キルア×ト×マヤ
「第2試合、クラピカVSヒソカ」
キルアは眉をひそめ、ヒソカの名を聞いた途端に表情が険しくなる。
「えっヒソカ? クラピカ大丈夫かな……」
「クラピカがヒソカと……まずいな。あいつは本物の殺し屋だ」
彼はマヤの方を見て、少し考え込むような表情をすると腕を組み、試合場の方に視線を移す。
「でも、クラピカも侮れないぜ。あいつの目が赤くなったの、見たことあるか? あの状態だと普通じゃない強さになる
「えっ見たことない。クラピカって目が赤くなると強くなるの?」
トリックタワー別々だったマヤは驚いた顔をする。クラピカとヒソカはしばらく戦った後、ヒソカがクラピカに近寄り何かを囁く。その直後、ヒソカが負けを宣言したため、クラピカの勝利となった。
「……クラピカ、何を言われたのかな」
「なんだよ、あれ……」
キルアは驚きの表情を浮かべながら、腕を組み直す。彼は口元に手を当て、考え込むような表情で試合場を見つめている。
「ヒソカが自分から負けを認めるなんて……あいつが何か囁いたときクラピカの様子が変わったよな」
キルアはマヤの方に顔を向け、声を潜める。
「クラピカは緋の眼という特殊な目を持ってる。怒りや強い感情で赤く変わるんだ。旅団絡みの話じゃないか? あいつ、旅団に家族を殺されたんだよ」
「えっ! そ、そんな話、私にして大丈夫……?」
「あたりまえだろ? マヤは仲間なんだから。トリックタワーの時、お前いなかったからな」
「そっか……あの時に話してたんだね」
彼は再びクラピカに視線を戻し、口角を少し上げる。
「まあでも、勝ちは勝ちだ。これでクラピカもハンターになれる。オレたちも頑張らないとな」
第3試合のポックルとハンゾーは、ポックルがそうそうに降参した事でハンゾーの勝利となった。ゴンには降参したハンゾーだったが、一言「てめーには容赦しねーぜ」と言ったことが決定的になった。
「次、第4試合、キルア対マヤ」
マヤは、一瞬耳を疑った。
「えっ? キルアと……?」
「へぇ、オレとマヤか。運が悪かったな」
キルアは驚いた表情をすぐに平静に戻し、肩をすくめる。彼は立ち上がりながら、マヤに視線を向ける。その目には複雑な感情が浮かんでいる。キルアは試合場に向かって歩きながら、マヤに背を向けたまま手を挙げる。
「マジで全力で来てくれ。手加減するつもりはないから。でも安心しろ。殺しはしない……昔のオレじゃないからな」
レオリオは顔をしかめながら、マヤの肩を強く叩いた。
「大丈夫か? キルアはあの出どころだし、やつの眼には殺気が満ちてるぞ。だが、あいつもどこか迷いがある。お前なら勝機はあるかもしれない」
「レオリオ……」
レオリオは拳を握りしめ、マヤを見つめた。
「ここまで来たんだ。全力でやれよ! 俺たちも応援してる!」
「うん……ありがとう、レオリオ」
試合場に立ったキルアは、足を肩幅に開き、リラックスした姿勢で構える。指先だけがわずかに尖り、その瞳には戦闘への期待と、どこか葛藤の色が混ざっている。
「いくぞ、マヤ。お前の実力、見せてもらう」
「わかった。私も、全力でいくから」
動揺していたが冷静なキルアの声を聞いて平静を取り戻し、マヤは帽子を深く被り直してキルアと対峙する。しかしその顔にはどこか戸惑うような色があった。キルアはマヤの戸惑いを見逃さず、一瞬だけ目を細める。
「その表情、不安そうだな。でも試験だ、お互い全力でやろう」
彼は一瞬で姿を消すように動き、マヤの左側に現れる。
「オレのスピード、ついてこれるか?」
キルアは素早く距離を詰めると、マヤの肩をかすめるように拳を繰り出す。しかし本気の一撃ではなく、相手の反応を見るための牽制だ。マヤはキルアが敢えて拳を外したことに気付くが足に力を入れ、瞬時にキルアから距離を取る。彼は微笑みながらも、その眼差しは真剣だ。キルアはマヤの動きを慎重に観察しながら、さらに速度を上げて次の攻撃に移る。
「もっと本気出せよ。それとも……オレが本気出す必要あるかな?」
