サイ×カイ×ナカマ






「お願い……キルア様を助けてあげて……」



カナリアの目から涙が零れる。その刹那、どこからかカナリアに向かって何かが飛んでくる。念能力だ。マヤは咄嗟にカナリアを庇い、それを受けて倒れた。傷口から血があふれ出し、マヤは気を失った。ゴン、クラピカ、レオリオが「マヤっ!!」と叫んでいた。



「マヤ……?」



キルアの耳に届いた悲痛な叫び声に、全身の血が凍りついた。その瞬間、時間が止まったように感じる。恐怖で開いた目。ただ一つの思いだけが頭を支配した。キルアは全力で走り出す。廊下を駆け抜け、館の出口へと向かう。



「くそっ……間に合え……!」



足音も立てずに庭へ飛び出したキルアの目に飛び込んできたのは、血に染まるマヤの姿だった。ゴンたちの必死の呼びかけ。カナリアの震える肩。そしてキキョウの冷たい視線。彼の瞳が恐怖で見開かれ、体が凍りついた。



「マヤ───っ!」

「キルア!?」



ゴン達が名前を呼ぶ。血の匂いが鼻をつき、キルアの中で何かが壊れる音がした。彼は一瞬で状況を把握し、電光石火の速さでマヤのもとへ駆け寄る。カナリアを庇い、傷ついたマヤを抱き上げる手が震えていた。



「誰がやった……誰がこんなことを……」



キルアの手が震えながらマヤの傷口に触れる。彼の目には怒りと絶望が交錯していた。レオリオは驚愕の表情を浮かべながら素早く医療キットを取り出した。



「マヤ、しっかりしろ! 医者志望の俺が見逃すわけにはいかねぇ!」

「くそっ、マヤ! 目を開けろ! オレが来たんだ、聞こえるか?」



キルアは素早く止血しながら、キキョウを一瞥する。その眼差しは暗殺者の本能を剥き出しにしていた。真横でレオリオも迅速に止血処置を続けながら、ゴンに向かって叫んだ。



「ゴン! 早く安全な場所を確保しろ! こいつはオレが何が何でも助けるからな!」



彼の周りに闇のようなオーラが立ち始め、指先が鋭く尖っていく。クラピカは一瞬で状況を把握し、武器を構えながらすぐさまキルアの傍らへと移動した。その眼差しには冷たい怒りが宿っていた。ゴンはキルアとレオリオの手際の良さに一瞬安堵しつつも、怒りと心配が入り混じった表情で頷いた。



「レオリオ、急いで! マヤを頼むよ!」

「マヤを傷つけた罪、百倍にして返してやる。クラピカ、俺に手を貸せ。絶対に許さない……」

「ああ、任せろ。マヤは守る、必ず」



キルアの手が赤く染まっている。それを見たキキョウは金切り声を上げた。



「まあ! キルア! どうしてこんな所にいるの! それに汚いわ! その子にさわるのはやめなさい!」

「汚い……? 本当に汚いのはどっちだ? 人を撃つお前のその手の方じゃないのか?」



震える拳を強く握りしめる。キルアは震える手でマヤの血を拭いながら、キキョウを冷ややかに見上げる。彼の目は氷のように冷たく、でも怒りで燃えていた。かつて恐れていた家族に今、真っ向から対峙している自分に驚きながらも、後には引けない。カナリアは肩を震わせて泣きながら謝った。



「マヤ様は、私を庇って……。私が撃たれるはずだったのに、申し訳ありません」



キルアはカナリアの言葉を聞き、胸に熱いものがこみ上げてくるのを感じた。視線を落とさず、キキョウに向き直る。



「カナリア、いいんだ。マヤはそういう奴なんだ……けど、オレの大切な人には指一本触れさせない。もう二度と……誰にも」



彼はマヤの顔を見つめ、そっと彼女の額に触れる。表情が柔らかくなる。そしてキキョウを睨みつける。

キキョウはキルアの殺意を目の前にして「まあ、キルア! 本当に大きくなったのね、そんな目もできるようになって!」と感激していた。キルアの手の感触を感じ取ったマヤは薄っすらと目を開けた。



