ボウ×ケン×ナカマ






朝になるとマヤの熱は消え、傷口も癒えていた。マヤは目を覚ますと気恥ずかしそうにキルアの顔を見上げた。



「おはよう……、ありがとう、キルア」



そっと身を起こすマヤにゴン達も駆け寄ってくる。キルアは眠そうな目をこすりながらも、マヤの顔色が良くなったのを見て明らかに安堵の表情を浮かべる。



「ああ、やっと目が覚めたか。マジで心配させんなよ」



疲れた様子でありながら、彼の顔には微かな笑みが浮かんでいた。



「キルア、一晩中看病してたんだよ!」



ゴンの言葉に、キルアは慌てて手を振る。



「うっせーな! 別に大したことしてないって。レオリオが薬くれただけだし……」



しかし、マヤの笑顔を見ると、キルアは言葉を止め、少し顔を赤らめながら立ち上がる。彼は窓の外に目をやり、朝日に照らされる山々を見つめる。



「とにかく、これで皆揃ったな。これからどうするか考えないと……。せっかく自由になったんだ。行きたいところ、やりたいこと、全部やろうぜ。もちろん、お前がちゃんと元気になってからな」

「えっ! てゆーかキルア! その顔どーしたの!」



元気になったマヤはキルアのボコボコにやられた顔を見て驚き、両手でキルアの頬を包み込む。キルアはマヤの急接近に動揺し、思わず一歩後ずさる。それでも顔に触れる彼女の手の温もりに、心臓が早鐘を打つ。



「な、なんだよ急に! これぐらい大したことねーよ」



彼は顔を背けようとするが、マヤの手に囲まれて逃げられない。マヤ両手で頬を包み込んでキルアの顔を覗き込み、悲しげに顔を歪める。



「ひどい……こんなに殴られて……」

「独房でちょっと……な。けど、兄貴も最後は認めてくれたし」



キルアは少し恥ずかしそうに視線を逸らしながらも、口元には誇らしげな笑みが浮かぶ。



「お前たちと一緒に旅する自由を...…ようやく手に入れたんだ。安いもんだろ? さあ、これからどこに行く? ゴンはもう落ち着きなく飛び回ってるし、レオリオも荷物まとめてるぜ」



彼はマヤの手をそっと取り、自分の頬から離しながらも、指先はまだ触れたままにしている。



「そう、なの……? でも、痛そう……早く治りますように。キルアが自由になれたのは嬉しいけど」



自分も怪我してるのはさておき、マヤは心配そうに言った。飛び回ってたゴンが二人を見て「あーっ!」と声を上げる。



「キルア、照れてる! 顔赤いよ!」

「しかもさ、その後もずっと手放さないでやんの」

「せっかく会えたんだ、イチャイチャさせてやれ」



すかさずレオリオがからかい、クラピカもうんうんと頷いて少し意地悪げに言った。キルアは一瞬で手を離し、ゴンたちに向かって爪を立てて威嚇する。



「うっせーな! 誰がイチャイチャしてんだよ!」



しかし顔は見事に真っ赤で、言葉の説得力は皆無だった。



「レオリオこそ、さっさと朝ごはん準備しろよ! 医者志望なら栄養のこととか分かるだろ!」

「へいへい、ったくマヤの事となるとお熱いねー」



話題を必死に変えようとするキルアだったが、マヤの心配そうな表情に気づき、少し落ち着いた声で続ける。



「心配すんな。こんなの慣れてる。それより、お前のほうが心配だったんだからな」



キルアは静かに言って、少し照れくさそうに頭をかく。



「ん? キルアなんで赤くなって……えっ、もしかして私の熱がうつった!?」



キルアは目を丸くして、口をパクパクさせながらマヤの天然ぶりに絶句する。



「マジで気づいてないのかよ…...」

「えっ? 何に? だって昨日熱出したとき、キルア近くにいたでしょ?」



キルアは小声で呟いた後、肩をすくめて諦めたように笑った。そしてクラピカがキルアの肩に手を置いて「……がんばれ」と言った。キルアは天井を見上げて大きなため息をついた。周りの仲間たちの視線が痛い。



「違う意味だって...…まぁいいか」



朝食のテーブルでは、レオリオが作った簡素だが栄養満点の料理が並んでいる。キルアはマヤの隣に座り、ジュースを一気に飲み干した。



「うめぇ。意外と料理できるんだな、オヤジ」

「うん! おいしい! レオリオって料理上手なんだね」



マヤはレオリオの料理を美味しそうに食べる。レオリオは「おいこらクソガキ! オヤジじゃねー! ぶっ飛ばすぞ」と言った。そんなことは気にせずキルアはパンをかじりながら、地図を広げて指で軽くたたく。



