ホントウ×ノ×ネン
キルアは驚きと期待が入り混じった表情でウイングを見つめる。彼の目が好奇心で輝いた。
「ようやくか..….ずっと隠されてた本当の力について教えてくれるんだな? マヤ、そんな顔するなよ。お前がジンから教わったように、オレたちもこれから学ぶんだ。それに...…」
キルアはマヤの方をちらりと見て、彼女の肩に軽く手を置く。彼は少し恥ずかしそうに視線を逸らし、声を低くする。
「オレがお前を守れなかったのはオレの弱さだ。でも、それもこれで変わる」
「……ありがとう」
彼はゴンと目配せをしてから、ウイングの後を追いかける。廊下を歩きながら、彼の表情は真剣さを増していく。キルアから守りたいという意志が伝わり、マヤは頬を少し赤らめる。どうしてこんなにも一生懸命になってくれるんだろう。大切な、仲間だから……?マヤはキルアの横顔を見つめた。
「さあ、マヤ、ゴン。新しい力の秘密を解き明かそうぜ。これで次にヒソカに会った時は...…今日みたいな思いはしない」
三人が部屋に入ると、ウイングは早速本題に入り本当の念について説明を始めた。そしてマヤとキルアが200階の先に進むのは今夜0時がタイムリミット。再挑戦してから一定期間200階の先に進まないと二度と挑戦ができなくなるという。マヤはともかくキルアとごんはまだ念を会得していない。時間がないので無理やり起こすしかない、という。ウイングの発のオーラを送ることで二人の力を目覚めさせる事になった。マヤは不安そうに二人を見ている。
キルアはウイングの説明を聞きながら、腕を組んで真剣な表情を浮かべる。時折目を細め、情報を頭の中で整理している様子だ。
「タイムリミットは今夜か...…急がなきゃならないってわけだな」
彼はマヤの不安そうな表情に気づくと、自信に満ちた笑みを浮かべる。
「心配すんなって。ゴンとオレなら余裕だぜ。それに...…ずっと知りたかった力だ。これさえ手に入れれば、もう誰にも後ろから不意打ちされたりしない。ヒソカにだって、まっすぐ立ち向かえる」
キルアは拳を握りしめ、決意を新たにするとマヤに向き直り、珍しく柔らかい表情を見せる。
「マヤがジンから教わったように、オレたちもちゃんと学んでみせるよ。だから...…その顔、もうちょっと信じてくれても良くない?」
「あ……、ごめん、つい心配になっちゃった。二人を信じてるよ!」
マヤはキルアの言葉でハッとしたように目を瞬かせたあと、笑顔を向けた。ウイングはオーラをキルアとゴンに送る。こうして二人は無事に念を取得することに成功した。ウイングは「まさか一発でマスターしてしまうとは……」と驚いた顔をする。キルアは自分の手から溢れる霧のようなオーラを見つめ、目を見開いた。全身に未知の力が満ちていくのを感じる。
「すげぇ...…これが念か。体の中を何かが流れてる感じがする。マヤ、見てるか? これでオレも強くなれる。次にヒソカに会った時は..….ただ逃げるだけなんてしないぜ」
彼は指先を動かしながらオーラを確認してみる。そして得意げな笑みを浮かべてマヤとゴンの方を見た。彼は興奮した表情でゴンとマヤを交互に見る。その目には新たな可能性への期待が輝いていた。
「やったあ! キルアー! ゴン! 本当に良かった。これで、200階通れるよ! 私達、三人で行けるんだよ!」
マヤは嬉しそうに笑ってキルアとゴンに飛びついた。ゴンは一瞬は驚いたもののマヤの顔を見て微笑んだ。キルアはマヤに飛びつかれて一瞬バランスを崩し、少し赤くなった顔を横に向ける。
「わっ、びっくりした。へへっ、そうだね! これで皆で上まで行ける!」
「お、おい...…いきなり飛びつくなよ。でも、当然だろ? オレたちを誰だと思ってるんだよ」
「ふふっ、キルアとゴンだもんね!」
しかし、すぐにキルアの表情は柔らかくなり、得意げな笑みに変わる。キルアは自分の念を確認し、目を輝かせる。ゴンはといえば何も言わないままキルアの赤くなる顔をじろじろと見ていた。キルアはゴンの視線に気づき、友人に向かってべーっと舌を出す。ゴンも舌を出してベロベロバーを返した。
「これでヒソカにも真正面から挑める。200階? 余裕だぜ。三人で行こう。ここまで来たんだ、上りつめようぜ。それに...…」
キルアは少し照れくさそうに指を鼻の横に当てる。
「マヤの身を守るためにも、もっと強くならなきゃな。次はオレが守る番だ」