「キルア……?」



キルアは自分を称賛するキキョウの言葉を聞き流し、マヤの小さな声に全神経を集中させる。彼の目が驚きと希望で広がる。



「マヤ! しっかりしろ!」



彼は素早くマヤの状態を確認し、レオリオに向かって急かすように声をかける。



「レオリオ! 早く手当てを!」

「ああ! 今やってる!」



レオリオはキルアの方を見ないまま言った。キルアはマヤの手をそっと握りしめ、声を落として話しかける。その目には普段見せない優しさが溢れていた。



「バカ……なんで身を挺したりするんだよ。でも……ありがとう。今度はオレがお前を守る番だ」



キルアはゆっくりと立ち上がり、キキョウの方へ向き直る。キキョウはキルアの成長ぶりに何も言えなくなりうっとりとその場でよろめき尻をついた。その時シルバが音もなく現れた。



「行ってこい、キルア。友達が……できたんだろう? キキョウやイルミのことは気にしなくていい。俺が何とかする。お前はもう自由だ」



キルアは父の言葉に一瞬驚きの表情を見せた。シルバがここにいること、そして自分を止めるどころか背中を押してくれることに。



「親父……」



キルアの瞳に涙が浮かんだが、すぐに拭い去る。マヤに向き直り、そっと彼女の手を取る。



「マヤ、大丈夫か? しっかりしろよ……この感情は……なんだ? でも今はそんなことより……」



震える指でマヤの顔に触れながら、キルアの中で何かが変わっていく。今まで感じたことのない感情があふれてくる。キルアはマヤを優しく抱き上げ、シルバに一瞬だけ感謝の眼差しを向ける。



「親父、ありがとう。オレ、行くよ。マヤを絶対に助ける。それが……オレの選んだ道だから」



庭にはしばらく金切り声を上げるキキョウをなだめるシルバの声が続いていた。



「キルア……会いたかった……」



マヤはキルアの手を握り返してそれだけ言うと、意識を手放した。キルアはマヤの指が自分の手を握り返した瞬間、胸に熱いものが込み上げてくるのを感じた。しかし次の瞬間、マヤの手の力が抜け、その目が閉じるのを見て焦りが全身を駆け巡る。