「ここに古代遺跡があるらしいぞ。ハンターの間では宝の眠る場所として有名なんだ。ゴンなら喜びそうだよな」



それからマヤの方をちらりと見て、少し照れくさそうに続ける。



「あ、それとさ...…熱、本当に大丈夫か? まだ少し顔色悪いぞ」

「大丈夫だよ。もう熱もないし」



ゴンは身を乗り出し、キルアの広げた地図を見て目を輝かせ、両手を握りしめる。



「古代遺跡!? すごいね! マヤが元気になったら絶対に行こう! 宝探しだね!」



カナリアがレオリオと共に医療キットを持ってきた様子を見て、ゴンは少し真剣な表情になる。



「みんなで行くほうが楽しいからね! キルア、詳しい場所教えてよ!」

「遺跡なら予想外の罠もあるだろうし、レオリオのヤブ医者スキルも役に立つかもな」



すると案の定、レオリオが猛抗議する声が上がる。キルアは小悪魔のような笑みを浮かべた。



「で、みんなはどこがいい? ゴンはどうせ"一番危険なところがいい!" とか言うんだろうけど…….ここなら宝探しも楽しめるし、実力試しにもなるんじゃないか?」



パンをかじりながら、キルアは遺跡の写真を指さした。



「オレは遺跡でいいと思うよ! 楽しそうだし!」

「そうだな……まだ少し時間はあるし、私はどこでも構わない」

「オレもまだ時間はあるな。お前らの行きたいとこに合わせてやるよ」

「なら皆でこの遺跡行ってみようよ」



キルアはマヤの提案に目を輝かせ、満足げに頷いた。



「よし、決まりだな! この遺跡なら半日で着くし、帰りもすぐだ。みんなの予定にも影響ないだろ」



キルアはそう言って地図を手に取り、ゴンに投げ渡す。



「おい、ゴン。お前のバカな冒険心を満たせるような場所だぞ」

「この遺跡には伝説の宝があるって聞いたんだ!」



ゴンは地図を広げると、指で道筋をなぞりながら目を輝かせた。キルアはテーブルから立ち上がり、窓の外を見る。朝日が明るく差し込んでいた。



「準備は30分で終わらせるぞ。必要な物だけ持って行こう。マヤの荷物、オレに貸せよ。ほら」



彼はマヤの方をちらりと見て、少し恥ずかしそうに髪をかきあげてマヤのカバンを奪い取った。キルアは自分の皿を片付けながら、レオリオに向かって悪戯っぽく笑った。



「おい、オヤジ。その料理の腕で弁当作ってくれよ。遺跡で食うと格別だぜ」

「作らねーよクソガキ! マヤにだけは作ってやってもいいけどよ」



オヤジと言われたレオリオは青筋を浮かべながら言った。



「わわっ、ちょっとゴン……っ! 私まだ治りたて!」



ゴンはマヤとキルアの手を取り、握りながら元気よく駆け出す。キルアはゴンの突然の行動に驚きつつも、マヤの手をしっかり握り返した。



「おい、ゴン! いきなり走るなよ! マヤはまだ完全に回復してないんだぞ! まったく……お前のそういうところは変わらないな」

「あっ! マヤごめん!」



しかし文句を言いながらも、友達の熱意に引っ張られて口元には小さな笑みが浮かんでいる。三人が広場に出ると、クラピカとレオリオが荷物を持って待っていた。レオリオは不満そうな顔で弁当箱を抱えている。



