ゴン×ト×ハンゾー
「キルアー!」
キルアと並んでスタート地点に戻ると遠くから叫びながらゴンが駆け寄ってくる。その後ろにも駆け寄るクラピカとレオリオがいた。そしてマヤの姿を見て全員がキルアの言った通りの反応をする。それを見て思わず笑ってしまうマヤ。
レオリオが「おいキルア、お前なんでこんなかわいこちゃんといるんだよ」とキルアに詰め寄り、クラピカが「キルア? 一体誰なんだ? 彼女は……」と困惑し、ゴンが「あれ? でもこの匂いって……」と不思議そうな顔をする。キルアは面白がるように口元に笑みを浮かべながら仲間たちの反応を楽しんでいる。
「いや〜予想通りだな。お前らの顔、見物だよ」
彼はレオリオの方を向いて、からかうように肩をすくめる。
「何言ってんだよ。この『かわいこちゃん』はレンだよ。いつも一緒にいるだろ」
キルアはクラピカの困惑した表情に視線を移し、悪戯っぽい笑みを深める。
「クラピカまで騙されるとは思わなかったな。もっと観察力あると思ってたのに」
ゴンの鋭い勘に気づき、キルアは感心したように頷く。
「さすがゴン、嗅覚だけは鋭いな。正解だ。これがレンの本当の姿……いや、マヤだ。男装してたんだよ」
キルアはマヤの肩に軽く手を置き、仲間たちに紹介するように前に出す。
「う、うそだろ!? レンって、あのレンかよ!」
「観察力の問題ではない。マヤの意思を尊重していただけだ」
「えっ!? レン女の子だったの?」
レオリオは素直に驚き、クラピカは眉をひそめ、キルアに厳しい視線を向ける。ゴンもさすがに驚いた様子だった。
「な? 言った通りの反応だろ? これでもう隠す必要はないさ」
「ふふ……っ、あははっ、ほんとだね。キルアの言った通りだ。改めてマヤです。嘘ついてごめんなさい」
皆の反応を見てマヤは目に涙を浮かべて笑った。クラピカは驚きの表情を見せていたがすぐに冷静さを取り戻し、マヤを見つめ、判断するように細められている。
「マヤか..….。理由があっての偽装だったのだろう。私自身、過去を隠して生きてきたからな。他人の秘密を責める立場にはない」
彼は静かに腕を組み直し、周囲を警戒しながら声を落とす。
「大事なのは、ここからどう進むかだ。互いの素性より、互いの信頼関係の方が重要だからな」
「そうだよレン……じゃなかった、マヤ! オレ達気にしないよ!」
「ああ……まあ正直驚いたけどな、ダチって事は変わんねーだろ?」
「ありがとうみんな……」
こうして4次試験に合格した10人は、飛行船に乗って最終試験が行われる場所へと移動し始める。
「……いよいよ、最終試験だね。でも、絶対全員で合格しようね」
「ああ、当然だろ。オレたちが落ちるわけないし」
キルアはポケットに手を入れながら、余裕の表情でマヤに向き直る。しかし彼の鋭い目は船内の他の受験者たちを警戒して観察している。キルアはマヤの近くに寄り、声を少し落として続ける。彼は窓の外を眺め、遠くに見える島の輪郭を指さす。
「最終試験で何が待ってるか分からないけど、一つだけ約束するよ。誰かがお前に手を出したら───」
キルアの手から一瞬だけ鋭い爪が覗く。
「容赦しないからな」
「うん。キルアも、気をつけてね」
残ったメンバーはゴン、キルア、マヤ、クラピカ、レオリオ、ポドロ、ポックル、ハンゾー、ヒソカ、イルミ。最終試験を迎えるにあたり、全員がネテロ会長の面談することになった。内容は最終試験に関するものと言っても少し参考に質問する程度らしい。質問内容は最終試験に残った受験生の中で『1番注目している者』と『今1番戦いたくない者』であった。1人ずつ番号が呼ばれていく。キルアは長椅子に深く腰掛け、壁に頭を預けながら天井を見上げている。
「面談か……めんどくさ。でもネテロのジジイ、何か企んでるよな」
「きっと、最終試験に関する事だろうね」
キルアは首を傾げ、部屋にいる受験者たちを観察する。特にイルミの方には目線を向けないようにしている。キルアの番号が呼ばれ、キルアは立ち上がって肩をすくめる。
「おっと、オレの番か。じゃあ、行ってくるよ」
面談室に向かいながら、キルアはポケットに手を突っ込み、無意識に爪を出したり引っ込めたりしている。彼の表情は、一見冷静だが、目には微かな緊張感が浮かんでいた。
