心が叫んでいる
「好きでっす!!」
「え、噛んだ?」
全身全霊、気持ちを込めて溢れる想いを言葉にした俺の一世一代の告白。それなのに、好きという言葉よりも噛んだことに注目され、挙句の果てにクスッと笑って「可愛い〜」なんて頭を撫でられている。
あれ、俺いま告ったよね? 妄想?
「あの、ハルちゃん、俺っ…」
「いいよぉ!」
「へ?」
「あれ、付き合うとかじゃなくて? 好きなんでしょ? わたしのこと」
「好きッス! すげぇ好き! 付き合って…くれんの?」
「うんっ、いいよぉ!」
こうして俺はハルちゃんと付き合うことになった。告白も勢いみたいなもので、そこに勝機があるとは思っていなかった。だってハルちゃんは俺じゃなくて場地さんを好きなんじゃないかって思ってたから。そうだとしたら俺は勝てない。だって場地さんカッケーし。だけど自分の気持ちを抑えられなくて、気づいたら声に出して叫んでた。完全に自己満だと思ったのに、まさかこんなに軽々とOKもらえるなんて思ってなかったけど。
ハルちゃんとの出会いは場地さんだった。場地さんの家に遊びに言ったら、女の子が部屋にいた。場地さんが気合い入れる時みたいに髪の毛を一つに束ねてポニーテールにしていて、固まっている俺に、「一緒に食べる?」とポテチを口に入れてきた。
「おお来たか千冬ぅ」
「場地さん…あの、」
「おいハル、それ食ったら帰れよ。あ、玄関にこの前のタッパ入ってっから。おばさんにごちそーさんって伝えといて」
「へいへい」
ハルちゃんは場地さんが転校する前に同じ学校だったらしい。つまり俺の一つ先輩だ。そしてたまにこうして場地さんと会ってるんだとか。自己紹介がてらそんな話をしたあと、立ち上がって短いスカートを整えると、「んじゃ行くね」とスタスタと行ってしまう。
もう少し話してみたかった、と思ったその時、ハルちゃんが振り返って目を細めて笑った。
「じゃあまたねぇ…千冬ぅ」
場地さんの真似だろうか、名前を呼ばれて心臓が甘く痛みだした。俺が彼女に恋をしたのはきっとその瞬間だろう。名前を呼ばれたことも、靡く髪も、その笑顔も。俺の心臓がドクドクと音を立ててその想いを知らせてくれた。
そんな出会いからもう半年が経つ。俺の気持ちに気づいてなかった場地さんにハルちゃんと付き合うことを伝えた。もっと驚くかと思ったけど意外にも場地さんの返答は普通で、「よかったじゃねぇか」と歯を見せて笑ってた。
「まぁ、はい…けど俺、ハルちゃんは場地さんのこと好きなんじゃないかって思ってたんで、まさか付き合えるなんて思わなくて…」
「あン? んなわけねーだろ」
「いやでも…わざわざ転校した場地さんとこに来てたじゃないっすか。しかも頻繁に」
「千冬ぅ〜お前勘違いしてっけど、ハルが頻繁に来るようになったのはお前のせいだぞ」
「え?」
「ハルはお前に会いに来てんだよ。なんか可愛いとか言って来る度に千冬を呼べってうるせーのなんのって。気づいてなかったのか?」
「ぜ、全然ッス」
「お前も分かりやすいけど、ハルはお前ばっか見てちょっかいだしてたけどなぁ! いい加減俺の部屋に入り浸んのはヤメロって言っとけよなぁ。そうだ千冬の部屋連れてけよ」
「ちょ、場地さん何てこと、」
「ちょっと場地っ!」
突然聞こえた声に二人して驚いていて部屋の入口に視線を向けた。いつ入ってきたか分からないけど、そこにはハルちゃんが立っていた。怒りながら。でも顔はめちゃくちゃ赤い。
「余計なこと言ってないでしょーね?!」
「あ? なんの事だよ。お前が千冬千冬うるせーって事しか喋ってねぇわ」
「!!……あぁぁぁぁぁ、もう…」
その場に崩れるように頭を抱えてしゃがみ込む。その姿を見て場地さんは笑ってる。だけど俺は笑えない、つーか、心臓がうるさくて場地さんの笑い声さえ遠く聞こえた。
これってつまり、そういう事だよな? ハルちゃんも俺のこと実はずっと気になってくれてたってことだよな? すっっげぇ嬉しいんだけど。
「ハルちゃん…」
「引いた?」
「え?」
「だってわたし、そんな素振りありませんって顔して千冬の告白受けたんだよ。それなのに実はめちゃくちゃ好きだったって…後からバレるなんて、もう恥ずかしくて死にそう」
そんなハルちゃんに俺は思わず笑ってしまう。笑わないでよ、と膨れる顔も可愛い。
「すっげぇ可愛い、ハルちゃん」
「おらおら、そーいうのはテメェの部屋でやれ!」
場地さんにシッシッと手で払われた俺は、真っ赤な頬をしてるハルちゃんの手を取って場地さんの家を出た。それから自分の家に案内すると、親がいないのをいい事に、部屋に入ってすぐハルちゃんを抱きしめる。
「ハルちゃん俺、嬉しくて心臓何個あっても足りねぇってくらい動悸がしてる。もっとそういうの聞きてぇし…ハルちゃんのこともっと知りたい」
「うん、わたしも」
「ハルちゃん」
「…千冬ぅ」
「ん?」
「好き」
「俺も、すげぇ好き」
「とりあえず、千冬の唇の味、教えて欲しいな」
驚いて体を少し離すと、俺を抱きしめながら上目遣いで見つめるハルちゃんと目が合った。そんな準備も何もしていなかったし、予想外の展開だ。
狂ったように心臓が爆音で暴走し始めてる。きっと俺の顔は真っ赤だろう。しょーがねぇよ、キスなんて初めてだし! クソッ、リップ塗ってねぇ!
そんな俺を見て歯を見せて笑ったハルちゃんは、何も言わずに背伸びして少し顔を寄せると、ゆっくりと瞼を閉ざしていく。あぁもう、可愛い。
部屋に響くリップ音。それが小っ恥ずかしくて、でも嬉しくて、幸せで。初めての味がどんなもんかなんて全然分からないけど、それでも暫くその唇を離すことができなかった。
「…ん、千冬ぅ……」
「その声ダメ。反則…」
「わざとって言ったら、どーする?」
照れながら笑うハルちゃんに心臓がとぎ取られる。俺が覚悟を決める日は、そう遠くない気がした。
心が叫んでいる
(顔真っ赤にしてめちゃくちゃ可愛いの! 好き!)
(お前それ、本人に言ってやれよ)