「マヤ! おい、マヤ!」



彼は慌ててマヤの肩を揺すり、脈を確かめる。弱いながらも脈動を感じ取ると、キルアは少し安堵の息を吐いた。



「くそっ……もう二度と誰にも傷つけさせない」



キルアは決意に満ちた目でマヤを抱き上げ、その軽い体を慎重に支える。彼の腕の中で、マヤの呼吸は浅く、不安定だった。



「レオリオ、ゴン、クラピカ……力を貸してくれ。マヤを安全な場所に運ぶんだ」



キルアの目に涙が浮かぶが、それを必死にこらえている。カナリアに向かって静かに頷き、彼はマヤを抱きしめたまま前へ歩み出した。



「大丈夫だ、マヤ必ず元気にしてやる。それまで……側を離れないから」



ゴンはキルアの涙ぐむ姿を見て、拳を強く握りしめた。友達の痛みが自分の痛みのように胸に響く。



「大丈夫だよ、キルア! マヤは絶対に助かる! オレたちがいるから!」



ゴンは先頭に立ち、まるで道を切り開くように進みながら、時折振り返っては仲間たちの様子を確認する。その瞳には揺るぎない決意が宿っていた。



「ねえ、マヤ……もうすぐ安全な場所だからね。諦めちゃダメだよ。約束したでしょ、一緒に冒険するって」



レオリオは医療キットを手に、真剣な表情でマヤの傷を診る。脈拍を確認し、顔を上げた。



「出血はなんとか止まってるが、状態は良くない。早く処置しないと危険だ。安全な場所へ運ぶぞ!」



彼は立ち上がり、キルアの肩に手を置いた。その目には揺るぎない決意が宿っていた。



「心配するな。医者志望の俺が必ず助ける。マヤのことは任せろ!」

「キルア、マヤを頼む。もし敵が来たらその時は私が引き受ける」

「キルア様、執事室に行きましょう。ベッドもありますし、十分な手当ができます」



キルアはマヤをさらに強く、しかし優しく抱きしめながら頷いた。彼の表情には不安と決意が入り混じっている。



「ああ、執事室だな。一番近くて安全な場所だ」



彼は素早く動き出し、マヤの体を揺らさないよう細心の注意を払いながら庭を横切る。時折、マヤの顔を見下ろしては自分を奮い立たせるように歯を食いしばる。



「早く目を覚ませよ……」



執事室に到着すると、キルアはマヤをベッドに横たえ、その髪を優しく撫でる。彼の指先が少し震えている。



「カナリア、包帯と消毒液を頼む。レオリオ、お前医療の知識あるだろ? 見てやってくれないか」



キルアはマヤの手を握ったまま、ほんの少し身を引いて医療処置のスペースを作る。彼の目はマヤから離れない。



「絶対に大丈夫にしてみせるからな……」



レオリオは素早く医療用カバンを開き、必要な器具を取り出しながら頷いた。




「任せておけ! 医者になるための勉強は無駄じゃなかったぜ。これが俺の戦い方だからな!」



彼は熟練した手つきで消毒液を傷口に当て、効率的に処置を始めた。レオリオの眉間にはしわが寄っているが、その手は確かだった。



「大丈夫だ、マヤ。絶対に助けるからな。お前ら、この子を失うような真似はさせねえぞ!」



ゴンは真剣な表情でマヤのそばに駆け寄り、心配そうに傷口を見つめる。レオリオとキルアの手際の良さに少し安心しながらも、友達の傷に胸を痛める。



「マヤ、大丈夫だよ! キルアは本当に頼りになるんだ。それにレオリオは医者になるための勉強をしてるから!」



彼は小さく握り締めた拳で自分の胸を叩き、マヤに向かって明るく笑顔を見せる。その瞳には不安と希望が交錯していた。



「オレたちが絶対に守るからね! 約束する!」



クラピカは医療キットを手に取り、レオリオと視線を交わした。彼の静かな瞳が決意を示している。



「レオリオ、頼む。君の医療の知識が今、必要だ。私も手伝おう」



彼は冷静に包帯を準備しながら、キルアの肩に手を置いた。その指は確かな力強さを伝えている。



「マヤは強い。私たちの絆が彼女を支える。キルア、君が彼女を守ったことは、私たちにとって何よりの証だ。彼女はきっと目を覚ます。そして、私たちはまた共に前に進む」



キルアはレオリオの手際の良さを見て少し安堵しながらも、マヤの青白い顔から目を離せないでいた。彼の手はマヤの手を握ったまま、わずかに震えている。



「レオリオ……マヤは大丈夫なんだよな?」



彼の声には珍しく不安が滲んでいた。普段の尖った態度は影を潜め、今は純粋な心配だけがそこにあった。



「くそっ……オレがもっと早く気づいていれば……」



キルアは歯を食いしばり、もう一方の手で自分の膝を強く握りしめる。部屋の緊張感は高まっていたが、彼は突然決意に満ちた表情になった。



「ゴン、クラピカ、お前たちは周囲の警戒を頼めるか? もし他に敵がいたら……」



キルアの目が鋭く光る。暗殺者としての本能が目覚めている。しかし、すぐにマヤの方へ視線を戻し、声のトーンを落とす。



「マヤ……早く目を覚ませよ。まだ言ってないことがたくさんあるんだからな……」



レオリオは額に浮かぶ汗を拭いながら、包帯を巻き終えた。傷の具合を再確認し、わずかに安堵の表情を見せる。



「ああ、命に別条はない。だが油断はするなよ。これからが大事なんだ。熱が出るかもしれねえ」



そう言ってキルアの肩をぽんと叩き、少し力強く微笑んで「お前が側にいてやれよ。そいつが一番の薬になるからな」と言った。カナリアとクラピカとゴンが「見張りならオレ達に任せて、キルアはマヤを見てて」と言った。