クラピカは両手をポケットに入れ、待機エリアの窓から外を眺めている。
「マヤ、緊張しているか?」
彼は静かに微笑み、マヤの方へ視線を向けた。周囲の緊張感を感じ取りながらも、冷静さを失わない様子だ。
「私達は最終試験も必ず突破できる。ただし……ヒソカには警戒しろ。特にヒソカの目が最近お前に向いているのが気になる」
「うん……、ありがとうクラピカ」
マヤはヒソカよりもイルミには絶対目を向けないようにしていた。キルアは面談室から戻ってくると、肩をすくめてため息をついた。
「あのジジイ、やっぱり何かたくらんでるよ。質問の仕方がどこか引っかかる」
彼はマヤとゴンの隣に座り、足を組んで天井を見上げた。
「そうなの? どんな質問?」
「行けばわかるって。ゴンのバカは絶対そのまま答えるんだろうな。ヒソカと戦いたいって」
「そんな事言わないよ! ……今は」
キルアは小さく笑うと、マヤの方を向いた。
「オレはね……まあ答えは秘密だけど、あのイルミとは絶対に戦いたくないって言ったよ。あいつは本気で殺しにくる」
彼の表情が一瞬だけ曇ったが、すぐに普段の余裕の表情に戻った。
「でもさ、こんな質問で何を決めるつもりなんだろ。最終試験の対戦カードとか……」
「うん……私も、イルミさんとは絶対戦いたくない……」
不安そうにそれだけ答えると、マヤの番号が呼ばれる。
「あ……、私も行ってくるね」
「おー、いよいよお前の番か。緊張しなくていいよ。あのジジイ、怖そうに見えて意外と普通だから」
キルアはポケットに手を入れながら、余裕の表情でマヤに向き直る。彼は少し前のめりになり、声を落として続ける。
「でもさ、あんまり正直に答えすぎるのも考えものかもな。まあ、お前ならうまくやれるだろ。あ、それと……もし変なこと聞かれても焦るなよ。あのジジイ、たまに意地悪な質問してくるから」
キルアは軽く手を振り、マヤを送り出す。彼の目には少しだけ心配の色が見える。マヤが立ち去った後、キルアはゴンに小声で話しかける。
「どうせ最終試験は実力以外の何かも見てるんだろうな。人間関係とか……ま、楽しみだな」
マヤは面談室から戻ってくると表情を曇らせたままキルアとゴンの隣に座る。どうしても不安でたまらない気持ちが消えないのは、やっぱりイルミの事が気がかりだから。
「……やっぱり、イルミさんとは絶対戦いたくないって答えてきたよ」
「どうした? 何かあったのか、面談で」
キルアはマヤの表情の変化を見逃さなかった。彼の目には、友人を心配する色が浮かんでいる。彼はポケットから手を出し、マヤの方に身を寄せる。
「ううん、何も。……キルアが不安そうだから」
マヤもまた心配そうにキルアを見つめる。彼はマヤの言葉を聞いて少し表情を和らげる。
「オレが不安? 何言ってんだよ。お前こそさっきから暗い顔してんじゃん」
「ううん、そんなことないよ。私は大丈夫」
マヤはそう言って微笑んでみせた。
4次試験終了から3日後、ハンター委員会が経営するホテルでしばしの休息をとった10人の受験生は、ネテロ会長や試験官達と共に大広間に集まった。
「最終試験のクリア条件はたった1勝で合格である! つまり勝った者が次々抜けていき、負けた者が上に登っていくシステム。しかも誰にでも2回以上の勝つチャンスが与えられている、何か質問は?」
キルアは目を細めてトーナメント表を見つめ、すぐに全体の構成を理解した。
「へぇ...…面白いな。たった1勝でいいのか。……っていうかこのトーナメント表、絶対に恣意的だよな。でも……もしイルミと当たったら……」
キルアは声を潜め、周囲の受験者たちを観察しながら続ける。喉の奥が乾いていくのを感じた。汗ばんだ手の平をシャツで拭う。
クラピカは腕を組み、トーナメント表を見つめながら思案する様子を見せた。彼はマヤに近づき、声を少し落とした。
「なるほど……この組み合わせは意図的だな。友情を試す場面が来るかもしれない。しかし忘れるな、ここはハンター試験だ。最後まで気を抜けない。真の名を教えてくれた信頼に感謝する。私も本気で戦い、共にハンターになろう。次の試合、お互い後悔のないように」