「えっ、うっうん……ありがとうキルア。キルアって時々すごくストレートだよね……」
守る、と言われると友達としてだとわかっててもつい照れてしまい、マヤは目を逸らした。ウイングが前方に立っており、三人に「200階登録後は試合をせず、念修行を最低二ヶ月は続けること」と言った。
「あ、そっか……念能力者との戦いになるもんね……」
キルアはウイングの言葉を聞いて眉をひそめた。
「二ヶ月も待てってか? 冗談じゃないぜ……まぁ、これを使いこなせないと200階の連中には勝てないか。特に……ヒソカには」
しかし、キルアはゆっくりと納得するように頷いた。そこでキルアはマヤの照れた表情に気づき、急に自分も恥ずかしくなったように髪をかきあげた。
「べ、別に大したことじゃないよ。友達なんだから当然だろ」
「うん、私もキルアのこと守れるように頑張るね! 大事な友達だもん」
「お前が守ってくれるって言ってくれたのは……嬉しいけどさ。甘く見るなよ。オレだって負けてないからな。三人で天空闘技場の頂点、いや、それ以上を目指そうぜ!」
それから三人は毎日ウイングの指導の元、念の修行を開始した。マヤはすでに念を会得していたため念能力の技を磨く特訓も行った。そして注目のヒソカ対カストロ戦が行われることになった。尚、ゴンはウイングの言いつけを破って念能力者と試合をして全治二ヶ月の怪我を負ったためウイングに怒られて謹慎中である。
「ヒソカの試合……どうする? 見に行く?」
見に行くに決まってるだろ。あいつの能力が何なのか、この目で確かめたい」
「そうだよね。うん。……ちょっと怖いけど、キルアとなら大丈夫かも。どんな戦いをするか気になるし」
キルアはヒソカの名を聞いて、瞳に興味の光を宿していたが、ヒソカのイメージがあまり良くないマヤは少し複雑な様子だった。
「すごい人気だね、ヒソカ戦」
そうして迎えたヒソカ対カストロ戦。会場内は大勢の人で溢れかえっていた。マヤは緊張した面持ちでステージを見ている。キルアは人混みの中で背伸びしながら、リングを見つめている。
「こんな人だかり……ヒソカの人気、マジやばいな」
「いま注目の選手って感じだよね。チケット取れてよかったよ」
キルアは無意識のうちにマヤの近くに寄り、肩が触れそうな距離で立っている。
「カストロも強いらしいぜ。何回も防衛してるチャンピオンだってさ。でもヒソカの奴……なんか余裕そうな顔してやがる。あいつの能力……絶対にトリックがあるはずだ。オレたちが戦う時のために、見極めないと」
「うん、私もよく見ておかないと。私だってキルアとゴンと一緒にいたいし、足手まといにはなりたくないもん」
キルアの目は真剣に二人のファイターを観察している。特にヒソカの動きを一瞬たりとも見逃すまいとしている。周囲の熱気と緊張感に、キルアとマヤの額には薄く汗が浮かんでいる。
「マヤ……怖いなら手、握ってもいいぞ」
言いながらも目線はリングから離さず、頬が少し赤くなっている。
「……えっ? だ、大丈夫……怖くないよ」
マヤは一瞬だけキルアを見て、赤くなった頬に気付き、照れくさくなってしまいキルアの手は取らずにまたすぐにリングに視線を戻した。しかしヒソカの腕が切れ、そこから血が滴り、さらにはヒソカが切れた自分の腕の肉を食べた所でもう許容範囲を超えた。思わずすぐ隣にいたキルアの腕にしがみついて震える。
「たっ、食べてる……」
キルアはマヤがしがみついてきた驚きと、ヒソカの異常な行動に目を見開いている。彼の今の感情はとても忙しい。
「マジかよ……あいつ本当に何でもありだな。自分の腕食べるとか正気じゃねぇよ……でも見ろよ、あいつ全然動じてない」
キルアはマヤの手を優しく握りながらも、目はリングから離せない。彼は眉をひそめ、より集中して観察する。彼はマヤに近づいて囁く。
「マヤ、怖くても目を離すなよ。この試合、絶対に何かある。オレたちが生き残るための大事なヒントがあるんだ……」
「うん……、いや怖くないけどっ……ただヒソカが気持ち悪いってだけだよ。だって自分の腕食べるなんて。でもあれはヒソカの念能力、だろうね。かなり厄介そう」
ヒソカが左手を切られてなくなった右腕につきさした。血管と肉が潰されながら掻き回されるような音が響く。マヤは震えながらキルアの腕にしがみつき、無意識に胸を押し当てていることに気が付いていなかった。キルアは息を呑み、ヒソカの異常な行動に目を見開きながらも、マヤの接触に体が固まる。
