呂を一緒にだなんて恥ずかしい。明るいのに。慌てる私を他所に杏寿郎は頭からシャワーを浴びて一通り身体を洗う。まるでカラスの行水のような速さだ。そういえばいつも杏寿郎のお風呂は早い気がする。そんな事をぼんやり考えていると、洗い終えた杏寿郎が湯船へとその身体を沈めた。
お湯のかさが増し、胸元まであったお湯が肩に触れる。脚の間に私を入れ背後に座る杏寿郎から、「ふぅ」と心地よさそうに声が聞こえた。
「どうしたの急に。一緒にお風呂なんて」
「ハルと一緒に入りたかっただけだ。俺は毎日でもいいが」
「それは嫌! ほら、女には色々とあるし…」
ゴニョゴニョと言葉を続ける私に、杏寿郎が声を上げて笑う。浴室に響くその声はいつも聞くものとは少しだけ違う。耳だけじゃなく全身で聞いている感じがして、ちょっと変な気分だ。
「色々とは、これか?」
そう言いながら腰に回っていた杏寿郎の手がスルリと上に移動し、私のバストを包み込んだ。小さな私の手でも収まるのだから、杏寿郎にとってはもっと小さいに違いない。節触れだった指が、彼が入ってきたことで少し硬くなっていた胸の先に触れた。突然の甘い刺激に、身体が捩り吐息交じりに漏れた声が浴室に木霊する。
全体を包み込み優しく揉み解される。指先が先端に触れるたびに、硬さを増し主張が強くなっていく。無意識に反ってしまう背中を追いかけるように、更に私の背中に密着する杏寿郎の身体。耳元に顔を寄せられて、「気持ちいいか?」と甘く鼓膜を震わせる。
「ちょ…ぁん、杏寿郎ぉ……なに、急に…んっ」
「ハルこそ急にどうしたんだ。胸を大きくさせたいのか?ページが開いたままだった」
「んっ…、それは…っぁあ……」
なるほど、あの雑誌を見たのか。なんて脳裏では発している言葉も、甘い刺激に意味のある言葉なんて出てくるはずない。
耳朶を甘噛みされ、舌で縁取るように
「大きければ良いというものでもない。大きさよりも感度の方が重要だな」
「ぅんっ…ゃ、気持ち……」
「俺はハルのこの胸が、堪らなく愛おしいがな」
お湯の中で擦り合わせていた内腿に杏寿郎の手が触れ、すでに甘く疼いて蜜を
「君の魅力は、俺だけが知っていればいい」
顎を掴まれ塞がれた唇。愛おしそうに私の唇を啄む杏寿郎に、心までも甘く蕩けそう。
もう、小さな胸のことなんてどうでもいい。コンプレックスごと愛してくれる彼に、今日も私の心臓は甘く跳ね、彼が好きだと叫んでいる。
―Fin―