April mist.
NOTE

▽2020/09/18(Fri)
黒田
補給や整備の担当者決め、宿舎の割り振り、持っていく道具、インハイのための準備は山ほどある。
長引いた今日のミーティングがようやく終わった頃にはとっくに空は暗くなっていた。
「(ついてねえな、)」
こんな日に限ってカギ閉めかよ。さっさと風呂入ってメシ食って寝たいわ。
廊下を早足で進んでいる時だった。
空き教室からやけに盛り上がった話し声が聞こえる。気になって俺は中を覗いた。
「(マネージャーじゃねえか)」
先に上がらせたはずなのに残っていたとは思わなかった。
つか男と話してんのかよ。
こんな時間にいるってことはコイツも部員か、それとも友だちを待っているだけか。
あいにく、背中しか見えない位置に立っているため顔は見えない。
ふいにソイツは言った。
「なあ、今度俺の相手もしてよ」
「(は?)」
おいおい、相手ってなんのだよ。夜の空き教室でする会話じゃねえだろ。
つーか今コイツ俺の相手”も”っつったよな。
「いいよ」
「(は!?いいってなんだいいって、)」
「言っとくけど私、めちゃくちゃ得意だから」
「へー最高じゃん。楽しみだわ」
思わずぐっと拳を握りしめる。
「ッおい、」
「あ、黒田!」
「おー黒田お疲れー」
振り返った顔を見てああ、と思う。バスケ部の、
「なんでお前らこんな時間まで残ってんだよ」
「カギ当番、黒田ひとりじゃさみしいかと思って待ってたんだよ」
「アホか。なんのために早く上がらせたと思ってんだ」
のんきなことを言うマネージャーを軽く小突いた。
コイツとだべらせるためじゃねえんだよ、と内心毒づく。
「分かってねえなあ黒田は」
「あ?」
「あ、ちなみに俺はカノジョ持ちだから。たまたま話してただけ」
「知らねえよ」
じゃ俺行くわ、そう言って帰りかけたソイツの背中に思わず舌打ちをする。
「おい、行くぞ」
「え?」
「送る。待ってたっつーんなら職員室まで来いよ」
彼女はあわてて立ち上がる。
「あの、」
「あ?」
「勝手に待ってたのいやじゃない?」
「は・・・?別に、んなの」
普通にめちゃくちゃ嬉しいわ。
こっちは勝手にずっとお前のことが好きなんだよ。
「なあ、」
「ん?」
「なんの話してた?」
彼氏か。メチャクチャ束縛の強い彼氏か俺は。
「オセロ」
「は?」
「?オセロの話」
オセロ・・・、
「・・・ハアー」
「えっ、どうしたの急に!?」
「なんっでもねえわ!」
クソ、クソ、馬鹿じゃねえか俺。
「黒田、」
「あのさ」
「え?」
「待っててくれてありがとな。お礼にカフェオレおごるわ」
「えっ!やったあ」
カフェオレで喜ぶなんて単純だな。
けど、喜ぶ顔が見れるんならカフェオレでもミルクティーでもなんでも奢るわ、なんて考える俺のほうがやっぱずっと単純なんだろう。



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