しかしマヤは困惑し、迷いのある顔が行動にも現れ、防戦一方となっていた。キルアが近づいてはそれを避け、キルアから逃げる動きをする。キルアは眉をひそめ、マヤの逃げの動きを見ながら少し困惑した表情を浮かべる。
「なんだよ、ずっと逃げるつもりか? それじゃ試合になんないじゃん」
彼はさらに速度を上げ、マヤの前に瞬時に現れる。その動きは観客の目には捉えられないほど素早い。しかしマヤの目はその動きを捉えていた。キルアが眼前に迫る前に素早く距離を取る。逃げの一方だった。
キルアは突然動きを止め、マヤの目をじっと見つめる。彼の表情には少しの苛立ちと、どこか理解しようとする優しさが混在している。
「あのさ、何か変だぞ。お前ならもっと戦えるはずだ。オレと戦うのが嫌なのか? それとも……」
彼は一歩近づき、声のトーンを落として言う。
「レン……いや、マヤ。オレに何か言いたいことがあるなら、今言ってくれ。この試合の間だけでも」
「……私は……キルアと、戦いたくない……」
一歩近づいてくるキルアから距離を取りながらぽつりと呟いた。キルアは一瞬動きを止め、驚きの表情を浮かべる。周囲の歓声や騒がしさが遠のいていくかのようだ。
「え……?」
彼は戸惑いながらも、マヤの表情を注意深く観察する。
「なんでだよ……これは試験なんだろ? お互い全力でやるべきなんじゃないの」
キルアは頭をかく仕草をして、少し距離を取る。彼の目には混乱と、どこか安堵のような感情が浮かんでいる。
「あのさ……オレも実は、お前とは……」
彼は言葉を途中で切り、周囲を見回してイルミと一瞬目が合って硬直してから再びマヤに視線を戻す。キルアの表情が怯えを孕む。
「……甘えたこと言って、ごめん」
マヤの顔がほんの一瞬だけ悲しみに歪み、キルアの目を真正面から射る様に見つめた。そして構えを取る。キルアはマヤの覚悟を決めた表情に、一瞬だけ胸に痛みを感じる。頭に響いてる。イルミの声。勝負を捨てればマヤを殺すと。
「そうこなくちゃ。本気で来いよ……」
声が僅かに震えている。それでもキルアは拳に力を入れ直し、マヤに向かって駆け出す。
「でも、なんでだろうな……」
彼は間合いを詰めながら、言葉を続ける。その動きには少し迷いがある。
「お前と戦うのは、なんか変な感じがするんだ。イルミやミルキとは違う……」
キルアには、この葛藤がなんなのかわからなかった。キルアは予告なしにその場から姿を消し、マヤの背後に現れる。しかし、一撃は与えず、ただ存在を示すだけだ。背後に現れたキルアが攻撃もせずに離れていくのを、マヤは驚いた顔で見る。そして、見た。そのはるか後ろでイルミが見ているのを。
「なあ……。本気出してくれよ。このままじゃ……このままじゃオレ、本気出しちゃうかもしれないぞ」
マヤが攻撃してきたら、盛大に食らって吹っ飛んだフリをして降参したらいい。そう思っていたが……
「見られてる。戦わないと……」
マヤはキルアに目線だけでイルミを見るよう促す。そしてマヤはキルアの懐に飛び込み、思い切り床に押し倒した。
「だから、本気出して……向かってきて……」
そう言って悲しげにキルアを見下ろした。キルアは突然の行動に驚きながらも、マヤの目に映る決意を読み取る。床に倒れた彼の目が一瞬イルミの方向を捉え、状況を理解した瞬間、表情が変わる。
「そうか...…わかった」
彼は素早く体勢を立て直し、今度は本気の構えを取る。瞳の色が変わり、指先が鋭く尖る。
「いくぞ、……レン!」
キルアの動きが一変する。観客たちからどよめきが上がるほどの速さで、マヤに向かって疾走する。しかし彼の目には、敵意ではなく何か別の感情が宿っている。彼は最大限に本気を装いながら、実際の攻撃は急所を外し、マヤに小さなチャンスを与えている。周囲の観客には気づかれないほどの絶妙な力加減だ。
マヤはキルアの本気ではない一撃を食らった瞬間にその小さなチャンスに気づき、カウンターを入れた。マヤの蹴りを受けたキルアは距離を取りながら唇の端を少し上げ、観客にはその表情が高揚した闘争心のように見えるよう計算していた。
