April mist.NOTE
▽2020/10/27(Tue)
夜の男子寮(東堂)
「オレさ、聞いたんだ」
ア?と荒北が聞き返す。
「何をだよ新開」
「マネージャー、付き合ってるヤツがいるんだって」
ぎく。平静を装って尋ねる。
「隼人は誰からそれを聞いたのだ?」
「誰からってわけじゃないけど、なんか部でウワサになってるからさ」
なんだと。全ッ然知らなかったぞ・・・!?
何食わぬ顔で座っているが、心の中では冷や汗ダラダラだ。部の空気を乱さないため秘密にしようと決めていたのに、一体どこから漏れた。
「別にいンじゃねえの。付き合ってるヤツくらいフツーにいんだろ」
なあフクチャンと荒北は同意を求める。
「ああ、個人の問題だからそれは別にかまわない。部に影響がなければ」
「(だよなあ・・・)」
相手がこの東堂尽八というのがまずかった。
なにせオレにはファンクラブがある。付き合っていることが公になってしまったら、彼女の評判に関わるかもしれない。それだけはなんとしても避けたい。
ここは話をそらすべきか、だがしかしもう少し詳しく聞いておきたい気もする。
「相手はうちの部員なんでしょうか?」
「ンなコト聞いてどうすンだよ泉田ァ」
「いえ。すこし気になっただけです」
やけにつっかかるな靖友、と隼人は言った。
「ひょっとしてマネージャーと付き合ってるのって靖友か?」
なーッ!?違うぞ隼人、付き合っているのはオレだ!!
・・・と心の中でおもいっきり主張する。
いっそ言ってしまおうか。いやでも約束が・・・。
コイツらのことを信用していないワケではないのだが、つつかれるのはなんだか照れくさい。
「なんでそうなンだよ、ちげーわバァカ」
あやしいですね、と泉田はにやりとする。
なんでだ。ちっともあやしくなどないが。
「泉田、あんなに否定しているのだから違うのだろう」
「いえ、あの必死さがますますあやしい気がします」
なんでだよ。信じてやれ荒北を。
「あやしいって意味分かンねェし!つか、だったらむしろ新開なンじゃねーの?」
「オレ?なんで?」
「最初にこの話題を振ってきたのはオメーだろ。そんでどーせ最後に実はオレでしたーとか種明かしつもりだったンじゃねェの?見え見えだッつの」
「たとえ付き合っているとしても、さすがにそんなことはしないさ」
「ム、付き合っているのか?新開」
違うよ、と隼人は笑って否定する。
「案外と寿一だったりしてな」
「エッ、そうなのフクチャン!?」
「いや、違うが・・・」
おいフク、頼むからもっとちゃんと否定してくれ。目をそらすな。
そろそろ雲行きが怪しくなってきたので「いいじゃないか別に」とオレはごまかすことにした。
「マネージャーにだってプライベートがあるのだから。それよりフク、練習メニューの中見変えたか?」
「メニューなんざ今どうでもいいんだわ!こちとら疑われたままでガマンできねェんだヨ!」
「荒北さん、いいかげん認めたらどうです。そんなに否定したらマネージャーがかわいそうですよ」
「いいかげんってなんだよ!かわいそうもなにも付き合ってねえって言ってんだろーが!むしろここまで疑われてるオレのがかわいそうだろ、なァフクチャン!」
くそ、もう限界だ・・・!
「あーもう!付き合ってるのはオレだ!」
「「「「・・・え?」」」」
部屋がしん、と静まり返る。
「・・・オマエかよ東堂ォ!」
「ああそうだ。本当は黙っているつもりだったんだが仕方ない」
そうだったんですか、と泉田が呟く。
「ほォら見ろ、オレじゃねェじゃねーか」
「すみませんでした、荒北さん」
「だけど、尽八はなんで黙っていたんだ?水くさいじゃないか」
隼人の言葉にフクもうなずいている。
「最初にふたりで話し合って決めたのだ。インハイ前なのだし、部の士気に関わるから黙っていようと。それにファンクラブのこともある」
「あー、なるほど・・・」
おめさんにはファンがたくさんいるもんなあ、と隼人は笑う。
「つーかもっと早く名乗り出ろよな」
「悪かった。しかし聞きたいのだが、なぜオレが選択肢に上がらないのだ?」
この流れで一度も疑われなかったのは心外だ。
「いやあ・・・だって、なあ」
「ええ・・・」
「なんだその反応は!?オレだって傷つくぞ!」
「なんていうか、お互いに好きなタイプじゃないんじゃないかと思ってさ」
「そーそー。マネージャーは淡々と仕事してっし、オメーに対してちっともきゃーきゃー言わねェだろ」
「それはまあ、そうだが」
たしかに彼女はファンサービスをしている姿を見ても特にリアクションはない。
「尽八のほうからも特に話しかける感じがなかったから、興味ないのかと思って」
あえてよそよそしい態度を取っていたことが、かえって希薄な関係だと思われていたらしい。いや、まあそれこそ狙っていたことではあるのだが・・・。
「にしても驚かされたよ。おめでとう、尽八」
「ありがとう隼人、おまえはいいヤツだな」
「ケッ、女にウツツ抜かしてっと真波に山で負けンじゃねーの」
「それはないな!オレは山神の称号を誰にも譲る気はない」
「東堂」
「なんだフク?」
「おめでとう。マネージャーにもそう伝えておいてくれ」
「フク・・・」
おめでとうございます、と泉田も祝福してくれた。
「ありがとう。そう言ってもらえてオレたちは幸せだ」
「インハイ終わったら別れてたりしてな」
「なッ・・・!」
荒北の言葉に隼人も同意する。
「たしかに、オレだったらファンサービスされるのはちょっといやかもしれないな」
「なに!?そうなのか隼人!?」
「マネージャーも口にしないだけで本当は不満があるのかも・・・誰にも言えないまま不満が募ってそして、」
「ならん、ならんよそれは!」
最悪すぎるシミュレーションに白目を剥きそうだ。
「今すぐ会いに行ってくる!」
「オイ!夜だぞ時間考えろバカチューシャ!」
category:ss(箱根)
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