ゴン×ノ×コキョウ






「いいね! ゴンの家で特訓! 楽しそう! たしか森とかもあるんだよね! ……って、キルア準備がいい……!」



マヤは既に船のチケットを取っていたキルアに尊敬の眼差しを向けた。ゴンは元気よく握りこぶしを高く掲げた。



「よーし、くじら島に出発だ!」

「ほら、これも用意しといた。ミトさんの家までの道順も書いてある。ただの森じゃない、ゴンの狩猟場だからな」



キルアは三人分の地図を取り出し、一枚をマヤに手渡した。うっすらと笑いながら、船のタラップを駆け上がる。マヤは地図を受け取って嬉しそうに笑った。



「なんかさ、キルアの家にも行ったし、ゴンの故郷にも行くしで、なんかいいね。友達の育った環境を目の当たりにして、二人の事を更に知れる感じで」

「島に着いたら最初にやりたいのは、念を使った実戦だ。頭でわかってるのと体が動くのは別だからな...…マヤ、お前にも手伝ってほしい」

「もちろんだよ! 念の応用とか、色々私にわかる範囲で教えるね。でも、この先の冒険で、またいい師匠に出会える予感がしてるんだ」



デッキの手すりに寄りかかり、徐々に小さくなる港を眺めながら、キルアは自分の変化を感じていた。マヤもキルアとゴンの隣に立ち、港が見えなくなっても海を眺め続けていた。



「くじら島の森は訓練に最適なんだよ! 色んな生き物がいて、地形も変化に富んでるんだ」

「へえ、そんな島で育ったからゴンは強くなったんだね。キルアも、そうだもんね」

「そうだな……環境が人を作るっていうけど、オレとゴンは正反対の場所で育ったよな」



ゾルディック家でのことを思い出した。潮風がキルアの銀髪を揺らす中、彼は思わず微笑んだ。キルアは海面に目を向け、波の動きを追いながら思考を巡らせる。



「あの山での生活は……まあ、いい思い出じゃないけど」

「うん……たしかに、正反対だよね。でも最後にはキルアも認められて、私も嬉しいよ。いい思い出ならこれからたくさん作っていったらいいよ!」



三人でデッキの手すりに腰掛けて海風を感じながら、マヤはキルアの顔を真っ直ぐに見つめる。キルアは軽く肩をすくめると、ゴンとマヤに視線を戻した。



「くじら島は自然がいっぱいで、のびのび育つにはちょうどいい場所なんだろうな。ゴンみたいに純粋で、でも芯の強いやつが育つわけだ」



デッキの手すりに腰掛け、足をぶらぶらさせながら、キルアはふと真剣な表情になる。



「新しい師匠か……それもいいかもな。でも、それまではオレたちで高め合おう。ヒソカとの戦いに備えて、絶対に強くならないと。あれがくじら島だ。オレたちの新しい修行場」

「わあ、あれがゴンの故郷なんだね。くじらの形してる! かわいい〜」



目の奥に決意の光を宿しながら、キルアは遠くに見え始めた小さな島影を指さした。マヤは名前の通りにくじらの形をした島を見て楽しげに笑う。やがて船はくじら島に定着し、三人はくじら島に降り立った。キルアは島の香りを深く吸い込み、周囲の自然を見渡した。



「なんか空気が違うな……緊張感がないというか。ゾルディック家の周りは毒蛇や猛獣だらけだったけど、ここは生き物と共存してる感じがする」



キルアは少し警戒心を解きながら、土の感触を確かめるように靴先で地面を蹴った。マヤは自分の故郷を思い浮かべては同じように島の香りを吸い込む。



「うん……私が住んでたところとも全然違う。当たり前、だけど……なんか、落ち着く感じがするよ」



木々の間から漏れる陽光を見上げ、キルアはふと笑みを浮かべた。



「よし、早速訓練だ。オレ、念を使って木の上から滑空してみたいんだよな。マヤ、一緒にやらないか?」

「うん、いいよ。何でもやってみようよ!」



キルアは目を輝かせて一番高い木を指差し、子どもらしい好奇心を見せる。そして突然、キルアは森の奥へと歩き出した。



「ゴンの家に行く前に、ちょっとこの島の"味"を確かめてみようぜ。せっかくだし、三人で狩りをしてみない? 獲物を持ってミトさんに会いに行けば喜ぶと思うんだ」



彼は楽しそうに両手を後頭部で組み、マヤを振り返った。ゴンは懐かしい故郷の景色を見て、顔いっぱいに笑顔を浮かべた。



「うん! キルアの言う通り、お土産持っていこう! このくじら島では最高の魚が釣れるんだよ。俺の特技は釣りだからまかせて!」



そう言うとゴンは軽快に海岸沿いを走り、釣り竿を取り出した。



「ミトさんが喜ぶ顔が目に浮かぶよ! キルアとマヤも釣りやってみる? 教えてあげるからさ!」

「へぇ、釣りか。やったことないけど、面白そうだな。お前の特技なら相当すごいんだろ?」



キルアは興味を示して眉を上げ、ゴンの方へ歩み寄る。彼は海を見つめ、瞬時に岩場の地形を分析するように目を細める。ゴンから差し出された釣り竿を手に取り、重さを確かめるように軽く振ってみる。