「そうだね、でもこれって引き際が肝心になってきそう。もし負けるのなら体力をなるべく温存して次に備える必要があるから」
「その通りだ。勝てない状況なら、無駄な抵抗で体を傷つける必要はない」
「でも1勝だけで良いってことは……相手次第じゃ楽勝かも。誰と当たるかだけが問題だな」
クラピカは真剣な表情でネテロの説明を聞き、マヤの言葉に頷いた。対してキルアは余裕そうな顔だ。
「戦い方は単純明快。武器OK反則なし、相手に“まいった”と言わせれば勝ち! ただし、相手を死に至らせてしまった者は即失格! その時点で残りの者が合格で試験終了じゃ。よいな。それでは最終試験を開始する! 第1試合、ハンゾー対ゴン」
「チッ……いきなりゴンか。厳しい相手だな」
キルアは眉をひそめ、ゴンを見た。相手は忍者のハンゾー。明らかに経験豊富な戦闘のプロだ。彼は椅子に深く腰掛け、足を組んだ。
「引き際か……確かにな。知恵の戦いでもあるわけだ。でも、ゴンは絶対に引かないだろうな。あいつはバカだから。まあ、でも……それがゴンのいいところでもあるんだよな。オレたちはちゃんと見守るしかないか」
彼は小さく笑いながら、戦いの場に向かうゴンを見つめる。マヤはキルアの言葉を聞いて表情を和らげた。
「ふふ、そうだね。ゴンに負けを認めさせる方が大変かも」
試合が開始されて間もなく、ゴンはハンゾーに後ろを取られて手刀をくらい、動けなくなる。それからはハンゾーがゴンを痛めつける一方的な展開となった。その状態が3時間続いた。ゴンは、もはや血反吐も出ないくらい悲惨な状態になっているにも関わらず、絶対に降参しようとしない。
キルアは歯を食いしばり、拳を強く握りしめた。ゴンの試合を見るのはほとんど拷問のようだった。
「ゴン……。こんなの、見てられないよ……」
「あいつ……本当にバカだ……」
言葉とは裏腹に、キルアの目には心配と尊敬の色が混ざっていた。
「でも、ゴンがゴンであることを誰も変えられないんだよな」
クラピカは腕組みをしながら苦い表情でゴンの姿を見つめていた。額の奥に浮かぶ血のような赤い糸がチラリと見えた。
「ゴンの意志の強さは驚くべきものだ。だがこれは……」
彼は手を握りしめ、身を乗り出した。マヤの肩に軽く触れ、小さな声で続けた。
「時に降参も戦略の一つだ。無益な苦痛に耐えても何も得られない。だが彼には彼の戦い方がある。我々はそれを尊重するしかない」
「お前は本当に大丈夫なのか? ……お前、兄貴と当たるかもしれないぞ」
キルアはマヤの方をちらりと見て、声を低くした。彼の表情が暗く沈んだ。
「イルミとは……戦わない方がいい。あいつは本気で殺しにくる。オレは……お前がそんな目に遭うのは見たくない」
「え……? キルアこそ、大丈夫なの? もしイルミと当たったら……!」
自分を心配するキルアに思わず身を乗り出して心配する。すると、ついにゴンの腕がハンゾーに折られ、マヤは悲痛な顔で唇を噛み締めていた。その噛み締めた唇から血が流れ出す。クラピカやレオリオも怒りを露わにし、いまにもとびこんでいきそうだった。キルアはゴンの方に視線を戻し、血を流す友人の姿に歯を食いしばる。
「だけど……これは酷すぎる。あいつ、本当に降参する気ないんだな……ゴンの目を見ろよ。まだ闘志が消えてない」
キルアの手が震え始める。怒りか、それとも何か別の感情か。キルアは立ち上がりかけたマヤの肩に手を置き、静かに制止する。
「大人しく見てろ。これはゴンの戦いだ。オレたちが口を出す権利はない」
「……うん、わかってる……」
キルアの手に制されるまま、その場に座る。マヤの手も震えていた。
結局、ゴンを死なせたくなくなったハンゾーが負けを認め、ゴンの勝利で試合は締めくくられた。だがハンゾーに思い切りぶん殴られたゴンは床に叩きつけられて気を失い医務室に運ばれる。
キルアは沈黙したまま、ゴンが運び出される様子を見つめていた。その表情は硬く、無感情を装っているが、青い瞳には心配の色が濃く浮かんでいる。
「あいつ、本当にバカだな……でも、勝ったんだよな」
彼は小さく笑い、その笑みには少しの誇りと安堵が混ざっている。