続き、どうしますか?


 カーテンの隙間から差し込む日差しで微かに室内が明るくなる。確か今日は土曜日だ。微睡みの中、手探りで枕元のスマホを探り、ぼんやりとした視界で時間を確認する。
 いつもの起床時間よりは遅いけどまだもう少し寝れそうだ。そんな事を考え寝転がったまま隣に視線を移すと、そこにはうつ伏せで枕に頬を寄せて寝息を立てている七海さんがいた。

「……わ、」

 思わず言葉が漏れそうになり慌てて口を手で押さえて声を飲み込んだ。
 恋人が隣で寝ていることなど至って普通のことだ。ただ、どんな時も隙がない七海さんが無防備に寝息を立てている事がわたしにとっては初めての光景だった。
 いつも朝食を用意してわたしを起こしてくれる彼が、上半身裸のまま、鍛えられた腕や背中を剥き出しにして眠っているなんて。

「……奇跡じゃん」

 起こさないよう小さな歓喜の声が漏れる。わたしは手に持ったままのスマホを手に取り、その奇跡の光景を写真に収めようとした。
 画面越しに見る七海さんも素敵だ。普段はメガネを掛けているし、外す時は眺めるなんで余裕がない時だから。これを撮ったらこっそり待ち受けにでもしよう、と口許を緩ませていたら、手元が狂い間違えて動画のボタンを押してしまった。
 ピッというわりと大きめの音がしてやばいと思って無意識に息を止めた。ただそれでも目を開けない七海さんに、わたしの悪戯心が湧いてくる。どうせ停止ボタンを押しても音が鳴ってしまう。それならこのまま録画してしまおうと。

「んふ…寝顔かわいい……あっ、」

 その声が出た時にはもう、わたしの視界がぐるんと回っていた。閉じていた瞼が開くのを画面越しに確認はしたが、スマホを隠そうとするよりも先に七海さんが動く方が早かった。
 わたしの両手首を掴んで組み敷き、その目を細めてその顔を近づける。

「何をしているんですか」
「あの、えっと…」
「貴女にそんな趣味があったとは知りませんでしたね」

 そう言ってわたしの唇を音を立てて塞ぐ。まるで食べられてるかのように啄むキスに、胸が甘い音をたてる。両腕を顔の横に押さえつけられてはいるものの、そこに痛みはない。
 柔らかくねっとりとした舌が唇の隙間から入ってきた。わたしの舌を見つけると、舌先で弄んだ後にじゅるりと吸われる。息付く間もなく口内を甘く刺激され、その唇が離れる頃にはわたしの頬は赤く染まり息も絶え絶えだった。

「七海さ…」
「続き、どうしますか?」
「え?」
「せっかくなので、この続きも撮りますか?」

 忘れていた、と頭でその言葉の意味を理解するも、再び塞がれた唇によって脳が痺れて何も考えられなくなる。キャミソールの中に入ってきた大きく骨張っている手が、布を押し上げて硬く主張しているそれを指で弄ぶ。呼吸と共に漏れた声は微かな喘ぎになって口端から零れる。ずっと甘く疼いている内腿を擦り寄せていると、「甘い香りがしますね」と七海さんは微かに口許を緩めわたしの脚に手を伸ばした。





 七海さんの脚に挟まれ身体ごと包まれるように抱きしめられている。その腕の中で目を覚ましたのは、日が空の真上に差し掛かっている頃だった。
 少し顔を上げると、頭上から「起きましたか?」と優しく甘い低音が鼓膜を揺らした。

「七海さん…わたし、また寝ちゃってた」
「朝から動きましたからね」
「もうっ、そういう事は…わざわざ言わなくていいんですよぉ…」
「照れてるハルも可愛らしい」

 しれっとそういう言葉をいう七海さんは狡いと思う。それでもやっぱり嬉しくて、その胸に顔をスリスリと押し付けると頭頂部に唇を寄せキスを落としてくれた。

「七海さん…好き」
「やけに素直ですね、今日は」
「たまにはいいじゃないですか……あぁ!」

 突然の大声にさすがの七海さんも顔をしかめる。でもそんな事を気にしている場合ではない。動画そのままだった。さすがにあんなものは残しておけない。
 慌ててスマホを確認するも、画面はただのホーム画面で、フォルダを見ても動画はあるものの短いもので、スマホが手から落ち焦点が合わなくなってからすぐに終わりを告げるものしかなかった。
 スマホを触っているわたしを、横になり頬杖をつきながら見ている七海さん。空いている片腕が伸びてきてわたしの髪の毛を指先で遊ぶ。

「すぐに止めましたよ、動画は」
「…良かったぁ」
「今どきそんな動画はいつ何処で流出するか分かりませんからね」

 七海さんの寝顔の動画は消さなくてもいいのかな、と思っていたわたしの手を引き、またその腕の中に収めた。小さなキスが額に落ちてくる。
 見かけによらず、なんて言ったら怒られるかもしれないけど、七海さんがくれるこの小さなキスがわたしは好きだ。

「ハルの甘い声なんて残す必要ないです。聞きたくなったら、また貴女を抱きますから。私を求める声も顔も、私だけが知っていればいい…」

 心臓が甘く震える。今日何度目かのキスがまた落ちてきて、その痺れるような甘さを彼の腕の中で感じていた。


ーFinー

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