焚き付けられた心**実弥

 キメツ学園から程近い居酒屋。残業を終えた先生達がたまに利用するこの場所で、「ああぁぁぁ」と本日何度目か分からない悶えるような声が響き渡っていた。
 声の主は、保健医のユヅキだ。
 金曜日だからと普段飲まないお酒を手にして、酔いに任せて自分の気持ちを同僚達に吐き出していたのだ。


「マジで恋する5秒前…」
「いやもうしてんだろ! つーか、それ何度目の台詞だよ。聞き飽きたわ!」
「うむ、かれこれ十回は聞いてるな!」
「天元先生、杏寿郎先生! もっと聞いてください! 最近なんかズルいんですよ、実弥先生……」


 何かを思い出したのか、実弥の名前を呼んで顔を赤らめたユヅキ。
 それを見た同僚の宇髄天元が「やれやれ」とでも言いたげに、自分の真向かいに座っている煉獄杏寿郎へと視線を送った。
 杏寿郎の隣に座っている冨岡義勇に至っては、ユヅキの話を一切聞いていない。何故彼がこの場にいるのだろうといつも疑問に思うが、ここの居酒屋は義勇の大好物である鮭大根が置いてある。ただそれだけの理由だ。
 保健医でもあるユヅキは、普段は職員室にいない為、他の先生との関わりが少ないように思えるが、生徒の体調管理や精神面での相談を含めて、意外と教師全員と関わりがあった。
 義勇に至っては、よく手を出す彼の被害者でもある生徒の怪我の手当をしているため、割と保健室で顔を合わせる機会が多かった。天元に相談となると、いつも面白いからと天元が杏寿郎と義勇を誘い、芋ずる式の様にこうして四人で飲むことが多かった。
 実弥も一緒に来たら仲が深まると思うだろうが、実弥は義勇と仲が良くない。というか、義勇の態度が彼をイラつかせるらしく一方的に実弥が義勇を嫌っているため、義勇の近くには寄ってこないのだ。だから、実弥がユヅキに近づこうにも近づけないという事実は、天元と杏寿郎しか知らない。


「そんなに好きなら、派手に告白しちまえ! ド派手になァ!」
「告白なんて無理! 自分からなんて……そもそも、先生同士とかいいのかなぁ」
「はぁ? そんなん気にしてたら始まるもんも始まらねぇだろ、なぁ煉獄!」
「宇髄の言う通りだ! それを言うなら俺も同じだからな」
「え? なんですかそれ」
「煉獄は事務のハル先生が好きだからな」


 ここに来て初めて喋ったかと思った義勇の言葉に、ユヅキが今日イチの声を上げた。
 好きだとアッサリ認め、それを隠そうとせずに堂々と座っている杏寿郎を凄いと思った。ユヅキは、実弥の存在が気になりつつありながらも、その気持ちを認めるのが怖くて、未だにハッキリと言葉に出来てない。
 同じ教師だからという理由を常に挙げているが、本当はもし振られでもした時に気まずいとか、色々と考えてしまって一歩踏み出せずにいるのだ。
 実弥の気持ちが自分に向いてると思っていない彼女は、彼が好意を持ってアプローチしている事に気づいていない。


「杏寿郎先生は、ハル先生に伝えたんですか? その、好きだって…」
「まだだ! 時期尚早だからな。もう少し自分を知ってもらってから伝えようと思っている」
「なるほど…」
「不死川は押しすぎても引きすぎてもダメなタイプだろきっと! だから素のままのユヅキで行けば大丈夫だろ! チラッと胸元でも見せとけぇ!」
「はぁ!? ちょっと天元先生、それセクハラ!」
「鮭大根…美味!」
「義勇先生、ちょっと静かに食べてくださいよ!」


 結局、相談というかただのユヅキの捌け口となった飲み会だが、吐き出した事でより一層強くなった気持ちに、実弥を意識するなという方が無理だった。
 保健室の扉が開く度に、彼が来るのではと期待してる自分がいる。言葉は少なくても、ポンと頭に手を置いて出ていくその姿に毎回キュンと胸が鳴ってるのだ。
 それがいつからなのかは分からない。ただ、気づいたら他の先生とは違う感情で彼を見ていた。
 胸元かぁ、と天元の言葉を満更でもなく受け取っていたユヅキはその夜、クローゼットを開けて服を手に取り鏡の前に立っていた。
 実弥もやはり胸が大きい方が好きなのだろうか。やっぱりセクシー系? でもそんなに大きくもないし……と一喜一憂しながら選んでいく。
 実弥の目に留まって欲しい。例えどんな色目であっても彼の瞳に映るならと、恋するユヅキは胸を躍らせていた。




(もう少し、あなたに近づきたい)

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