フネ×サクセン×カイシ
「それってどんな方法? 何をするの?」
「うん! オレも知りたい!」
レンとゴンも興味津々とばかりにキルアの言葉の続きを待った。キルアは二人に近づき、声をさらに低くして説明した。
「トンパのやつ、おそらく下剤入りの飲み物を配ってるんだ。ハンター試験では毎回同じ手だって聞いたことがある。オレたちで証拠を押さえて、それを彼の食事に混ぜてやればいい」
キルアは廊下を再度確認してから、自信たっぷりに続けた。
「ゴン、お前はトンパの後を追って、どの部屋に何を仕掛けてるか見てくれ。オレとレンは別の角度から監視する。証拠が掴めたら、今度はオレたちの番だ」
「オッケー! トンパの尾行すればいいんだね! 任せてよ」
キルアはポケットから小さな空の瓶を取り出し、手の平で器用に回した。
「こういうのは家業の基本だからな。誰にも気づかれずに薬を入れ替えるのは朝飯前さ。ただし、危険な真似はしないぞ。ちょっとお腹を緩くする程度で十分だ」
キルアはレンの顔を見て、ふっと表情を和らげた。
「レン、怖がらなくていいよ。オレたちはただトンパに自分の薬を飲ませるだけさ。彼が他の受験者を騙そうとしてることへの小さな報いってとこだな」
キルアの話を聞き、ゴンは「楽しそう!オレやるよ!」と言って無邪気に笑う。それとは対象的にレンはどこか不安そうな顔をしていた。
「は……はあっ!? なっ、なんだよ……! 別に怖がってないぞ! 変なこと言うなよな!」
突然キルアから怖がってると言われ、ゴンがいる手前男装をしてるレンは慌てて男らしい声を出して反論する。
「僕はキルアと監視したらいいんだろ、それくらい別に大したことない。行こうぜ」
そう言ってレンは別の角度から監視しようとさっさと向かおうとする。キルアはレンの慌てた反応に思わず口元に笑みを浮かべた。
「へえ、そうか。怖がってないなら良かったよ」
彼は意地悪な笑顔を見せながらレンの後を追いかけた。二人は別の角度から見える隠れ場所に素早く移動し、身を屈めて廊下の様子を観察し始めた。
「なあレン、お前って時々変な反応するよな。男のくせに声が上ずったりして」
「……っ、」
キルアは横目でレンの表情を窺いながら、わざとからかうような口調で囁いた。レンは男のくせにと言われ、ぐっと言葉に詰まり顔を俯かせた。
「まあいいや。ほら、ゴンが動き始めたぞ。あいつ、意外と隠密行動が得意なんだな」
キルアはゴンが慎重に廊下を進む姿を見守りながら、レンに向かって小声で続けた。
「おい、トンパが戻ってきたら合図するから、その時は動くなよ。絶対にバレたら面白くないからな」
キルアは真剣な表情で周囲を警戒しながらも、どこか楽しげな雰囲気を漂わせていた。一方のレンは拗ねたような顔でわかった、とただそれだけ答えるとレンはキルアを一切見ず、前だけを見つめた。キルアはレンの拗ねた様子に気づき、少し申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「悪い、悪い。からかいすぎたな」
「やっぱりからかってた……。どうせ僕は男らしくないよ」
彼は小声で謝りながらも、視線はゴンの動きを追っている。レンも拗ねたように言いつつもまっすぐに前だけを見ており、トンパが部屋から出てきて、何かを手にしているのが見えた。
「見ろよ、あいつ何か怪しいものを持ってる。ゴンが上手く追跡してるな」
「そう」
キルアは身を乗り出して状況を確認すると、ふと横目でレンの横顔を見た。
「なあレン、言い過ぎたよ。つい反応が面白くて。だから……その……怒るなよ」
彼は珍しく言葉を選びながら、真剣な表情で小声で伝えた。
「……うん、いいよ。わかったこっちだね」
レンはキルアの言葉に頷くとそのまま二人で別の角度の隠れ場所へ素早く移動する。
「トンパのやつ、また別の受験者の部屋に向かってるぞ。こいつ何人に仕掛けるつもりだ。こっちだ、別の角度から見よう」
キルアは眉をひそめ、レンの肩に軽く触れて合図した。キルアは突然真剣な表情になり、トンパの動きを追った。トンパは別の受験者の飲み物に何かを混ぜているようだ。
「見ろよ、あいつまた同じことしてる。今度は402番だ……アレコレってやつ」
