
心配性彼氏 01
「痛ッ……」
とんだ災難だ、とハルは痛みに悶えながらも心の中で叫んだ。
仕事を定時で終えていざ帰ろうとした矢先、会社の階段を踏み外して足首を痛めた。
曲がってはいけない方向へ曲がった気がする。
恐る恐る、その箇所を見ると、若干ではあるがすでに腫れていて、やってしまったと思った。
これは絶対に骨いった。
そうは思ってもまずは帰るか病院へ行くか、そもそも歩けるのか分からず、一旦立ち上がってみるとかなりの痛みがそこに走る。
最寄り駅まで少し距離がある。
あとは帰宅するだけだったのに、とゲンナリしながらも足を引き摺るように歩いていたハルだったが、後方から聞こえてきた声と駆ける足音に思いっきり振り向いた。
自分が足を負傷してる事など忘れて。
その所為でバランスを崩し、また地面に転げそうになったハルを、走ってきた男が見事に支えた。
「何してんだァ?!」
「いや、実弥こそ…てか、え?何で?」
そこに居たのは、ハルの彼氏でもある不死川実弥だった。
警察官でもある実弥は、まさにその制服のままその場に居るからにしてまだ勤務中なのは言うまでもない。
路肩を見るとパトカーまでもが止まっている。
「足どうしたァ? 大丈夫なのか?」
「階段で転んじゃって。痛いし腫れてるから、病院に行こうかと思ってたの。それより実弥、パトロール中なんじゃ…」
「んなこたァどうでもいいんだよォ!」
いや、良くないでしょ。
そう思ったハルだったけど、心配してくれている実弥を前に何も言わなかった。
それに、痛めてから落ちていた気持ちも、実弥を見て安心したというのもあった。
だから、「大丈夫だよ」と実弥と別れて病院へ行こうと思ったハルだったが、掴まれていた手を実弥は離さなかった。
それどころか、何も言わずいとも簡単にその体を抱き上げた。
所謂、お姫様抱っこというものだった。
公衆の面前で、大の大人が恥ずかしい。しかも、一人は警官の服装をしているというレアな場面だ。
「お、下ろして! 恥ずかしいってば!」
「うるせェ! 悪化するかもしれねぇだろォ! そのまま帰せるかよ!」
強面で顔に傷のある実弥が、しかも口悪く叫んでいたら何事かと周りが思うだろう。
この女は何を悪さしたんだろうと。
でも実際には、単なる心配性の男が、パトロール中に彼女を見つけて、怪我をしたから心配でまさかのパトカーで病院へ運ぶという職権乱用の事件だった。
助手席に乗っていた後輩の警察官は、実弥を怖がって何も言えない。
そう、彼女以外には見た目同様に荒々しい男なのだ。
「本当に、こんな事いいの? 怒られない?」
「…黙ってろォ。それに、いち市民が怪我して困ってたんだァ! 困った時のおまわりさんだろうがァ!」
「ぷッ、おまわりさんって!」
ハルが思わず笑うと、車のルームミラー越しに実弥と目が合い思いっきり睨まれた。
だけど顔は赤くてそれがまた可愛くて、足は痛いし最悪だけど、なんだか得した気分だとハルは思った。