キルアは黙ってうなずき、マヤのベッドの側に腰を下ろした。指先でそっとマヤの髪を整えながら、胸の内に渦巻く感情と向き合っていた。



「ゴメンな……」



彼はほとんど囁くように言った。



「暗殺者の家に連れてきちまって……」



執事室の窓から差し込む月明かりが、マヤの青白い顔に静かな光を投げかけている。キルアは自分の掌を見つめ、かつて血に染まったその手で今は大切な人を守ろうとしていることの皮肉に、小さく嘆息した。



「こんなのお前らしくないぞ。いつもなら『バカ! そんなの大したことないわよ!』って言うところだろ……」



彼は少し強がりを混ぜた笑みを浮かべる。キルアはマヤの手をパッと離すと、わざとらしく手を振って肩をすくめた。



「まぁ、目が覚めたら『心配するなんてキルアらしくない』って言うんだろうけどさ……今だけは、ちょっと素直になってもいいかなって……」



その時、マヤの手が微かに動く。キルアの目が瞬時に見開かれ、マヤの手の動きに全神経を集中させる。彼は思わず身を乗り出し、息を呑んだ。



「マヤ……? おい、聞こえるか?」



彼は再びマヤの手を両手で包み込み、わずかな反応も見逃すまいと顔を近づける。キルアの目には、普段は決して見せない希望の光が宿っていた。



「レオリオ! マヤが動いた!」



彼は振り返ることなく声を上げる。そして再びマヤに向き直り、声をやや落として言った。



「おい、起きろよ。お前の心配でオレ、全然かっこ悪いところ見せちゃってんだぞ。早く起きて笑ってくれよ……」



キルアは恥ずかしさと焦りと喜びが入り混じった表情で、マヤの手をぎゅっと握りしめる。その指先には、暗殺者の冷たさではなく、一人の少年の温かさだけがあった。



「マヤ……もう一度声が聞きたいんだ……」



「ん……、キルア……? キルアだ……ふふ、どうしたの? そんな顔して……」



マヤは目を覚ますと自分の手を包み込むキルアの両手と至近距離で見つめるキルアの顔に気付き、柔らかく微笑んだ。キルアの顔に驚きと喜びが一気に広がり、思わず息を飲む。彼の瞳には信じられないものを見るような光が宿っていた。