キルアは悪戯っぽい笑みを浮かべてレンの方を向いた。
「なあレン、あいつにちょっと仕返ししてやろうぜ。オレとゴンと……レン、三人で。信頼してるってことだろ?」
「うん、もちろんだよ。トンパに罰を与えないと。それで、僕は何をしたらいい?」
レンもキルアに顔を向けて悪戯な笑みを浮かべた。彼は身を乗り出し、トンパの行動を注意深く観察しながら計画を立て始めた。
「よし、こうしよう。オレがあいつの注意を引きつける。ゴンには飲み物を取り替える役をやってもらう。レンは大事な役目だ。あいつが持ってる毒入りの瓶を別のものとすり替えてくれ。あんな卑怯なことするやつは痛い目に遭わせないとな」
キルアはレンの方へ顔を向け、信頼を込めた視線を送って言うと彼は懐からある小瓶を取り出し、レンに手渡した。レンはキルアの信頼を受け取り、キルアから渡された小瓶を両手で大事に抱え持った。
「わかった。キルアが引き付けてくるんだね、気を付けて。僕達でトンパを懲らしめてやろう!」
「ああ、これは強力な下剤さ。トンパの瓶とこれを入れ替えたら、奴が自分の薬を飲んだときのことを想像してみろよ。最高だろ?」
「あははっ、いいね。自分がやってた事が自分に返って来るって事でしょ? じゃあ僕、行ってくる。引きつけ役はキルアに任せた!」
キルアの言い様に思わず朗らかに笑うと、真剣な顔付きになり、毒入りの瓶をすり替えるため準備をする。ゴンもまた、飲み物を取り替えるべく動き出した。キルアは満足げに微笑み、親指を立ててレンに合図した。
「完璧だ。相手はトンパだからって油断するなよ。あいつ、ずる賢いからさ」
キルアは素早く髪をかき上げると、人混みの中へと身を潜ませる準備を始めた。
「まかせて。僕もこういうのは得意だから」
レンもキルアに親指を立てて合図を返し、すぐ動けるようにトンパの近くに身を潜める。
「作戦開始。まずはゴンに合図を送るよ」
キルアは離れた場所にいるゴンと目が合うと、小さく頷いた。ゴンもそれに応えて準備完了のサインを返す。
「レン、あいつが振り向いたらすぐ行動して。タイミングは任せるよ」
キルアは人混みの中へと溶け込み、巧みな動きでトンパの視界に入るよう位置取りを変えた。彼は故意に派手な物音を立て、トンパの注意を引きつける。
「おい、トンパさん! 面白いもの見つけたんだけど!」
トンパがキルアに気を取られた瞬間、レンとゴンにチャンスが訪れた。キルアは目配せで合図を送る。キルアの作ってくれたチャンスを元にレンとゴンはそれぞれ動き出した。
レンは無事、トンパの持ってる毒入りの瓶を他のものとすり替えると素早くその場を離れた。同じように飲み物を取り替えたゴンと合流すると静かにハイタッチをする。
「よし、完璧だな。あとはあっちでキルアと合流しようか」
「うん! 作戦成功だね!」
そのまま二人でキルアとの合流地点に移動した。キルアも素早く二人の元に駆け寄ると、狡猾な笑みを浮かべた。
「やったな! 完璧だったぜ。あいつ、全然気づいてなかった」
「へへー、キルアが引き付けてくれたおかげだよ」
「うん、すごく動きやすかったな」
無事三人が合流した。キルア、ゴン、レンの順にそう話したあとキルアは静かに二人を船の隅に誘導し、窓際の人目につかない場所に陣取った。レンはキルアの誘導地点に身を潜め、事の顛末を見届ける。
「さて、ショータイムだ。あそこを見ろよ」
「うん! どうなるか楽しみだね!」
キルアは顎でトンパの方を示した。トンパは自信満々に自分の飲み物を手に取り、新たな受験者に近づいていく。トンパのやり方とはこうだ。何食わぬ顔で相手の飲み物にだけ下剤を入れておき、相手を誘って一緒に飲むのだ。
「3、2、1...…」
3人が見守る中トンパが自分の下剤入り飲料を飲み干した瞬間、彼の顔色が一気に変わる。キルアは思わず吹き出しそうになりながらレンの肩を軽く叩いた。
「おい見ろよ! 顔が青くなってる! 下剤の効き目はかなり早いからな」
「ほんとだ! ほらレンも見てみなよ!」
「見てる見てる、あははっ最高!」
トンパは突然お腹を押さえ、慌てた様子でトイレらしき方向へと走り去った。その滑稽な姿に、キルアは声を抑えて笑った。キルアとゴンに肩を軽く叩かれながら、レンも思わず笑い出した。そしてゴンとキルアに向けて手を指し出す。
