タダ×アイタイ×カラ






ゼブロの家は何もかもが重量級の家だった。50キロの水筒で水を飲み、20キロのスプーンやフォーク等で食事を取り、50キロの服を着る。マヤは洗濯をしようと300キロあるバケツを一生懸命運んでいた。汗で額を濡らしながら、マヤの奮闘を見守るクラピカの瞳が穏やかな色を映す。



「その調子だ。最初は辛いが、身体は必ず慣れていく。諦めなければ道は開ける」



彼はマヤの隣に立ち、同じく重いバケツを持ち上げた。



「クラピカ! うん、絶対1ヶ月より早く突破してやるんだから!」

「ああ、共に成長しよう。キルアを取り戻すためにも、この試練を乗り越える必要がある。少しずつでいい。確実に強くなれば、試しの門も開くはずだ」



レオリオは汗だくになりながら300kgのバスタブを引きずっていた。



「くそっ! こんなの……ゴホッ……人間の生活じゃねぇよ!」



しかし彼はマヤとクラピカの奮闘する姿を見て、自分も負けじと力を入れた。



「でもな……キルアはこんな環境で育ったんだろ……だから強いんだ。俺たちだって、こんなの乗り越えられなきゃ……あいつの前に立つ資格なんてねぇんだよ!」

「すごいよマヤ! その300キロのバケツ、最初は持ち上げるのも大変だったのに!」



ゴンは自分も負けじと300キロのダンベルを持ち上げ、腕の筋肉を震わせながら数を数えていた。汗が額から滴り落ちる。



「56……57...…58...…うぅ...…キルアのこと考えると...…もっと頑張れる...…59...…60!」

「うん、早く会いに行きたいね。キルアどうしてるかな……」



彼はダンベルを下ろすと、深呼吸をして窓の外を見た。遠くに見える試しの門に向けて目を細める。ゴンは期待に満ちた笑顔でマヤを見つめ、拳を前に突き出した。



「大丈夫だよ! キルアに会うまであと少し! あいつの顔が見たくて仕方ないんだ!」

「ああ……私も同じ気持ちだよ、ゴン」

「そうだぜ! マヤだってオレだってそうなんだからな!」



皆がこうやって気持ちをひとつにしてトレーニングしてる。こういうのっていいな、とマヤは思った。ゴンはトレーニング着の袖をまくり上げ、腕の筋肉を自慢げに見せた。



「見て、マヤ! オレの腕、もう完全に治ったんだ! 今なら門にだって挑戦できるよ!」



彼は笑顔で200キロの水筒を軽々と持ち上げ、一気に水を飲み干した。マヤも隣で同じように水筒を持って水を飲み干し、ゴンと笑い合う。



「私もだよ! もうすっかり元気!」



汗を拭いながら、ゴンは窓の外を見つめた。そこには雲に覆われたククルーマウンテンの姿が見えていた。ゴンは拳を握り締め、決意に満ちた表情で仲間たちを見回していた。


















「お世話になりました!」



ゼブロは笑顔でうなずく。そうして、試しの門をクリアした4人はゾルディック家の屋敷に向かって歩き始めた。



「やったあ、20日で開けられた! 1ヶ月より早く! みんな凄く頑張ったよね!」

「うん! みんなすごく強くなったよ!」



ゴンは拳を空に突き上げ、山道を元気よく駆け上がる。背中のリュックが揺れ、長い釣り竿が後ろでカタカタ音を立てる。振り返ると、レオリオやクラピカも着いてきている。ゴンは歩みを緩め、遠くに見える不気味な館を指さした。



「あそこがゾルディック家だ! キルア、待っててね! 絶対に連れ戻すから!」

「まだ安心するには早い。ゾルディック家、そして暗殺者一族の本拠地だ。この先はさらに厳しい試練が待っているだろう」



腕を組み、門柱を睨むようにして立ち止まるクラピカ。後ろから迫る不穏な気配に警戒を強める。クラピカは警戒を怠らないまま人影へと目を凝らす。レオリオは怪しい人影に気づくと、反射的に前に出て仲間を守る体勢を取った。



「おい、誰だ? 敵なら覚悟しろよ! 特訓で鍛えた腕を試してやるぜ!」



しかし人影が近づくにつれ、それがゾルディック家の執事の一人であることがわかった。レオリオは緊張しながらもマヤに小声で話しかける。



「こいつがキルアの家の関係者か..….油断するなよ。ここからが本当の試練だ。俺たちの特訓の成果、見せてやろうじゃねぇか!」

「待って! ここはオレが行くよ」



ゴンが真っ直ぐな瞳でそう言ったのでマヤもクラピカもレオリオもゴンを信じて頷いた。



「オレ達、君と争う気は全然ないんだ。キルアに会いたいだけだから」



それから、どんなにゴンが殴られても殴られてもマヤ達は微動だにせず見つめ続けていた。ゴンを信じているから。




















ハンター試験終了後、キルアはゾルディック家の独房にいた。体を拘束されながらも頭に浮かぶのはマヤの事ばかりだった。

キルアは鎖で縛られた両手を見つめ、歯を食いしばる。暗い独房の壁に映る自分の影が歪んで見える。脳裏に浮かぶのは、自分の手がボドロの胸を貫いた瞬間と、マヤの驚愕に満ちた表情だ。



