ハンター×シケン×シュウリョウ
医務室のベッドで、ゴンはゆっくりと目を開けた。頭に巻かれた包帯と体の痛みが、激しい戦いを思い出させる。
「あれ……ここは……?」
彼は身体を起こそうとして痛みに顔をしかめた。そこへ駆け込んできた医師が彼の肩を押さえる。
「まだ動かない方がいいよ。ハンゾーとの戦いは終わったんだ。君は勝ったんだよ」
ゴンは一瞬混乱した表情を見せたが、すぐに目を見開いた。
「そうだ! 次はキルアとマヤの試合だ! 見なきゃ!」
痛みをこらえて立ち上がろうとするゴン。医師は困った表情で彼を制止しようとするが、ゴンの決意は固かった。
「大丈夫です! 友達の試合、応援しないと!」
よろめきながらも廊下へ出たゴンは、試合場への道を必死で探した。頭の傷から少し血が滲んでいるが、彼の目には友達への心配と興奮だけがあった。
「キルア! マヤ! 待ってて、今行くからね!」
キルアは試合中にイルミの念に襲われ、体の意思を奪われる。キルアの思いとは裏腹に、キルアはマヤの体をその爪で貫いた。キルアの必死の抵抗により急所は免れるがそれでも鮮血は飛んだ。
「いッ……うァ、きる、あ……ご……めん……ね……」
マヤは血を流して地面に倒れ付しながらもキルアの顔を見上げて弱々しく微笑んだ。キルアが負けを宣言した事によりキルアとマヤの対戦はマヤの勝利となって、意識を失ったマヤが医務室に運ばれていく。イルミがキルアの側に現れ、「これでわかっただろ、お前に友達を作る資格はないよ。殺し屋に友達なんていらない」と冷徹に言った。
「ふざけるな……友情を試すとは何事だ。殺し屋であろうと、誰にだって繋がりを持つ権利がある」
「くそっ! あのイルミってやつ……絶対に許さねぇ! マヤ、早く目を覚ませよ」
クラピカの瞳が怒りに燃え、イルミの姿を視界の端にとらえ、拳を強く握りしめる。レオリオも怒りと心配が入り混じった顔をして拳を握りしめていた。クラピカはゆっくりと立ち上がり、マヤが医務室に運ばれた方向を見た。そして小さく、しかし確かな声で続けた。
「キルアは君を傷つけたくなかった。それは彼の目を見れば明らかだった。マヤ、回復したら……彼と話をしてやってくれ」
ゴンは医務室からやってきた廊下の端で、すべてを目撃していた。キルアの葛藤、マヤの倒れる姿、そしてイルミの冷酷な言葉。彼の拳は震え、目には怒りが宿った。
「キルア!」
ゴンは傷を押して走り出した。イルミの前に立ちはだかり、真っ直ぐな瞳で挑むように見上げる。
「友達を作る資格がないなんて、誰が決めるんだ! キルアは自分で決められるよ!」
イルミは無表情のまま、針のように鋭い視線をゴンに向ける。しかしゴンは一歩も引かなかった。ゴンの声は会場中に響き渡った。周囲の受験者たちも静かに見守っている。
「キルアはオレたちの友達だ! マヤだって……マヤだってそう思ってる! もう二度と、キルアの心を操らないで! キルアの人生はキルアのものだ!」
ゴンの言葉にも反応せず、キルアの目は闇に染まっていた。イルミは何も言わず、ただ冷たい視線をゴンに送るだけだった。
「次、第6試合、イルミ対キルア」
試合会場にはすでにイルミが立っており、キルアを見ると「お前は熱をもたない闇人形だ。自身は何も欲しがらず何も望まない。陰を糧に動くお前が唯一歓びを抱くのは人の死に触れたとき。お前は親父にそう育て(つく)られた」と言った。キルアは「オレが望むのは……マヤと一緒にいること。ゴンや、みんなと旅をすること……自分で選んだ道を歩くこと……!」と言った。
ゴンの目に決意の光が宿る。彼は包帯から滲む血を気にする様子もなく、キルアを見つめていた。
「キルア、そうだよ! キルアの道は自分で決められるんだ!」
イルミの冷たい視線がキルアからゴンへと移る。その目には微かな驚きと怒りが混ざっていた。イルミが一歩踏み出した瞬間、ゴンは痛みに顔をゆがめながらも、キルアの側に立つ。キルアの言葉にレオリオも思わず拳を握りしめた。
「そうだ、キルア! 自分の言葉で言い返せ! お前にはマヤがいるんだ、オレたちがいるんだ!」
「キルアが望むものは、キルアだけが知ってる! オレはキルアを信じてる!」
ゴン、レオリオ、クラピカの言葉はキルアに届いたのかどうか。彼は微動だにせず、ゴン達の言葉に反応を示さない。
「ふーん……でも思い出してみなよ。お前はマヤに何をした? その手で突き刺したよね。血に染まるマヤの姿を思い出してごらん。間違いなくキルがやった事だ」