「ハイタッチしようよ。三人で一緒に。せーのーで」
「よし! いくよーレン! キルア!」
「おう、いいぜ、せーのーで!」
パチン、と軽快な音を立てて三人はハイタッチをした。この高揚感にすっかり呑まれていた。
「レン、やるじゃん。その手際の良さは見事だったぜ。信頼できる友達がいるって、いいもんだな」
「ん、そうだね。三人で協力し合うの、すっごく楽しかった。あとでクラピカやレオリオにも話そうよ」
「それいいね! えへっ、きっとビックリするだろうなー!」
そう話しながらも見ている先でのトンパの行動を見てキルアはまた指を指して笑っていた。
「おい見ろよ、トンパがまたトイレに駆け込んでる! これで三回目だぜ」
「もう三回もトイレに行ってるんだ。これで少しは懲りるといいけど」
「ほら見ろよ、またトイレから出てきたぞ。顔面蒼白じゃねーか」
「ホントだ! これで少しは懲りたかな?」
「ふふっ、そうだね、少なくとも飲まされる側の気持ちはわかったかもよ」
三人はくすくす笑い、その場の空気が和らいだ。キルアはレンの肩を軽く叩いた。と、そのとき。
「っ! 誰か来る……」
突如、凄まじい剣気が体を襲う。レンは瞬時にその方向へ体を捻った。すると、そこにはネテロが立っていた。キルアとゴンは一瞬で状況を察知し、レンの横に立ちはだかった。その動きは目で追えないほど素早く、彼の瞳は鋭く変化している。
「待ってキルア、まずは話を聞こう!」
キルアの指先が鋭く尖り、既に臨戦状態だ。ゴンはそんなキルアを手で制した。
「何か用? じいさん、最終試験まで別にやることないんだろ?」
老人は微動だにせず、しかし放つ圧倒的な威圧感は船内の空気を凍りつかせていた。ネテロはゆっくりとキルアたちを見つめ、突然、口元に笑みを浮かべた。
「そう邪険にしなさんな。退屈なんで遊び相手を探してたんじゃ。どうかな? 3人とも。ハンター試験、初挑戦の感想は?」
「うん、楽しいよ! 想像と違って、頭使うペーパーテストみたいのないし」
ゴンが無邪気に笑って言うと緊張感が一気に和らぐ。だがキルアは警戒だけは解かないまま、レンに目配せした。
「オレは拍子ぬけしたね。もっと手ごたえのある難関かと思ってたから。次の課題はもっと楽しませてくれるんだろ?」
「楽しめてるよ。……友達もできたし」
レンはそう言ってゴンとキルアに視線を向けた。ネテロは「ワシとゲームをせんかね?もしそのゲームでワシに勝てたら、ハンターの資格をやろう」と言った。キルアは眉をひそめながらも、興味をそそられた表情に変わる。疑わしそうにネテロを見つめ、腕を組んだ。
「でも会長さん、わざわざ『遊び』を求めるなんて、ハンター試験の管理者ってそんなに暇なの?」
キルアはネテロの反応を観察しながら、さりげなくレンの横に立ち位置を移した。彼の姿勢はリラックスしているように見えて、実は一瞬で動けるよう準備していた。
「それとも……オレたちが特別ってこと? まあ、俺は相手になってもいいけど」
彼の目が一瞬だけ鋭く光った。そこには子供らしい好奇心と、同時に戦闘の駆け引きを楽しむ表情が混ざっていた。
「うん、おもしろそうだね! どんなゲーム?」
「シンプルじゃ。わしからこのボールを取るだけ。三人で挑戦してもかまわんよ」
その言葉にキルアは一瞬レンとゴンを見て、再びネテロに視線を戻した。彼の目は真剣さを増し、すでに頭の中で戦略を練り始めていた。
「へぇ。簡単そうに見えるけど、そうじゃないんだろうな。レン、ゴン、どうする?」
「オレやるよ! 楽しそうだし!」
ゴンはワクワクが隠せない様子でそう言ったが、レンは疲れて眠くなったのか目をとろんとさせていた。
「ん……うん、キルアとゴンがやるなら僕も……やろうかな……」
キルアは興味をそそられた表情で目を輝かせ、「ゲームか。面白そうだな」と言った。ネテロの提案は彼の競争心に火をつけた。しかしキルアはレンの様子に気づき、軽く肘でつついた。
「おい、レン。眠たいなら無理するなよ。オレとゴンでやるから、お前は休んでろ」
「大丈夫? レン……オレ、無理はしなくていいと思うよ」