「へぇ、結局作ったんじゃん。マヤだけじゃなくて全員分あるみたいだな」



キルアは意地悪く笑いながらレオリオをからかった。



「ほんとだ、遺跡で食べるお弁当楽しみだね」

「キルアの分は無しだ」



空を見上げると、雲ひとつない快晴だった。キルアはマヤの様子を気にしながら、ゴンの手を振り払った。



「よし、遺跡まで行くぞ。ゴン、お前は地図読め。レオリオはマヤのこと見てやれよ。俺は先に行って危険がないか確認する」



そう言いながらも、なかなかマヤから離れようとしない様子だった。



「そんな事言って、キルア、マヤから離れたくないんでしょ」

「そうなの? ふふ、心配してくれてありがとうね、キルア」



マヤは自分の怪我を心配してくれてるんだと解釈して微笑んでいた。キルアは顔を赤らめ、すぐに視線をそらした。



「バッ、バカ言うなよ! 単に怪我人がいると遅れるからだろ!」



しかし言葉とは裏腹に、マヤの手を握る力は少し強くなっていた。ゴンの顔を見て、キルアは急に思いついたように目を輝かせた。



「おい、遺跡の中に宝があるって噂だぞ。お前、興味ないのか?」

「もちろん興味あるよ!」



ゴンは言ってあちこちうろつき始める。キルアは先頭に立ち、木々の間に見える小道を指さした。



「あっちだ。マヤ、大丈夫か? 無理するなよ」



声のトーンを少し落として、彼女の表情を窺いながら言った。



「うん……大丈夫だよ。楽しいね、キルア。でもキルアもゴンみたいにあちこち見てもいいんだよ? それにほんとに熱はない?」



キルアはマヤの手が額に触れた瞬間、びくっと体を強張らせたが、すぐにリラックスした。



「熱なんかないよ。オレ、そんな弱くない」



けれど本当は昨晩、マヤを見守りながら休まず過ごした疲れが少し出ていた。キルアは小声で続ける。



「それに..….ゴンと違って、今見たいものはここにあるから……あ、あっちに遺跡の入口があるぞ! ゴン、勝手に進むなよ!」



しかしその言葉に自分で気づき、慌てて咳払いをすると話題を変えようと大声で叫び、しかしマヤの手を離さなかった。キルアの手を繋いだまま、マヤは遺跡の入り口を見て顔を輝かせた。ゴンはワクワクが隠せず一人でずんずんと先頭を行く。



「そっか……でも、昨日あまり寝れてなかったよね……そんなときは! 甘いもの、だよね?」



マヤはポケットから出したキャンディをキルアに差し出して笑った。クラピカがその横で「マヤ、それをキルアにアーンしてやるといい」と言った。キルアはマヤから差し出されたキャンディを見て、目を輝かせた。



「おっ! キャンディじゃん! うん、最高! やっぱりこれだよな」



素早く受け取ると、包み紙をさっと開けて口に放り込んだ。甘さが広がると同時に、表情が緩む。そこでクラピカの言葉に気づき、咳き込んだ。



「な、何言ってんだよ!」



頬を赤らめながらも、マヤの手をしっかり握ったまま遺跡の入り口へ進む。



「おい、ゴン! あんまり先に行くなよ! この遺跡、罠があるかもしれないんだぞ!」



キルアの視線は前方のゴンと、隣のマヤを交互に行き来していた。



「ん? なんでアーンするの?」

「ん? 聞きたいか?」



マヤがクラピカの提案に首を傾げるとクラピカは含み笑いで言った。そしてゴンは罠を踏んで上から落ちてくるタライを食らっていた。キルアはゴンがタライを頭から被った姿を見て、大声で笑い出した。



「プッ! ほらみろよ! 言ったとおりだろ! まったく、あいつは本当に何も考えないで突っ込むんだから」

「あははっ! タライが降ってきた! お腹痛い!」

「本当にゴンは見てて飽きないな」



タライを被ったゴンを見てマヤとクラピカも笑い出した。キルアは腹を抱えて笑いながらも、マヤの手はしっかり握ったままだった。笑いが落ち着くと、クラピカとマヤのやりとりが気になったようで、耳を傾ける。



「おい、クラピカ。変なこと吹き込むなよ」



キルアは顔を少し赤らめながら、マヤに向き直った。そしてマヤの顔が輝いているのを見て、小さく微笑む。



「ゴンと同じだな、顔。冒険好きなんだから、お前も」

「キルアだってそうでしょ? 目がキラキラしてるよ。」

「そうだな、オレも結構ワクワクしてる。ゴンほどじゃないけどさ...…でもこういう古代遺跡って、意外と面白いんだよな。罠だけじゃなくて、宝物とか秘密の部屋とかさ」



キルアは目を輝かせながら、マヤを引っ張るようにして前に進む。



「ほら、次はあんな失敗しないように気をつけて行こうぜ!」

「うん、こういう遺跡ってなんか懐かしいよ。こうして宝探しするのもどれくらいぶりだろ……」

「なあマヤ? オレとも手繋ごうぜ?」



マヤは懐かしむような顔をする。キルアに手を引かれながら進んでいくとレオリオがニヤニヤしながらマヤの空いてる手を取る。キルアはレオリオの手がマヤに伸びたのを見て、鋭い目つきに変わった。



「おい、おっさん。手を出すなよ」



素早い動きでレオリオとマヤの間に滑り込み、マヤをさりげなく自分の方へ引き寄せる。



「なんだよその顔。マヤだっていきなり触られたら嫌だろ?」



マヤの表情を窺いながら、古い遺跡の壁に目を向ける。壁には奇妙な模様が彫られている。



「えっ? 仲間からなら嫌じゃないよ?」

「おっさんじゃねー!」



レオリオは「フン、マヤを独占したいだけなんだろ? お熱いこった」とキルアにだけわかるように口の動きだけで言う。マヤは戸惑うようにキルアを見る。



「え? レオリオなんて?」



キルアはレオリオの口の動きを見て、軽く舌打ちする。



「ちっ、何も言ってねーよ。あいつはいつもそうなんだ。気にしなくていいよ」

「……? うん、わかった」



レオリオはニヤニヤしている。マヤは戸惑いつつもキルアに手を引かれながら歩いていく。キルアはマヤの手をさりげなく握ったまま、前を向いて歩き続ける。











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