「オレは……マヤを……傷つけた……?」
ゴンの目に激しい怒りが灯った。彼はキルアに向かって一歩踏み出す。
「違う! キルア、それは違うよ!」
「そうだ、それは違う!」
「キルア! 絶対お前のせいじゃない!」
ゴンは傷を押さえながらも、力強く声を張り上げた。周囲の受験者たちが息を飲む。それに同調するようにクラピカとレオリオも横に立って声を張り上げる。
「マヤは分かってたんだ。キルアが自分で選んだんじゃないって。だからマヤは最後に微笑んだんだよ!」
イルミが冷たい視線でゴンを見つめる。しかしゴンは一歩も引かなかった。
「キルア、オレたちはずっと友達だ。マヤも、レオリオも、クラピカも。みんなキルアの味方だよ!」
「くそっ! あのイルミのやつ、兄弟とは思えねぇな! キルアを操るなんて許せない!」
レオリオは怒り、ゴンはキルアに近づいて震える手を差し伸べた。
「自分の心を取り戻すんだ、キルア! イルミの言うことなんか聞かなくていい!」
「キルア、マヤは今も医務室で待っている。彼女は無事だ。イルミの言葉を信じるな」
仲間たちの必死の訴えもキルアには届かず、イルミの勝利で試合が終わったあとも始終虚ろな表情で、光を失くした瞳は何も映していなかった。まるで人形のように。そして突然、レオリオとボドロの試合が開始された直後、キルアの右手はボドロの心臓を貫いていた。キルアは一度も振り返ることなく、試験会場の扉に向かい……そのまま出て行った。
「イルミ……ゾルディック家の名を盾に他者を操り、自分の思い通りにしようとする。この卑劣さは幻影旅団と何も変わらない。キルアは本来の自分を取り戻せる。その時のために……私たちがいる」
クラピカは窓の外を見つめ、独房に閉じ込められたキルアのことを思う。そして医務室でまだ目覚めないマヤの姿を脳裏に浮かべる。クラピカは医務室へと足を向け、マヤのベッドの傍らに静かに腰を下ろした。
真っ暗な医務室に光が差し込む。ゴンが決意に満ちた表情で立っていた。医務室のベッドで眠るマヤの横には、レオリオとクラピカもいる。
「待ってろよ、キルア。必ず助けに行くからな! マヤも目を覚ましたら、絶対に一緒に行くって言うはずだ。だから……」
ゴンの拳が強く握られる。額の包帯から血が滲み出しているが、彼は気にする様子もない。クラピカがゴンの肩に手を置く。
「無茶はダメだ、ゴン。でも、キルアを取り戻すために、私たちも力になる」
レオリオも頷きながら、真剣な表情でゴンを見つめる。
「ああ、絶対にキルアを連れ戻す!」
ゴンの目に光が宿り、窓から見える遠くの山々—キルアが囚われているであろうゾルディック家のある方向を見つめる。
「マヤ、目を覚ましてくれ。キルアは君の声を必要としている。友情の絆こそが、彼を暗闇から救い出す光になる」
クラピカは椅子に腰を下ろし、マヤの冷たい手を両手で包み込んだ。
「俺たちで取り戻そう。ゴンも同じこと考えてる。だから、頼む……目を覚ませ」
レオリオもマヤの横に座り、眉間にしわを寄せながら彼女の手を握った。
「マヤ、今キルアは苦しんでる。あいつはお前を傷つけたんじゃない。お前が一番知ってるはずだ。早く目を覚まして、キルアに伝えてやれ。お前の言葉なら、あいつを救えるんだ」
レオリオがそう言った時、マヤの目がゆっくりと開かれた。マヤは目を覚ますとベッドの横にゴン、クラピカ、レオリオがいることに気付いて微笑みを浮かべる。3人の顔が明るくなる。
「マヤ!」
「みんな……、キルアは……?」
そしてキルアがいないことに気付くとその表情を心配そうに曇らせた。そして無理やり体を起こそうとする。
「う……っ、痛っ……」
「マヤ! 無理しないで! まだ体は回復してないよ!」
ゴンは優しくマヤの肩に手を置き、再び横になるよう促す。彼の目には心配と決意が混ざり合っていた。その隣でクラピカやレオリオも心配そうにマヤを見ている。
「無理をするな。まず体を癒せ」
彼は一瞬ゴンとレオリオの方を見てから、再びマヤに視線を戻した。レオリオの眉間にはいつもの鋭い皺が刻まれている。
「そうだ、無理すんな! お前はまだ動ける状態じゃねぇ。キルアは……あいつは家に連れ戻された。ゾルディック家に」
「でも大丈夫! オレたちで必ず助けに行くから!」
ゴンは窓の外を見つめ、拳を強く握りしめる。外では雨が降り始めていた。マヤも同じように窓の外に視線を向けた。
「そっか……キルア、大丈夫かな……」
