イルミ×ト×キルア






医務室に運ばれていくマヤの姿を見つめるキルア。彼の表情には深い後悔と怒りが混ざり合っている。全身が怒りで震え、拳を強く握りしめる。イルミの冷たい声が耳元で響いた。



「違う……お前が全部悪いんだ……」



キルアは震える手を握りしめ、初めてイルミの目をまっすぐ見つめる。その瞳には今までにない決意が宿っている。



「マヤは……オレの大切な……」



言葉が途切れる。キルアの体が再び硬直し始める。イルミの念が彼を拘束しようとしているのだ。冷や汗が額から流れ落ちる。



「お前の言う通りにはならない……もう二度と……」



キルアは全身の力を振り絞り、イルミの念に抵抗する。彼の中で何かが目覚め始めていた。キルアは立ち上がり、イルミと向き合う。手は震えているが、もう逃げない。



「この試合が終わったあと、マヤに話したいことがあると言っていたの、俺は聞こえていたよ……キル。最後の警告だ。マヤを死なせたくなかったら……俺の言うこと聞けるね? お前に友達をつくる資格はない。必要もない。今まで通り親父やオレの言うことを聞いてただ仕事をこなしていればそれでいい。次は本気でマヤを殺すよ」



キルアの全身が震え、頭の中でイルミの言葉が反響する。彼の視界がぼやけ、マヤの血に染まった姿が脳裏に焼き付いている。



「やめろ……マヤには手を出すな……」



声は掠れ、震えている。キルアの瞳に恐怖が広がるが、同時に何か別の感情も芽生え始めていた。



「オレはお前の人形じゃない……」



キルアの体は緊張で硬直し、イルミの念が体中を這いまわる感覚に吐き気を覚える。だが、マヤの血まみれの姿を思い出すと、恐怖よりも強い感情が湧き上がってくる。



「マヤは……オレの初めての……友達だ……」



キルアはゆっくりと顔を上げ、イルミと目を合わせる。震えは止まらないが、瞳には揺るぎない光が宿っている。キルアの顔には涙と決意が浮かび、彼の中で眠っていた力が少しずつ目覚め始めていた。



「次に会ったとき……マヤを守れるように……オレは強くなる……」

「よし、それなら合格したあとにマヤを殺そう」



イルミは冷徹な声で言った。キルアの足が止まる。全身から放たれる殺気が空気を震わせ、ゆっくりとイルミに向ける彼の目は、もはや人間のものではない冷酷さを宿していた。



「イル兄……」



キルアの声は低く、冷たい。それはゾルディック家で育った暗殺者の声だった。



「次、第6試合、イルミ対キルア」



キルアの体が凍りついたように動かなくなる。イルミの名前を聞いた瞬間、血の気が引いていく。冷や汗が背中を伝い落ちる。



「イル兄……だと……?」



震える声で呟く。足がすくみ、顔は蒼白になる。観客席から聞こえる歓声も、ただのノイズにしか聞こえない。



「どうして……今……」



キルアは拳を強く握りしめる。彼の目には恐怖と葛藤が映る。



「マヤ……オレは……」



突然、彼の背後にイルミが立っている。キルアは振り向くことさえできない。体が言うことを聞かなくなる。兄の存在だけで、彼の意志は縛られていく。試合会場にはすでにイルミが立っており、キルアを見ると「お前は熱をもたない闇人形だ。自身は何も欲しがらず何も望まない。陰を糧に動くお前が唯一歓びを抱くのは人の死に触れたとき。お前は親父にそう育て(つく)られた」と言った。

キルアの全身が冷たい恐怖に包まれる。イルミの言葉一つ一つが鎖となって彼を縛り付けていく。両足は地面に釘付けになったように動かない。



「そんなことは……ない……」



声は震え、かすれている。キルアは必死に自分を取り戻そうとするが、記憶の中の暗い部屋と拷問の痛みが彼を襲う。



「オレには……守りたいものができたんだ」



汗が額から滴り落ち、彼の視界がゆがむ。観客席からマヤの姿を必死に探す目。ふと、心の奥で小さな火が灯る。



「マヤと出会って……初めて感じたんだ。人と繋がることの……温かさを……」



彼は首に残る針の痕を無意識に触れ、マヤのことを思い出す。医務室で横たわる彼女の姿が、キルアに新たな決意を与えていた。

イルミはそんなキルアを見て、念で支配しながら「お前の守りたいものってなに?言ってみなよ。本当は望みなんてないんだろ?」と言う。キルアの意識が揺らぐ。イルミの念が彼の心に浸透し、思考を曇らせていく。体は氷のように冷たく、呼吸さえ苦しい。キルアの顔に一瞬の痛みが走り、彼は膝をつく。イルミの念が体を支配しようとしている。



