怒ってる。確実に、彼は怒っている。

「…ね、相澤先生?」
「あ?」

ほら、もう声色が怒りしかない。プリントをホッチキスで挟みながら、チラリと顔を上げて様子を伺う。時々、相澤先生に会いたいが為に門限まで寮の先生のお部屋にお邪魔するのは最早日常茶飯事。別に、空気みたいにスルーされてるのは慣れてるけど、ここまでイライラオーラを出されると居心地は悪い。

「怒ってます…?」
「…怒ってないよ」
「いや、怒ってるじゃないですか!」

ツッコミを入れたけど、それは無視。バレないように溜息を吐いたけど、気付いたのか先生は舌打ちを漏らした。
私は何か悪いことでもしてしまっただろうか?たしかに、毎日毎日相澤先生に好き好き言い続けて部屋にも押しかけるのは鬱陶しいかもしれない。でも、それは入学からずっとしてる事だから、今更それで怒ってるのは多分無いと思う。かといって、今日の学校生活も特に何か悪い事した記憶も怒られた記憶もない。どう考えても理由はわからないから、先生がただ腹の虫が良くないのかもしれない。ひと段落したプリントの束を纏めて早々に退散の準備をする事にした。

「…どこいくんだよ」
「帰ります」
「なんで」
「相澤先生が怒ってるから」

私が帰るのを感じ取って、相澤先生が机から振り返るとやっと視線が絡んだ。いつもの怒ってる時より眼力と眉間の皺が深くて、こんな顔をずっとしてたのかと思うととても恐ろしい。深く、深く溜息を吐き出して先生は立ち上がると重い腰を上げて、ソファーの私の隣の空いたスペースに腰かける。

「お前は、もう少し危機感を持て。恥じらいを覚えろ。男子高校生なんて、性欲と煩悩の塊みたいなもんだ」

相変わらず、恐ろしい顔で私をまっすぐ見てくれる見てくる先生によくわからずに頭の上にクエスチョンマークが沢山浮かんでしまいそうだ。でも、どうやら絶対的に違うと思ってた怒りの原因は、自分にあるようだった。

「昼休み、なにしてた?」

どうしてもわかってなさそうな私の反応を見て、呆れたようにまた深い溜息を吐き出しながら相澤先生が問いかける。昼休みは、ご飯食べて、教室に戻ったら切島くん達が腕相撲対決してたからそれに加わって、なにがどうなったか覚えてないけど騎馬戦みたいに肩車だったり何人おんぶできるかとか謎の体力勝負してた気がする。

「…先生、ヤキモチ妬いてくれたんですか?」

イコールで、繋がる怒りポイントはそこかと思って口に出してしまったけれど、そんなわけないだろと余計に怒られそうだから口を噤んだ。私は、120%のラブを持ってるけど、相澤先生は私なんかはただの生徒で対象外の外の外。…あ、自分で言っといて少し切なくなってしまった。なんちゃって、といつもみたいにおどけて見せようとしたら、先生は気まずそうに目を逸らしてガシガシと癖っ毛の髪の毛をかくものだからポカンとする。同時に、じわじわと気持ちが溢れてくる。

「…へへ。嬉しいなぁ!相澤先生、私が好きって言ってもいつも冷たいか、ら、ぁ!?」

にやにやとだらしなく緩んでしまう頬が止められない。でも、恥ずかしくて目線を彷徨わせながら言葉を紡いでいると肩を強い力で押されて一気に視界が逆転した。何が起きたかわからないけれど、相澤先生の顔が目の前にあって、まるで食べられるかと思うくらい唇を噛まれた。

「お前は、黙って俺だけ見てろ」

体も顔も熱くって、噛まれた唇がちょっぴり痛い。至近距離過ぎて、全然視線が絡まない。でも好きな瞳や匂いがいっぱいに広がっててよくわからなくがとにかく胸が苦しい。何か言う為に開いた唇は、また噛み付くように、でも次は口付けられて啄まれて全部飲み込んでしまった。


息も止まるくらいに
(いつもみたいに好きって言っとけ。いいな?)
(ふ…ふぁい。)


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