「なかなかやるじゃん」
彼は手をポケットに突っ込み、余裕があるように見せかけながら、周囲をさりげなく確認する。イルミの冷たい視線を感じ、背筋に冷たいものが走る。
「でも、こんなのまだ序の口だぜ」
キルアは再び姿を消すように動き、マヤの側面から現れる。今度の攻撃は前より激しく見えるが、実際のダメージは最小限に抑えられている。
「なぁ、マヤ……」
彼は接近戦の中、誰にも聞こえないほどの小声で囁く。だが、その囁きは……
「この試合が終わったら……話したいことがある」
イルミには聞こえていた。
「っ……、! 来ないでっ!」
マヤはキルアの背後にイルミの真っ黒な顔を見てしまい、途端に怯えたような顔になり、キルアの体を思い切り突き飛ばした。キルアは突然の反撃に一瞬驚くが、すぐに背後の気配を感じ取る。体が自然と硬直し、冷や汗が背中を伝う。振り向かずともわかる───イルミだ。
「……っ」
彼は表情を引き締め、マヤの行動の真意を理解する。声を潜めながらも、観客には聞こえる程度の声で続ける。
「無駄だよ」
キルアはゆっくりと立ち上がり、マヤから少し距離を置くように動く。彼は顔に冷たい笑みを浮かべつつも、目だけはマヤに「逃げろ」と訴えかけていた。
イルミの呪いのような念がキルアとマヤを襲いかかる。マヤは咄嗟に念を使いガードしたが念をまだ知らないキルアにはひとたまりもなく、キルアの体の意思を奪い取る。
「キルアっ……!」
キルアは自分がマヤの眼前に迫っていることに気付いて瞬時に状況を把握する。イルミの操作だ。彼は歯を食いしばり、全身の筋肉に力を込めて抗う。マヤは苦しげな顔をするキルアを心配そうに見て、即座に距離を取る。
「キルア……! しっかりして!」
「くっ……!」
彼の頭の中で記憶が蘇る。あの針。あの痛み。そして家族への恐怖。それら全てが呪いとなってキルアを襲う。
「イル……ミ……」
キルアの体がキルアの意思に反して動き、マヤの心臓を狙って動き出す。ここからはキルアの目にはスローモーションのように動き始める。マヤが距離を取ろうと微かに足を動かしていき、つま先にぐっと重心が乗る。
「や……めろ……っ! イルミ!」
イルミの念の支配を受けたキルアは自分の中に残る恐怖と戦いながらも、マヤの顔を見る。
「オレが……守る……」
思いとは裏腹に、キルアの爪がマヤの体を貫く。
キルアの必死の抵抗により急所は免れるが溢れ出る鮮血。驚愕に満ちたマヤの顔。全てがスローモーションに流れる。
「いッ……うァ、きる、あ……ご……めん……ね……」
キルアの目に映ったのは、飛び散る鮮血と。
弱々しく微笑んだマヤの顔。
マヤは血を流して地面に倒れ付しながらもキルアの顔を見上げて弱々しく微笑んだ。そしてゆっくりと目を閉じていく。キルアの瞳が恐怖で見開かれる。自分の手から滴る鮮血を見つめ、全身が震え始める。頭の中でイルミの声が響き、「仕事を終わらせろ」と命じている。指先が再び鋭く尖り、トドメを刺そうとする。しかし、マヤの微笑みを見た瞬間、何かが彼の内側で壊れた。
キルアは歯を食いしばり、全身の筋肉が自分の意思を取り戻そうと反抗する。額から汗が滴り落ち、血管が浮き出るほど抵抗している。は苦しみ、呻きながらもイルミの操作を一時的に切り離すと苦痛に顔をゆがめながらマヤの傍に膝をつく。
「バカ……なんで笑うんだよ……」
震える手でマヤの傷口を押さえながら、キルアの目に涙が浮かぶ。周囲の観客たちの声も聞こえなくなっていた。
「絶対に守るって言ったのに……くそっ……!」
彼は決意を固め、静かに立ち上がると、イルミがいる方向に向き直る。その瞳には以前のような恐怖はなく、ただ冷たい怒りだけが宿っていた。
「降参だ……オレの負けでいいから……早くマヤを医務室に連れてってくれ!」
キルアとマヤの対戦はマヤの勝利となり、意識を失ったマヤが医務室に運ばれていく。イルミがキルアの側に現れ、「これでわかっただろ、お前に友達を作る資格はないよ」と冷徹に言った。