「キルアはオレたちの大切な仲間だ。絶対に見捨てないよ。だからマヤも早く元気になってね。みんなで一緒にキルアを取り戻しに行こう!」
ゴンの力強い声に、部屋の空気が変わった。マヤの目に、少しずつ希望の光が戻り始める。クラピカは拳を握りしめ、決意に満ちた表情で続けた。
「キルアは本当は自分の意志で友達と共にいることを選んだはずだ。それをイルミが歪めた」
そして彼はマヤの横のテーブルに置かれた水を差し出しながら、静かに告げた。
「必ず……キルアを連れ戻す。君の助けも必要になるだろう。だから、まずは体を休めて」
「そうだぞ、その前にお前がちゃんと回復しねぇと話にならねぇんだよ!」
「私……キルアと友達でいたいよ。ゴンとも、クラピカやレオリオとも……。絶対回復するから、お願いだから……置いていかないで……」
「私も一緒に行きたいの……キルアを迎えに」
マヤは皆の顔を不安そうに見つめて言った。ゴンはマヤの言葉に目を見開き、すぐに力強く頷いた。クラピカもマヤの真っ直ぐな眼差しに、一瞬驚きの表情を見せた。その後、彼の顔に優しい微笑みが浮かぶ。
「マヤ、もちろんだよ! 絶対に置いていかないから! オレたちは仲間だもん!」
「わかった。約束しよう。置いていくつもりはない」
「良かった……絶対、絶対だよ。ありがとう皆。絶対みんなでキルアを助けに行こうね」
「ただし、回復するまでは無理をするな。キルアも、そんな君を見たら怒るだろう」
「キルアもお前のこと心配してるだろうな。ちゃんと連れ戻そうぜ、あの白髪ツンデレを」
ゴンは窓から差し込む夕日を背に、マヤの隣に座り、小さくて綺麗な石を彼女のベッドサイドに置く。
「これ、オレの大切なもの。マヤに預けておくから、絶対に元気になってね。そしたら、みんなでキルアを取り戻しに行こう!」
ゴンの瞳には揺るぎない決意が宿っていた。レオリオとクラピカも彼の言葉に頷き、それぞれがマヤに向けて微笑みかける。
「キルアはきっと待ってるよ。だからマヤ、ちゃんと休んで。ねえ、約束だよ?オレたち五人で、また一緒に冒険するって!」
部屋に朝の光が満ちていく中、ゴンは拳を軽く上げ、マヤの方へ向けた。彼の笑顔は太陽のように眩しく、希望に満ちていた。
クラピカ彼は立ち上がり、窓の外を見つめる。夕暮れの光が彼の横顔を照らしていた。そして再びマヤの方へ向き直り、ポケットから小さな赤い石を取り出した。
「これは、クルタ族の護符だ。回復を早める力がある。今は君に貸そう」
彼は静かにその石をマヤのベッドサイドに置き、レオリオとゴンに視線を向けた。
「私はヒソカに会ってくる。彼なら、ゾルディック家についても何か知っているはずだ。君たちはマヤを頼む」
「いや……オレもなんか差し入れ買ってくるよ。水だろ、果物だろ、あと……なんだ?」
「ありがとう、二人とも。気をつけてね」
「ゴン……ねえ、少しの間だけ手を繋いでてもいい?」
マヤはそう言って手を微かに伸ばす。ゴンはマヤの伸ばした手を見て、迷わず自分の手を差し出した。
「うん! もちろんだよ!」
彼はマヤの手をしっかりと、でも優しく握る。その温かさが彼女の体に少しずつ力を与えていくようだった。
「マヤの手、冷たいね。大丈夫? もっと毛布いる?」
「ううん、大丈夫だよ」
ゴンは心配そうに顔を覗き込む。その素直な表情には、友達を思う純粋な気持ちが溢れていた。
「キルアはね、本当は優しいんだ。家族のことで色々あるみたいだけど……でも、オレたちが絶対に迎えに行くって、きっと信じてるよ! だからマヤも早く元気になってね!」
部屋の窓から朝日が差し込み、二人の手が重なる影を床に映し出していた。
「ねえマヤ、キルアに会ったら、みんなでどこに行きたい? オレね、またみんなで冒険したいんだ!」
「うん……わたしも、冒険に行きたい……」
マヤはゴンの手を握りながらゴンの話に耳を傾け、そう言うなり再び眠りについた。ゴンはマヤが眠りについたのを見て、そっと微笑んだ。彼女の手をまだ握ったまま、優しく見守っている。
「大丈夫だよ、マヤ。オレがここにいるから……」
彼は小声で囁くと、マヤの手から伝わる微かな脈動を感じながら窓の外を見つめた。雲間から射す光が、希望の兆しのように思えた。ゴンはマヤの安らかな寝顔を見つめ、決意を新たにする。窓辺では小鳥が鳴き始め、新しい朝の訪れを告げていた。
「マヤ、キルア、クラピカ、レオリオ……オレたちはずっと仲間だ。ジンさんも言ってたよ、本当の仲間は離れていても心はつながってるって。だから、キルアも絶対大丈夫だから……」