ネン×トハ×ハテナ
キルアは力の抜けた体で、膝に手をついて息を整えている。勝利の喜びより、さっきの不思議な圧力について考えを巡らせていた。
「あれは一体なんだったんだ...…」
彼は独り言ちながら立ち上がる。観客席を見上げると、マヤとゴンが喜んで手を振っている。キルアは軽く手を上げて応え、リングを降りた。
「押忍くん、なかなかやるじゃん。でも次は気をつけたほうがいいよ」
キルアはズシに向かって言い、その表情を観察する。そして更衣室に向かう途中、ウイングの姿が目に入った。あの時の叫び声と、その直後に消えた圧力の関連性を感じる。キルアの鋭い直感が何かを察知していた。
「マヤ、ゴン。さっきのことについて、ウイングさんに聞いてみようぜ。あの"何か"を理解しないと、200階には行けない気がする」
合流したマヤとゴンに向かって、キルアは真剣な表情で言った。
「キルア! 大丈夫? まさか200階に行く前に使われるなんて……。本当にびっくりした。すぐ行こう!」
マヤは心配そうに声をかけるとすぐにキルアとゴンの手を取ってウイングのところに駆け出した。ゴンも慌てて走り出す。キルアはマヤに手を取られて少し驚いたが、その温かさに心が落ち着くのを感じた。
「ああ、なんとかな。でも正直あの瞬間は体が全然動かなくてヤバかった……」
「ねえ、キルア何があったの? オレも見てたけどよくわからなかったよ!」
キルアは思い出して眉をひそめる。同じく念が見えてないゴンも不思議そうにする。しかしキルアにもよくわかっていないのだ。マヤは二人の手を引いて廊下を曲がる。手を繋いだ三人はウイングの元へと急ぐ。キルアの頭には先ほどの圧力の感覚がまだ残っていた。
「マヤ、ゴン、絶対あいつ何か特別なことしてたぜ。見えない力っていうか……オレたちが知らない何かを使って戦ってた。200階で戦うためには、あれを理解しないとマジでヤバそうだ」
廊下の先にウイングが立っているのが見えた。キルアは無意識のうちにマヤの手を握り返している。マヤは、キルアに手を握り返された事で無意識に手を繋いでることに気づいて今更ながら少し照れてきていた。そしてキルアも少し照れくさそうに、でも真剣な表情でマヤに言う。
「あのさ……ありがとな。助かったよ」
「え? なにがありがとうなの? 私、何もしてないよ。……あのね、キルア。言っていいのかわかんないんだけど、あれは……」
マヤは少し言いにくそうに言葉を選びながら、それでも言おうとしてウイングに「待ってください」と止められる。
「えっ?」
「なんだよ、マヤ? 何か知ってるのか?」
キルアはウイングの姿を見て一瞬足を止め、マヤの手をまだ握ったまま首を傾げる。ウイングが近づいてきて、穏やかだが真剣な表情で三人を見つめる。
「こちらで話しましょう。この廊下は耳の多い場所です」
ウイングは小さな個室へと三人を案内する。キルアは部屋に入りながらも、マヤの言葉が気になって仕方がない。無意識に彼女の手を握る力が強くなる。
「さっきは……なんていうか、お前とゴンがいてくれたから冷静でいられたんだ。あの圧力、一人だったらもっと焦ってたかも」
キルアは少し照れながらも素直に感謝の気持ちを伝え、やっと手を離す。彼の表情には普段見せない柔らかさがあった。
「キルア……。当たり前だよ! 大事な友達が戦ってるんだもん、ちゃんと見てるよ! ねっゴン!」
「うん! もちろんだよ! オレもあれはびっくりしたし!」
「それで、ええとウイングさん。さっきのズシがやっていた事について教えてください」
マヤは既に念能力を会得していた為何が起きていたかはわかっていたがキルアとゴンはまだだったため、言葉を慎重に選びながら言った。キルアはウイングの前で緊張した面持ちで立ちながら、マヤとゴンを交互に見る。彼は興味を隠せない様子で前のめりになる。部屋の中は静寂に包まれ、ウイングはじっと三人を観察している。キルアは思わず手をポケットに突っ込み、いつでも身構えられる姿勢をとっていた。
「なぁ、はっきり言ってくれよ。マヤ、お前すでに知ってたろ? さっきのおかしなやつのこと」
キルアの鋭い直感が働き、マヤの様子から何かを察知したようだ。ウイングが静かに咳払いをして全員の注目を集める。
「確かに、200階で戦うには必要な力です。いわゆる"念"と呼ばれるものです。皆さんがここまで来たということは、教える時が来たようですね」