「ゾルディック家では狩りの訓練はあったけど、釣りは教えられなかったんだよな。獲物を待つなんて非効率的だって。でも、何事も経験だ。マヤ、お前もやってみろよ。念を使えば魚の気配も感じられるかもしれないぞ」

「私も釣りはやったことないな。でも、楽しそう」



キルアは岩場に腰を下ろし、真剣な表情で糸を垂らす。しかし、すぐに無邪気な笑顔を浮かべた。



「負けないからな、ゴン。一番でかいのを釣り上げてやるぜ!」



ゴンは満面の笑みを浮かべながら、マヤの横に立って竿の持ち方を優しく指導した。



「まずは竿をしっかり持って、こうやって! 糸を遠くに投げるんだ。ほら、手首をスナップさせるようにね!」

「ありがとうゴン! よーし、美味しいの釣るぞ!」



海風が三人の髪を撫でる中、マヤは自分の竿を軽やかに振り、見事な弧を描いて遠くに糸を飛ばした。キルアは慣れない釣り竿に悪戦苦闘しながら、マヤの見事な飛ばしっぷりに目を見張る。



「なんだよ、初めてなのにもう上手いじゃん...…。ゴン、この竿のバランスおかしくないか?」

「えへ、けっこーサマになってた?」

「オレの教え方がいいからね!」



彼は自分の糸が近くの岩に絡まるのを見て舌打ちし、素早く糸を巻き直す。不満げに言いながらも、再度集中して海に向かって竿を振る。今度は見事に遠くまで糸が飛んだ。しばらくして、キルアの竿に強い引きが感じられる。彼の顔に驚きと興奮が走る。



「お、来た! でかいぞ、これ! 見てろよマヤ! オレだって本気出せばこんなもんだ!」



必死にリールを巻きながら、マヤの方をちらりと見る。彼の目には挑戦的な光が宿っていた。さらに強まる引きに対抗し、キルアは念を少し使って力を込める。波しぶきを上げながら、大きな魚が水面から躍り出た。



「きゃー! あははっ、びしょ濡れになっちゃったよ。でもキルアすごーい!」



キルアが大きな魚を釣り上げると水しぶきが派手にかかり、ずぶ濡れになった。マヤの服は濡れて肌が微かに透けているが気付かずにはしゃぎ声を上げる。キルアは大きな魚を抱えながら勝ち誇った表情を浮かべるが、マヤの濡れた姿に気づいて一瞬で表情が凍りつく。頬が赤く染まり、慌てて視線をそらす。



「あ、ああ...…こんなの朝飯前だぜ。でも、ごめん...…濡らしちゃって...…ほら、着ろよ。風邪ひくぞ」



キルアは魚を地面に置くと、自分のシャツを脱ぎ始める。そしてそれを少し恥ずかしそうにマヤに差し出した。キルアは上半身裸になりながらも、さりげなく強さをアピールするように胸を張る。しかし耳の先まで赤くなっている。



「次はもっとでかいの釣るからな。ゴン、マヤ、二人でかかってこいよ!」



ゴンは振り返って、マヤの後ろで顔を真っ赤にしているキルアを見つけて少しだけ不思議そうにする。



「えっ? な、なんで? でもキルアが裸になっちゃうよ……大丈夫……?」

「よーし! 次はもっと大物を狙おう! あそこの岩場なら、ミツバマグロが釣れるかも! キルア、マヤ、行こう! 最後に一番大きい魚を釣った人が勝ちだ!」

「わっ、待ってよゴン! ……ありがとう、キルア」



マヤは駆け出してくゴンを見て少し迷ってからキルアのシャツを受け取って戸惑いがちにキルアの顔を見上げる。キルアは胸元を露わにしたままマヤの視線に気づき、妙に意識して少し体を反らす。海風が肌に当たって心地よく、あえて平静を装う。



「別に平気さ。ゾルディック家では過酷な環境に耐える訓練もしてるから、こんな程度で風邪なんてひかないよ」



彼は自慢気に言いながらも、マヤが自分のシャツを着る姿を見て微笑む。それから釣り竿を再び構え、ゴンの言った岩場へと歩き始める。マヤはキルアのシャツを着ると妙に意識してしまい、何度も自分が着てるキルアの服を見下ろしていた。