「守りたいもの……? オレには……」



言葉が途切れる。頭の中で記憶が混濁し、暗殺訓練の日々と、マヤとの時間が交錯する。キルアの目が一瞬だけ死んだ魚のように濁る。



「オレには……何も……」



しかし突然、マヤの笑顔が鮮明に脳裏に浮かぶ。その記憶が、彼の中の何かを呼び覚ます。



「違う……! マヤだ! オレが守りたいのはマヤだ!」



叫びと共に一瞬だけイルミの念の支配から意識が解放される。キルアは恐怖に震えながらも、初めて兄に真っ直ぐ目を合わせた。彼は震える手で頭を抑えながら、ゆっくりと立ち上がる。イルミの念と闘いながら、彼の全身から青白い電撃が走り始める。



「オレが望むのは……マヤと一緒にいること。ゴンや、みんなと旅をすること……自分で選んだ道を歩くこと……!」

「ふーん。よし、マヤとゴンを殺そう。殺し屋に友達なんていらない。邪魔なだけだから」



そう言うとイルミはマヤとゴンのいる医務室に向かい始める。キルアの目が見開かれ、一瞬の恐怖が走る。しかし、すぐに怒りに変わり、キルアの中で何かが弾け飛んだ。恐怖より強い感情が彼を突き動かす。



「止まれ、イルミ! マヤとゴンには手を出すな!」



キルアは自分の中に眠る新たな気持ちを感じていた。それは恐怖ではなく、誰かを守りたいという純粋な想いから生まれた気持ちだった。だけどイルミはキルアを再び念で支配しながら冷徹に言う。



「ふーん……でも思い出してみなよ。お前はマヤに何をした? その手で突き刺したよね。血に染まるマヤの姿を思い出してごらん。間違いなくキルアがやった事だ。それなのにどの面下げてマヤに会いに行くの? 無理だね、わかるだろう?」




キルアの目に恐怖の色が広がる。キルアの体が震える。イルミの言葉が彼の脳裏に入り込み、再び意識を侵食していく。頭の中に鮮明なイメージが浮かび上がる───……マヤの血で染まった自分の手。



「違う……そんなことは……」



彼は頭を抱え込み、膝をつく。冷や汗が額から流れ落ち、呼吸が荒くなる。イルミの植え付けた記憶と現実の区別がつかなくなっていく。



「オレは……マヤを……傷つけた……?」



彼の目に恐怖の色が広がり、絶望に満ちていく。しかし、その瞬間、マヤとの思い出の断片───一緒に笑った瞬間、背中合わせに戦った記憶───が閃光のように脳裏をよぎる。



「違う……これはお前の念だ……マヤを傷つけたのはオレじゃない!」



イルミの念は毒のようにまとわりついてキルアを支配していく。



「キルアがマヤの体を引き裂いたんだよ。でも大丈夫。俺の言うことを聞いてればいい。それとも今ここで俺と戦ってマヤを守る?」



イルミの念が体中を這いまわる感覚に、キルアは息を詰まらせる。頭の中で記憶が混濁し、マヤを傷つけた時の映像が次々と浮かんでは消える。指先から力が抜け、膝から崩れ落ちる。



「違う……違うんだ……オレは……」



震える声は次第に小さくなり、イルミの支配が強まるにつれて瞳から光が失われていく。だが、心の奥底で小さな火が消えていなかった。マヤとの約束、マヤの笑顔、その全てが彼の内側で抵抗を続けていた。







「マヤは……オレの……」







大切な友達。







イルミの念に支配されたキルアは、負けを宣言しイルミの勝利で試合が終わったあとも始終虚ろな表情で、光を失くした瞳は何も映していなかった。まるで人形のように。そして突然、レオリオとボドロの試合が開始された直後、キルアの右手はボドロの心臓を貫いていた。











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