April mist.NOTE
▽2020/11/07(Sat)
銅橋
洗濯物を放り込んだカゴを抱えて歩いていると、
「あの」
と遠慮がちな声が聞こえた。
振り返ると、銅橋くんが立っている。身長差のため見下ろしてしまうのを気にしているのか、心なしか猫背でいるように見えた。
「それ持ちます」
「ありがとう。だけど大丈夫、ちゃんと前見えてるから」
しかし彼は引き下がらない。
「オレがやります」
「・・・いいの?」
「ッス」
せっかくなので、お言葉に甘えてバトンタッチさせてもらうことにした。
「ありがとう銅橋くん」
「ウッス」
これどこ置くんすか、と尋ねられ「バックヤードだよ」と答える。
「いつもこんな大変な仕事やってんスか」
「大変かもしれないけど慣れちゃった。今日は手伝ってもらえたしラッキー」
私の言葉に彼は真面目な顔で「後輩なんで」とと言った。
こわがられる部分があるのは仕方がないと思うけど、自分の信念にまっすぐないい子だと思う。
「今日、タイム縮んだよね」
「!はい」
「やったじゃん」
「うす」
すごいなあ、と私は言った。
「来年の夏までいられたらいいのに」
「・・・ッス」
同じ学年だったらねえ、なんて叶わない望みを口にすると彼は立ち止まった。
「?銅橋くん」
「あの!来年もぜってーインハイ行くんで、見に来てもらえないスか」
その勢いに驚いたものの、
「・・・行くよ。絶対行く、約束する」
と答える。
「私ね、銅橋くんが走ってるとこ見るの好きなんだ」
「なんで、スか」
「だってすごいんだよ。ぜってえオレが1番になるって熱がびりびり伝わってきて、見てると胸がうおおってなる」
それを聞いて彼は黙ってしまった。
「ごめん、変なこと言ったかな」
「全然・・・!ッあの!」
好きです、と銅橋くんは突然言った。
「え、」
「あ、だから付き合えとか全然そんなんじゃなくて!なんつうかその、」
しどろもどろになっている。自分でもこの状況に追いつけていない顔だ。
来年、私はここにいない。だけどきっと銅橋くんに会えないのは寂しいと思う。
小さな仕事でも一生懸命取り組む姿勢や、何があっても諦めない芯の強さが好ましかった。それから、気持ちをまっすぐに伝えてくれるところも。
「私も、好きだよ」
「っえ、」
はじかれたように銅橋くんは顔を上げた。耳まで真っ赤だ。
「私はちゃんと付き合いたいけどだめかな」
「いんスか、オレなんかで」
「なんかって言うな」
「ッでも・・・オレは何度も問題起こして、それで」
「全部知ってるよ、ずっとマネージャーやってるんだから。不屈の精神て感じでいいと思う」
私の答えに銅橋くんはもう一度、
「いんスか、オレで」
と言った。
「うん。銅橋くんがいい」
すると彼はバサ!とカゴを落とした。
「あっ・・・!」
「あーやっちゃった」
一枚一枚拾っていると、ふいに指先が触れる。
お互いびっくりして、まるで静電気の時みたいな反応をした。
「ごめん」
「いや、スイマセン」
さっきまでなんともなかった心臓が急にばくばくとうるさい。並んで歩く足音にさえ敏感になる。
いきなり普通に話せなくなったのがなんだか変な気がして、つい笑ってしまった。
「・・・なにがおかしいんスか」
「なんか黙っちゃったから。よろしくね、銅橋くん」
「・・・ッス」
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