高鳴る鐘の音色は甘く**実弥

 胸元が少し開いてるVネックのサマーニットをユヅキが着て行った日、さっそく天元がニヤニヤしながら実弥の視線を追っていた。
 彼は、ユヅキに気づかれないように度々視線を彼女に向けていたのだ。もちろんユヅキは気づいてないが、勘のいい天元や杏寿郎、それ以外の先生達にもバレている。
 胸元を少し強調した白衣姿のユヅキが職員室に入ってきた時の実弥の顔に、天元は思わず吹き出しそうになった。目がこれでもかと見開いていたからだ。
 その後、視線を逸らした彼の耳は赤かった。その事をユヅキに報告しようかと思ったが、「あまり茶々を入れるな」と杏寿郎に言われ、大人しく見守ることにしたのだ。
 何だかんだいいつつ、二人の恋を見守っている。





 不足しているガーゼの補充をしようと、棚の上に手を伸ばしていたユヅキだが、少し背が足りない。生徒が座る丸椅子を寄せて上に乗ると、少し背伸びをしてそれを取ろうとした。
 だけど、丸椅子がクルっと周り体勢が崩れる。落ちる、と咄嗟に目を閉じてしまった彼女は、そのまま地面に叩きつけられる、筈だった。


「……っ、危ねェ」


 体勢が崩れる前、ちょうど実弥が保健室に入ろうとしていたのだ。視線に入った彼女の姿に、頭より先に体が動いた。
 間一髪、実弥に抱きとめられたユヅキは何が起こったのか分からなかったが、自分が落ちそうになって助けてくれたのが実弥だと理解して、顔が真っ赤になる。
 実弥も、大事に至らなくて良かったと安心したのと同時に、自分の腕の中でユヅキが顔を赤くしてる状況に顔が熱くなる。咄嗟に目を逸らした先に開いている胸元が目に留まり、思わず唾を飲み込んでしまった。


「すすす、すみません! 実弥先生! 怪我はないですか?」
「そりゃこっちのセリフだァ! 危ねぇだろ、こんな椅子に乗るなんて」
「…はい、すみませんでした」
「別に怒ってる訳じゃねぇ。次は呼べぇ」
「え?」
「高いもの取る時は呼べって言ってんだァ。それくらい、取ってやる」


 ゆっくりとユヅキを下ろす実弥の顔は赤い。だけどそれを隠すことなく、少し乱れたユヅキの髪を優しく直した。
 キュンとユヅキの心臓が鳴った音は、残念ながら実弥に届かない。だけど、間違いなく校内に響くくらいの大きな音だった。
 それを悟られないように、平静を装いながら助けてくれた礼を彼に伝えた。


「実弥先生、助けてくれてありがとうございます。次からは気をつけます」
「……」
「実弥先生?」
「俺が言うのも何だがァ……その服は辞めとけぇ。男子が変に浮き足立つだろ」
「え……」


 実弥の為に選んだ服だったので、ユヅキの表情があからさまに沈んだ。
 全然効果ないじゃん、天元先生のバカ! と心の中で叫ぶ。しかも注意みたいに言われて、恥ずかしさから泣きそうになった。だけど、その後聞こえてきた言葉に、思わず顔を上げた。


「学校には、な。まぁその、似合ってるから…今度それ着て映画でも行くかァ」
「……えっ?! えぇ?」
「なんだよ、嫌なのかァ?」
「それってデートって事ですか!?」


 ユヅキの言葉に目を逸らし、顔を横に向けながら「まぁ、そうだな」と軽く小鼻をかいた。恥ずかしすぎていたたまれなくなった実弥は、予定はまた連絡すると言い残し、保健室を後にした。
 普段とは違うユヅキの服装がクリティカルヒットして、尚且つ目のやり場に困っていたのだ。それに、誰にも見せたくないと勝手に独占欲に駆られていた。すでに彼氏気分だ。
 デートに誘うつもりで保健室に来た訳では無いが、これもタイミングだと、そろそろ彼女との距離を縮めたいと実弥は意気込んでいた。
 実弥が触れた感触を思い出し、保健室で一人バタバタしているユヅキは、相当顔がニヤけている。実弥が見なくて良かったと思うくらいに。
 誘われるということは、脈アリなんだろうか。それとも、ただの同僚としての誘いなのか。でもデートって言ってたし。
 恋する乙女の悩みは尽きない。




(その音は誰にも止められない)

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