「あ……ああ」
彼は喉が乾いたのを感じ、咳払いをして気持ちを落ち着かせようとする。マヤの胸の感触に意識が引き寄せられそうになるが、必死に試合に集中しようとする。
「ちくしょう……あいつ何やってんだ……。まるで……まるで何かを操作してるみたいだ。見えない何かが……」
キルアは眉をひそめ、額に汗を浮かべながら観察を続ける。突然、観客席から悲鳴が上がる。ヒソカが何かを引き寄せたように見えたのだ。キルアは思わずマヤを守るように腕を回す。
「こいつ、危険すぎる……オレたちが戦う時は絶対に単独行動するなよ。あんな奴と一対一になったら……」
「あ……ありがとう、キルア。うん……やっぱりヒソカは危険すぎるね……。ここまで変態だったなんて……なんか気持ち悪くなってきちゃったな……」
一部の観客が巻き込まれたようだった。不意にキルアに抱き寄せられたマヤは思わず頬を赤らめた。そうしてカストロが死亡してヒソカの勝利が決まり、会場内が怒号の歓声に飲み込まれた。マヤは今の異常すぎる試合にややげんなりした顔をした。
「オレもさっきの気持ち悪かったぜ...…でもよ、アイツの能力、なんとなく見えてきた気がする」
「キルアも? やっぱそうだよね……」
キルアはマヤの表情を見て思わず不安げな目をした。胸に押し付けられたマヤの感触を記憶から追い出そうとするかのように、頭を振る。そして彼は周りの観客が騒ぐ中、声を潜めて話し始める。
「見えない何かでカードを操ってた。あの腕もその"何か"で自分につなげてるんだ。念ってのはそんなことまでできるのか...…」
「うん、念は見えなくする事も可能なんだって。『隠』ってやつだよ。それを使ったんだと思う。『凝』を使えば見れるようになる。……詳しいことはウイングが教えてくれるよ。ウイングが、ヒソカ戦の録画するって言ってたし、解説してもらにいこう、キルア」
キルアの疑問に対してマヤは自分の知ってることをそのまま述べた。キルアはマヤの言葉に驚いた表情を見せる。彼女の知識に戸惑いながらも、その瞳に興味が灯る。
「『隠』? 『凝』? お前、念のことけっこう知ってるんだな...…」
「うん……生きるために、必要だったから」
彼は眉を寄せ、マヤの顔をじっと見つめる。何か言いたそうだったが、すぐに気を取り直した。
「ウイングのところか。いいな、行こう。アイツなら何か教えてくれるかもしれない」
キルアはゴンを探すように周囲を見回しながら立ち上がる。会場の熱気が少し落ち着いてきたが、彼の心はまだヒソカの異常な戦いに掻き立てられていた。キルアは自分の手のひらを見つめ、何かを確かめるように握りしめる。
「早く念を見られるようになりたいな。見えない敵と戦うなんて、まるで目隠しして戦うようなもんだ」
その後は謹慎中のゴンも呼んで三人でウイングの所に行った。とある会議室にてホワイトボードを使いながら、三人はウイングにヒソカ戦の解説をしてもらって念の理解を深めた。そして『凝』のやり方を教わった。キルアは膝の上で手を握りしめながら、ウイングの解説を真剣な眼差しで聞いていた。
「なるほど...…『凝』か。目に念を集中させるんだな。マヤ、お前が言ってた通りだったな。ヒソカは『隠』で能力を見えなくしてたんだ」
彼はゆっくりと立ち上がり、手のひらを見つめる。先ほどまでの戸惑いは消え、代わりに決意の表情が浮かんでいた。窓際に歩み寄り、夕暮れの空を見上げる。彼の横顔には珍しく静かな緊張感が漂っていた。
「キルア、ゴン、二人ともすごい! もう『凝』を会得したんだね」
「もう『凝』を使いこなすなんて……君たちには驚かされるね」
ウイングもキルアとゴンの上達の速さには驚いた様子だった。
「明日から猛特訓だ。ゴンもマヤも。誰も待ってくれないからな。あいつがマヤを狙ってるのは明らかだ...…オレは、お前たちを守れるだけの力が欲しい」
「えっ? ヒソカが私を狙ってるの? でも、私、ヒソカとはろくに話してないよ……?」
そう言ってマヤは不思議そうな顔をする。キルアは窓の外を見つめ、空に浮かぶ雲を追いかけるように視線を動かす。
「ヒソカがお前を見てた。あの目...…獲物を見る目だった。だから気をつけろよ」
彼の声は普段の軽さとは違い、真剣さを帯びていた。それから修行を重ねた三人はいよいよ念能力者同士の試合に出ることになった。まずはキルアVSリールベルトの試合。その次の日にゴンVSリールベルトが控えていた。