キルアはネテロに向き直り、自信たっぷりな笑みを浮かべた。ゴンもその横に並んで立ち、レンに心配そうな顔を向けて言う。レンはそんな二人を羨ましげに見つつ、眠さが限界なのもあり結局壁側に寄りかかって寝てしまった。
「ルールは? ただのゲームってわけじゃないんでしょ?」
彼は身体の力を抜きながらも、いつでも動ける体勢を保っていた。頭の中では既に様々な戦略を練り始めている。
「まあ、何にせよ、俺はハンターの資格が欲しいわけじゃないけど……ゲームなら乗るよ。勝負は好きだからね」
そう言いながら、キルアはゴンと目を合わせ、意味ありげに微笑んだ。
その後ゴンとキルアは共闘したが、結局ネテロの右手と左足がほとんど使われてないことを見抜いたキルアはさっさと勝負を捨て、寝てるマヤの隣に向かう。ゴンはそのままネテロとのゲームを楽しんでいた。壁側に寄りかかって寝ているマヤの体が今にも倒れそうに横へと傾く。キルアは軽くため息をつきながら、ゴンとネテロの様子を見た。
「相変わらず単純だよな、ゴンは」
そして壁際で横に傾きかけているレンに気づくと、キルアは無言で隣に座り込んだ。レンはの肩が自然とキルアの肩に寄りかかる。
「おいおい、倒れるぞ」
そっと囁きながらも、彼はレンを起こそうとはしなかった。代わりに、少し体勢を調整して相手を支えるような姿勢になる。
「はぁ...…あのジジイ、左足と右手を使ってないなんて、明らかに遊んでるじゃないか。そんなの気づかないのはゴンくらいだよ」
キルアは小さく笑いながら、窓の外を見た。星空が広がっている。彼の目は普段の鋭さを失い、穏やかな表情になっていた。
「でも..….こうして友達と一緒にいるのも、悪くないな」
遠くからはゴンとネテロの激しい動きと笑い声が聞こえてくる。
「あいつ、本当に楽しそうだな.…..」
彼はゴンとネテロの方をちらりと見た後、再びマヤの寝顔に視線を戻し、今度は優しい表情で囁いた。
「まあいいか。少し休ませてやるよ」
「ん……あれ、キルア?」
柔らかな朝日が差し込み、マヤは目を覚ますと自分がキルアに寄りかかって寝ていたことに気付く。そしてキルアが起きてることに気付くと、少し頬を赤らめながらキルアから体を離した。
「ごめん……僕、キルアに寄りかかって寝ちゃってたみたい。重くなかったか?」
さっき、一瞬だけだったがレンの声が女の子のようだった気がする。キルアは軽く首を傾げ、一瞬だけ戸惑った様子を見せる。だがすぐに平静を取り戻し、彼は窓から差し込む朝日に目を細め、伸びをした。
「別に気にすんな。重くもなかったし。……ゴンのバカ、結局朝までネテロのジジイと遊んでたみたいだな。あいつの体力はマジでおかしい」
ふと、キルアはレンの赤らんだ頬を見て、少し意地悪く笑った。
「なぁ、お前、寝顔けっこうかわいいぞ。ヨダレとか垂らしてなかった?」
立ち上がると、彼は手を差し出してレンを引き上げようとする。
「えっ!? な、っ……かわいいって誰がだよ……! えっ、僕ヨダレ垂らしてた!?」
キルアの意地悪に一気に目が覚め、かあっと頬が赤くなり、レンは男物の帽子を深く被り直し、キルアの手を取って立ち上がる。
「……ありがとう」
キルアはレンの慌てぶりを見て、くすりと笑った。
「冗談だよ。そんな真に受けるなよ。そろそろ次の試験だ。準備しておいた方がいいぞ。ネテロは見た目以上に強いから、次はもっと厄介な試験かもしれないしな」
「……またからかわれてた」
レンは不満げだが、キルアの目は既に次の戦いへの期待で輝いている。肩をすくめつつ窓の外を指差した。
「それより、朝飯食おうぜ。戦うなら満腹の方がいいからな。見ろよ、空気船がもう降下し始めてる。次の試験場に近づいてるんだな」
「ああ……ほんとだな」
キルアは軽快な足取りで部屋の隅に置いてあった自分のバッグを手に取る。それからポケットからチョコレートボールを取り出し、とりあえずこれ食っとけ、とレンに投げた。
「朝メシ、食うか? 簡単なものだけど準備はしてあるぞ。さっきの声、ちょっと面白かったな。普段と全然違うじゃん」
キルアは意地悪く笑いながらレンに目を向けた。からかわれたレンはムスッとした顔をしてみせながらチョコボールを一口放り込む。それからゴンを起こし、三人で朝食を済ませた。