キルアの目が好奇心で輝く。彼は無意識のうちに体を前に乗り出し、全身で話を聞く姿勢を示していた。
「念...…か。これさえあれば、あのヒソカともまともに戦える?」
「ほんと!? ヒソカにも勝てる!?」
ゴンはキルアの言葉に反応して顔を輝かせる。彼はゴンの方を向き、冷静に説明する。
「おい、ゴン。すぐヒソカに勝ちたがるなよ。まずはどんな力なのか理解しないと」
キルアはウイングに真剣な眼差しを向ける。
「ウイング、この念っていう力……どうやって使うんだ? オレたちも学べるんだよな?」
キルアは無意識のうちにマヤを見て、そこに知識と経験を感じ取っていた。少しだけ悔しそうな表情を見せながらも、新たな力への期待に目を輝かせる。
ネンとは心を燃やす燃のこと。点で心を集中し、舌で想いを言葉にする。錬で意思を高めて発で行動にする。ウイングは基本的な4体行だけを教えた。そして「今は点を極めなさい」と続けた。マヤの顔色が変わり何か言いかけたがウイングに制される。キルアは眉間にしわを寄せながら、ウイングの説明に集中していた。彼の鋭い青い瞳が興味と疑念を交互に映し出している。
「点・舌・錬・発……か。シンプルだけど、なんか奥が深そうだな」
彼はふと、表情を変えたマヤに視線を移す。そこには何か隠し事をしているような様子が見て取れた。
「なあマヤ、さっきから変な顔してるぞ。何か知ってることがあるなら、隠さずに言えよで、具体的にはどうすればいいんだ? 点を極めるって、どういう風に?」
キルアは軽く肩をすくめると、再びウイングに向き直る。その指先が無意識のうちにピクピクと動き、新たな力への期待を隠せないでいた。ウイングは「心を一つに集中し、自己を見つめることです」とだけ言って、マヤに「今はまだ早い」と耳打ちして去っていった。
「……っ、ウイングは、嘘をついてる……」
マヤはそれだけ呟いた。すぐにゴンが試合に呼び出され、マヤはハッとして顔を見上げる。キルアはマヤの呟きを聞き逃さなかった。彼の鋭い目がマヤを捉える。彼は周囲を確認し、声を少し落として問いかける。
「嘘をついてる? ウイングさんが? なあマヤ、お前はもっと知ってるな? ジンの弟子ってことは……念のことも」
「……うん」
キルアは腕を組み、マヤを真っすぐに見つめる。その目には鋭さと同時に、仲間への信頼も宿っていた。
「隠し事があるなら理由もあるんだろうけど、三人で冒険するって決めたんだ。信頼関係ってやつは大事だぜ。まあいい、ゴンの試合を見に行こう。その後でゆっくり話そうぜ。オレたちだけで」
「ゴンの試合のあと、ちゃんと話すよ。私は……キルアとゴンが大事だもの」
キルアはふと、試合会場の方を見やり、笑みを浮かべる。マヤの肩を軽く叩き、彼女の前に立って手を差し出した。
「行くぞ、お姫様」
「えっ!? お姫様って……どうしたの急に……」
マヤは動揺し、頬を赤らめながらもキルアの手を取る。キルアは少し照れくさそうに髪をかき上げ、思わず出た言葉に自分でも驚いたような表情を見せる。彼は手を引っ込めようとするが、マヤが手を取ったことに少し驚き、頬が薄く赤くなる。
「別に……大したことじゃないよ。なんとなく言っただけ。そ、それより、ゴンの試合を見に行こうぜ!」
キルアは話題を変えるように早口で言うと、マヤの手を引いて歩き出す。途中で手を繋いでいることに気づき、慌てて離す。妙な気持ちだった。
「うん、早く応援に行こう」
マヤは顔を赤くしながらも走っていたがキルアに手を離されるなんとなく寂しさを覚えた。会場に着くと、ゴンが試合の準備をしている姿が見えた。キルアは腕を組み、真剣な眼差しでリングを見つめる。キルアは少し考え込むような表情を見せる。
「ゴンなら大丈夫だろうけど……やっぱり念のことを知らないままじゃ危険かもな」
「200階までは大丈夫だと思う。どうしてウイングが嘘をついてるのかはわからないけど……」
マヤはそう言って表情を曇らせた。ゴンの試合が終わるとすぐにマヤが試合に呼び出される。
「よし、私も行ってくるね! がんばるよ!」
「おう、頑張れよ!」
キルアはマヤの晴れやかな笑顔に、一瞬だけ目を細める。彼は拳を軽く上げて応援のポーズを取るが、マヤが去った後、その表情は徐々に真剣さを増していく。
「ウイングが嘘……か」