「そっか……私も、風邪はめったにはひかないけど……でもありがとう」

「ミツバマグロか...…でかいやつだったら勝負になるな。ねえ、一緒に釣ってみない? コツを教えてやるよ。二人で一匹でも、それが一番大きければゴンに勝てるだろ」



キルアはマヤの隣に立ち、少し距離を詰めながら声を落とす。キルアの瞳に競争心と優しさが同時に浮かぶ。彼はマヤに竿の握り方を後ろから教えようと、少し恥ずかしそうに手を伸ばす。



「えっ? い、いいいいよっ、大丈夫っ! あっでも、たしかに、二人で釣ったほうがいいかもしれないね! うん!」



上半身裸のキルアに密着されると心臓がバクバクと高鳴り耳まで赤くなり、すっかり動揺して早口で言ってキルアから目を逸らす。キルアはマヤの赤らんだ顔を見て、自分も急に恥ずかしくなり、思わず咳払いをする。しかし彼の手はすでにマヤの手に重なり、釣り竿をしっかりと握っている。



「こうやって...…手首の角度が大事なんだ。エサを投げる時は遠心力を使って...…」

「……こう?」



言葉とは裏腹に、キルアの意識はマヤとの距離にばかり向いている。彼の背中は海風で少し冷たいが、マヤとの接点だけが熱く感じられた。マヤも指導を受けながらいつからキルアの手が触れるだけでドキドキするようになったんだろう、と思っていた。



「あ、あそこに影が見えるだろ? 多分ミツバマグロだ。オレたちで釣り上げてやろう」



キルアは竿を引く体勢になり、自然とマヤを抱き込むような姿勢になる。心臓の鼓動が速くなるのを感じながらも、マヤの肩に軽く顎を乗せて囁く。



「よし...…今だ!」

「うんっ!」



マヤはキルアに抱き込まれるようにして竿を引き、その上肩にキルアの体温を感じ取り、近すぎる距離と密着する体に頬が熱くなるのを感じたがどうにか平静を取り戻し、目の前の魚に集中する。二人の投げた竿は綺麗な弧を描いて飛んでいく。

キルアはマヤと一緒に竿を投げた瞬間、水面に糸が触れる微かな波紋を見つめる。二人の呼吸が自然と同じリズムになっていることに気付き、妙な心地よさを感じていた。



「待つんだ...…急いじゃダメだ...…」

「あっ……きたよ!」



突然、竿が大きく引っ張られ、二人の体が前のめりになる。キルアはとっさにマヤの腰に腕を回して支え、一緒に踏ん張る。



「でかいぞ! これはゴンも驚くな!」

「ぐっ……、重い……!」



魚は激しく抵抗し、二人は岩場で足を滑らせながらも必死に竿を握りしめる。キルアの額に汗が浮かぶが、彼の目は輝きに満ちていた。



「マヤ、もう少しだ! あきらめるな! オレたちなら...…」



大きな水しぶきと共に、巨大なミツバマグロが水面から跳ね上がる。その瞬間、キルアとマヤは互いを見つめ、同時に笑顔になった。この小さな勝利の喜びが、二人の間に新たな絆を紡いでいく。ゴンは飛び上がって歓声を上げ、目をキラキラと輝かせながら駆け寄ってきた。



「すごいすごい! マヤ、キルア、見てこのサイズ! ミツバマグロにしては特大だよ!!」

「ほんと!? やったあ!」



ゴンは興奮した様子で魚の周りをぐるぐると回り、釣り上げた二人の肩を叩いている。そしてはしゃいだ声を上げながらキルアとハイタッチをする。



「オレが釣ったのより大きいかも! こんなの初めて見た! ジンにも見せたいなぁ。今夜は最高の料理になるよ!」

「ゴン、大きさ比べなら負けてやんないぞ。これでどんな料理ができるか楽しみだな」

「キルア、ありがとう! えへへ、ジンがいないのは残念だけど、ミトさんはきっと驚くよね」



マヤは濡れた髪から水滴を垂らしながらも楽しそうに笑った。キルアは湿った前髪を払いながら、マヤの笑顔に思わず見惚れてしまう。そして慌てて視線を逸らし、ミツバマグロに向け直した。



「別に大したことじゃないさ。お前もよく頑張ったじゃないか」



小さな照れ隠しのように肩をすくめるが、誇らしげな表情は隠せない。キルアはさりげなくマヤの方へ一歩近づき、小声で話しかける。



「なぁ、このあと..….もう少し沖の方に行ってみないか? もっと大物がいるらしいんだ。オレたちならきっと釣れる」



彼の目には冒険心と、二人きりで過ごしたいという微かな期待が混ざっていた。マヤとの小さな成功体験が、彼の心に新しい勇気を灯していく。











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