(マヤ……本当にごめん……。)



キルアは拘束された腕を見つめる。イルミの念による幻覚と現実が入り混じり、苦しみに顔を歪める。



(マヤ……オレは……お前を守るって約束したのに……。)



鎖を引きずりながら、彼は独房の壁に向かって拳を叩きつける。血が滲むが、その痛みすら彼の心の苦しみを紛らわすには足りない。



(ここから出たい。そしてマヤに……ちゃんと謝りたい。マヤに会いたい……。)



それでも次に会ったときマヤにどんな目で見られるのかと思うとキルアの心は深く沈んでいく。







───マヤは分かってたんだ。

キルアが自分で選んだんじゃないって。だからマヤは最後に微笑んだんだよ!







キルアの目が驚きで見開かれ、ゴンの言葉が耳に蘇る。暗い独房の中でその記憶だけが鮮明に浮かび上がる。マヤの最後の微笑み……キルアの手が拘束鎖を強く握りしめる。



(マヤは……最後に微笑んだ……? オレのせいじゃないって……分かってくれてたのか……)



キルアの表情が変わり、自分を責める暗さから、何かを取り戻した決意に満ちた顔へと変化していく。



(イルミ……てめえはオレの大切な人を人質にしようとしたな。もう二度と……オレの心も体も、好きにはさせない!)



キルアは渾身の力で鎖を引きちぎった。



(マヤ……待っていてくれ。今、迎えに行く。)



廊下の片隅でゾルディック家の執事が電話していて、「ゴンとマヤとクラピカとレオリオ? そんな奴は知らない。キルアは大事な友達だから迎えに来ただって? 追い返しとけ」と言って電話を切った。鎖を断ち切ったキルアの耳に、電話の内容が微かに届き、キルアの耳がピクリと動く。友達が自分を迎えに来てくれたという事実が、彼の心に新たな希望を灯した。しかし同時に危機感も募る。



(みんな……ここまで来てくれたのか……。でも、マヤたちがここに来たってことは……。)



キルアは素早く独房の扉に近づき、暗殺者の技術を使って錠を解除する。扉が開く音を最小限に抑えながら、彼は廊下に滑り出る。



(正面からじゃ通せないよな……さすがの執事も。)



キルアは壁に身を寄せ、家族の気配を探る。



(でも、オレが知ってる裏道ならマヤたちに会える……!)



彼は影のように廊下を進み、幼い頃から知り尽くした館の秘密の通路へと向かう。動きは確実で、迷いはない。



(マヤ……今、行くから。)



廊下の先にはイルミが立っていた。



「会いに行くの? 行くなら俺は止めないけど、キルは自分の手で引き裂いたんだ。マヤはどんな目でお前を見るだろうね」



キルアは足を止め、イルミの言葉に一瞬たじろぐ。背筋に冷たいものが走るが、すぐに拳を強く握りしめた。



「そうかもしれない……オレはマヤを傷つけた。でもそれは、お前がオレを操ったからだ」



キルアは一歩前に踏み出す。体が小刻みに震えているが、もう後には引かない。引きたくない。



「マヤがどんな目でオレを見るか……それはオレが確かめる。逃げたりしない」



イルミと向き合い、キルアは真っ直ぐに兄の目を見た。恐怖はまだあるが、それを超える決意が胸に広がっている。イルミの横を通り過ぎようとしたとき、キルアは小声で付け加えた。



「マヤに会って、全部話す。謝るべきことは謝る……」



キルアはイルミの冷たい視線を背に感じながら廊下を進む。マヤの微笑みが脳裏に浮かび、胸が締め付けられる感覚に襲われる。



(あの時、マヤは笑ってくれた……。)



彼は足を止めず前へ進みながら、手のひらを見つめる。暗殺者として育てられた手、多くの命を奪った手。



(オレには資格なんてないのかもな……。)



それでも歩みを止めない。キルアの瞳は次第に強い光を宿していく。



(でも、もう逃げない。マヤの前で全部話すんだ。それがオレのできる唯一のことだから。)



キルアは秘密の通路へと続く壁の隠し扉を見つけ、素早く開ける。かつて遊び場だった通路は、今は彼の決意への道となっていた。



(待っていてくれ……今度こそ、自分の意志で選んだ道を行くから。)











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