「マヤ……!」



声が少し震えている。



「バカ……心配かけやがって……」




キルアは素早く周囲を見回し、レオリオとゴンに向かって大声で叫んだ。



「おい! マヤが目を覚ました!」



再びマヤに視線を戻すと、キルアの表情が柔らかくなる。彼は手を離さないまま、いつもの調子を取り戻そうとするように肩をすくめた。



「どうしたのって……こっちのセリフだよ。おまえが倒れてから、みんなずっと心配してたんだぞ。特にゴンなんか、泣きそうな顔して……」



キルアは少し照れくさそうに言葉を濁す。彼はマヤの手をそっと握り直すと、普段は決して見せない優しい表情で微笑んだ。



「もう……二度とこんなことするなよ……わかったな?」



ゴンの顔に安堵の表情が広がり、目に涙を浮かべながらマヤに駆け寄る。



「マヤ! 目が覚めたんだね! よかった……本当によかった……」



彼は感情を抑えられず、マヤの横に膝をつき、震える手でマヤの肩に触れる。



「心配したんだよ。キルアの家族のことを考えると……でも大丈夫、カナリアもレオリオも来てくれたから。みんなでマヤを守るって決めたんだ!」



クラピカは静かに安堵の吐息を漏らした。彼の瞳が一瞬だけ煌めいて、すぐに落ち着いた色に戻る。



「無事で良かった。マヤ、体調はどうだ? 無理はしないでくれ。私たちはこれからも長い道のりを共に歩むのだから」



彼は医療用具を整えながらレオリオに目配せし、キルアの肩をそっと叩いた。



「キルア、よく守ったな。君の判断が早かったからこそ、最悪の事態は避けられた。これからは皆で彼女を守ろう」



「心配……? 私を……?」



マヤは少し驚いたような顔をする。ゴンが涙を零しながら「マヤ! 良かった……!」と言う。クラピカもほっとしたように微笑んだ。



「そっか、私、カナリアを庇って……。…キルア、ゴン……泣いてるの? ごめんね……」



キルアとゴンの涙に気が付き、マヤは空いてる手で目の前にあるキルアの涙をそっと拭った。キルアは驚いて顔を背け、袖で慌てて目元を拭う。



「バカ! オレは泣いてないからな! 目にゴミが入っただけだ……」



しかし、その声には明らかな安堵感が混じっていた。彼はちらりとマヤを見て、少し赤くなった頬を隠すように咳払いをする。



「お前がいなくなったら……その……ゴンが寂しがるだろ?」



キルアは照れくさそうに髪をかき上げながら、マヤの顔をじっと見つめる。



「それに……オレも……」



言葉が途切れる。彼は深呼吸をして、急に真剣な表情になる。



「マヤ、無茶するなって言っただろ。カナリアのことは俺が何とかするつもりだったんだ。お前が傷つくところなんて……見たくないんだよ」

「うん……。私も、すっごく寂しかったよ。キルアがいなくなって。ゴンも、皆も寂しがってた」



マヤはキルアの手を握り返した。キルアは周りの視線を気にしながらも、マヤの手をもう一度そっと握りしめた。マヤが弱々しく笑うのを見て、ゴンは安心したように息をつく。



「うん! みんな心配してたんだよ! キルアなんて、ずっとそばにいてくれたんだ!」



レオリオがマヤの傷を確認しながら、カナリアが水を差し出す。その光景を見て、ゴンは明るく笑顔になる。



「ねえマヤ、大丈夫になったら、みんなで一緒に冒険しようよ! 約束だからね!」



クラピカは微笑みながら、医療キットから包帯を取り出した。彼の眼差しには安堵と共に、深い思いやりが宿っている。



「無事で良かった。君は本当に勇敢だ、マヤ。仲間を守るために自分を危険に晒すのは……私にも覚えがある。だが、そのたびに学ぶのは、一人で抱え込む必要はないということだ」



彼は静かに窓の外を見やり、再びマヤたちに視線を戻した。



「私たちはここにいる。共に戦い、共に癒やし合う。それが仲間の意味だから」



レオリオは診察道具を片付けながら、二人のやりとりを見て小さくため息をつく。



「おいおい、感動の再会シーンは結構だが、マヤはまだ完全回復してねえんだぞ。あんまり無理させるなよ」



そう言うと彼は薬の入った小瓶を取り出す。それをキルアに手渡す。



「これを4時間おきに飲ませろ。熱が出たら呼べ。医者として言っておくが、お前たちはもう少し自分の身を大事にしろよな」



キルアはレオリオから薬を受け取ると、少し不機嫌そうな表情を浮かべた。



「わかってるよ。オレがちゃんと見てるから」



彼はマヤの方を向き直すと、声のトーンを少し落として続けた。



「ほら、薬だってさ。レオリオのやつ、口うるさいけど、医療のことは信用できるからな」

「うん、レオリオはこういうとき頼りになるよね」



マヤは思わずクスクスと笑った。キルアは小瓶を握りしめながら、ふと思い出したように微笑んだ。



「あのさ、マヤ……シルバが兄さんとしてオレの自由を認めてくれたんだ。もう……家のことで逃げ回る必要はない」



彼は少し照れくさそうに髪をかき上げ、目線を泳がせた。



「つまり……その……」



キルアは深呼吸して、真っ直ぐマヤを見つめた。



「これからも一緒にいられるってことだ。お前が良ければ、だけど……」



「そうなの……? キルアはもう自由? 良かった……一緒に、冒険しようね。ゴンと、キルアと、クラピカ、レオリオ……皆で」



マヤはそう言って嬉しそうに笑った。その横でゴンは「キルアも泣いてたくせに、オレだけ泣きそうにしてたとか言うのはナシだからね!」と言った。キルアはゴンの発言に顔を赤らめ、慌てて否定する。