彼は腕を組み、考え込むように壁にもたれかかる。キルアの鋭い目は遠くを見つめ、何かを計算しているようだ。彼は自分の掌を見つめ、指を一本ずつ曲げていく。
(マヤの過去……ジンの弟子って何だ? 普通の弟子じゃないのかな。念を知ってる様子だし、なにか隠してる。でも……)
キルアは顔を上げ、マヤが歩いていった方向を見つめる。その目には不思議な柔らかさが宿っていた。彼は少し照れくさそうに頬を掻き、小さく笑う。
「仲間だから、信じるさ。それだけで十分だ」
マヤも勝利を納めて戻ってきた。こうして三人とも200階に到達し、三人は200階に向かっていた。ゴンは「どんなとこかな?200階って」と言う。
「私も200階から先は行ったことないんだ。今回は様子見だけにしよう。あとで、二人に話したいことがある。ウイングには止められたけど……。でもそんなの関係ないよ、危ないんだから」
キルアは眉を少し上げ、マヤの言葉に興味を示す。彼はポケットに手を入れ、前のめりの姿勢で歩きながら続ける。
「止められたことをあえて話すのか。気になるじゃん。ウイング、何か隠してる感じだったもんな。マヤが本当のことを教えてくれるなら、それに越したことはない」
「でも、なんでウイングはオレたちに本当のことを教えないのかな」
キルアはゴンとマヤの顔を交互に見る。
「まあいいさ。とにかく、オレは強くなりたいんだ。それに...…」
キルアはマヤとゴンを見て、少し照れくさそうに視線を逸らす。
「マヤとゴンと一緒に冒険するためにも、もっと力が必要だ。何があっても守れるように...…な」
「キルア……。ありがとう。私も、キルアとゴンと冒険するために、もっと強くなりたいな」
200階は異様なオーラに包み込まれていた。マヤは慎重に通路を進む。
「気を付けてね、ここから先は念の使い手がいるから。……念能力者っていうんだ。でも、ここを通ったら、ウイングは本当のことを教えてくれるかも……」
マヤは二人を庇うように前に出て進む。その先にはヒソカが立っていた。キルアは全身に電流が走るような感覚を覚えた。通路に広がる威圧的なオーラに、無意識に体が硬直する。
「このプレッシャー...…なんだこれ...…」
彼はゴンと目を合わせ、マヤの背中を見つめた。彼女が庇うように立っている姿に、胸が締め付けられる感覚がした。
「マヤ、オレたちを守る必要はない。一緒に立ち向かおう。……あいつか。試験の時から気味が悪いと思ってたんだ。でも今は...…もっと危険な感じがする」
キルアは一歩前に踏み出し、マヤの横に並ぶ。その先に立つヒソカの姿に眉をひそめる。キルアの額に冷や汗が浮かぶ。彼の鋭い感覚が危険を察知していた。
「っ……危ない、これ以上前に出ないで。ヒソカは、今、念を使ってる!!」
マヤは緊張した面持ちでそう言うとヒソカは「ここから先には通さない。まだ早い」と言ってかざした手から酷く悪意のあるオーラが放たれる。息が苦しい。だけど、目の前で苦しむ2人を放ってはおけず二人の前に立ち、両手を広げた。
「キルア、ゴン、戻ろう。今度こそウイングに聞きにいかないといけない……! 今は、通れない……」
キルアは背筋に冷たい感覚が走るのを感じた。ヒソカから放たれる見えないオーラが肌を刺すように襲いかかってくる。
「ちっ...…こんな時に何もできないなんて...…。わかった...…一旦引くか」
彼はマヤの決断を理解しつつも、悔しさに歯を食いしばる。その目には、自分の力不足への苛立ちが浮かんでいた。キルアは後ずさりしながらも、ヒソカから目を離さない。その鋭い目には、いつか必ず立ち向かうという決意が宿っていた。
「けど、マヤ。もし"念"を使えるようになれば、あいつにも対抗できるようになるのか?」
「もちろんだよ! 念を使えればもっと強くなれる」
廊下を戻りながら、キルアはマヤの表情を窺う。彼の中で、新たな力への期待と好奇心が高まっていた。
「ウイングに会いに行こう。もう隠し事はたくさんだ。本当のことを教えてもらおう」
「私は、ジンに教えてもらったの。だから、ジンのように念を教えてくれる師匠が必要なんだよ……。私は、人に教えるにはまだまだだから……ごめんね……」
マヤも悔しそうに俯いた。
「もう200階に来るとは……早くて驚きました。……本当の念について教えます。三人とも着いてきて下さい」
三人が戻る先にはウイングが立っていた。