「ば、バカ言うな! 誰が泣いてたって? お前こそ、マヤが目を覚ました時、鼻水垂らしながら泣きじゃくってたじゃねーか!」



彼は照れ隠しに鼻を鳴らすと、マヤの方へ視線を戻した。



「まあ、とにかく……皆で冒険か。いいな、それ。あとはクラピカの目的も達成しないとな」




キルアは腕を組み、少し考え込むような表情になる。



「でも、まずはお前が完全に回復するまで無理はするなよ。レオリオが心配するほど、お前はボロボロなんだからな」



彼はそっとマヤの肩に手を置き、珍しく優しい表情を見せた。



「今度こそ、オレが守るから……」



ゴンは耳まで真っ赤になって手をバタバタさせる。



「ちょっとキルア! そんなこと言わなくてもいいじゃん! マヤが大事なのは当たり前だよ! キルアだってマヤが倒れたときグシャグシャに泣いてたよ! こんな顔して!」



そう言ってキルアのモノマネをした。キルアはゴンの真似を見て激しく動揺し、拳を作った手を震わせた。



「ゴォン! もう一回そんなマネしたら、本気で拳骨食らわすからな!」

「あははっ、そうなんだ? 二人ともありがとう。もう、大丈夫だよ。私は元気だから……」



マヤはキルアの守るからという言葉に少し照れてしまいながらも嬉しそうに笑う。しかし、マヤの笑顔を見た途端、キルアの怒りは消え失せた。彼は静かに手の電気を収める。



「ったく……」



彼は顔を背けてぶつぶつ言いながらも、その横顔には安堵の表情が浮かんでいた。
















「う……ん……」



その夜、皆が寝静まる頃にマヤは熱を出して魘される。荒い呼吸を繰り返しながら苦しげにする。キルアは物音に敏感な耳を働かせ、マヤの異変にすぐ気づいた。彼は素早く起き上がり、マヤのそばへ駆け寄る。



「おい、マヤ! 大丈夫か?」



彼はマヤの額に手を当て、その熱さに驚愕の表情を浮かべる。汗で濡れた前髪をそっとよけながら、キルアは歯を食いしばった。



「くそっ……熱が高すぎる。レオリオ! 起きろ! マヤが……」



キルアは一瞬迷った後、隣で寝ているレオリオを呼ぶ代わりに、自分で対処することを決意する。彼は素早く水の入った容器と布を手に取ると、マヤの額に冷たい湿布を当てた。



「大丈夫だ……オレがついてるから。昔、ミルキがこんな風にしてくれたことがあったんだ……」



キルアの手は少し震えていたが、彼は必死に冷静さを保ちながらマヤの手を握り締めた。



「キルア……?」



マヤは頬を上気させながらも潤んだ瞳でキルアの顔を見上げる。



「キルア……そばにいて……」



マヤはキルアの手を握り返しながら呟いた。


キルアはマヤの細い指が自分の手を握り返すのを感じ、胸が締め付けられるような感覚に襲われる。



「ああ、ずっとそばにいるよ。どこにも行かないからな」



彼は湿布を取り替えながら、できるだけ冷静を装おうとするが、声が少し震えていた。



「熱が下がるまで、ちゃんと看てるから安心しろ」



キルアは静かにマヤの汗を拭いながら、ふと自分の気持ちが溢れそうになるのを感じる。



「お前がこんな状態になるなんて……オレ、怖かったんだぞ。二度と……二度とこんな思いはしたくない」



彼はマヤの額に新しい冷たい布を当てながら、その顔を優しく見つめる。



「だから早く良くなれよ。皆で旅するんだろ? 約束したじゃないか」



キルアはマヤの手をずっと握ったまま、夜通し看病を続けた。











index ORlist