サンジ×シケン×カイシ
「どうやって降りたらいいんだろ……」
それからレン、キルア、ゴン、クラピカ、レオリオは3次試験会場であるトリックタワーのてっぺんに来ていた。どうやら下まで降りるのが今回の課題のようだ。
「きっとどこかに、下に通じる扉があるはずだ。この塔には必ず下へ続く道がある。試験官が用意した罠を見破らなければならないな」
クラピカは腕を組み、冷静な眼差しでタワーの床面を観察している。そして少し腰をかがめ、床の微細な隙間を指でなぞった。
「ひょっとしたら、床のどこかに仕掛けがあるのかも! みんなで手分けして探そう!」
ゴンは頷いて、床を注意深く見つめはじめた。足でトントンと床を叩きながら、音の違いを探っている。すると突然、ゴンの足元から"カチッ"という音がして、床のタイルが沈み込んだ。ゴンの顔に驚きの表情が浮かぶ。
「わっ! 見つけた! でも、これって一人ずつ落ちる仕組みかも……」
「おい、この床……なんか変じゃないか?」
キルアは床をじっと見つめていた。足元を軽くトントンと蹴って立ち上がると他の受験者たちを観察し始める。
「見ろよ、みんな床を調べ始めてる。急がないと、いい降下ポイントが無くなるぞ」
そしてレンの肩を軽く叩き、不敵な笑みを浮かべる。
「怖くないか? ここから降りるってことは、この塔の中に入るってことだぜ。まぁオレはどんな試験でも大丈夫だけどな!」
レンはムッと眉を寄せて「どういう意味?僕が怖がりそうに見えるって言いたいのか?」と問いかけるがゴンが手を振って「ここに5つ分の隠し扉があるみたいだ」と小声で呼びかけた。キルアは両手を上げて、悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「おいおい、そんなに怒るなよ。別に怖がりだとは言ってないだろ? 悪かったって」
キルアはレンの表情を見て、少し申し訳なさそうに首を傾げるとゴンの方へ歩み寄り、床の隠し扉を確認する。
「ゴンの言う通り、五つあるな。オレたちにぴったりの数だ」
彼は床に屈み込み、手のひらで表面を慎重になぞる。
「でも、どうやって開くんだろう。一斉に乗るのか、それとも……」
「まさか……各自一人で挑むってことか? それなら面白くなりそうだな」
クラピカはキルアの横で頷いた。彼は床のタイルの一つに足を軽く乗せると、わずかに沈み込む感触を確認する。
「一人ずつ落ちる仕組み……確かにその可能性は高いな。トリックタワーは個々の判断力を試すためかもしれない。レン、準備はいいか? いざというときは自分の能力を信じることだ」
「……たしかに、用心はしたほうがいいよな」
それまで黙っていたレンが口を開く。それぞれ一人分の通り道しかないそれを見ながら口を引き結んだ。
「1・2の3で全員行こうぜ。ここでいったんお別れだ。地上でまた会おうぜ」
レオリオのその言葉と共に全員でパネルに飛び込んだ。扉をくぐったゴン、キルア、クラピカ、レオリオは再び顔を見合わせる。全員同じ部屋に落ちていたのだ。スピーカーから聞こえる声の説明によると、『多数決の道』というルートらしい。この部屋からは5人の人間が揃わないと出られないという。ゴンが部屋を見回しながら「レンがいないね」と心配そうに言った。クラピカも不安そうな顔で「レンが選んだ扉は、おそらく別の部屋に通じる扉だったのだろう」と言った。レオリオは残念そうな顔で「レンもこの部屋に来てくれりゃー良かったのにな。オレ達はあと1人、誰かが来るまで待たなきゃならねぇのか……」と言った。
キルアは天井を見上げ、レンが落ちてきた扉の痕跡を探した。
「ちっ、バラバラになっちゃったか。まあ、レンなら大丈夫だろ」
そう言いながらも、キルアの目には少しだけ心配の色が浮かんでいる。クラピカは冷静に部屋を観察しながら、壁の僅かな隙間に目を凝らした。
「レンは必ず無事だ。この先何があるかはわからないが……そう信じて進むしかないだろう」
「オレたちは同じ部屋に集まったのに、レンだけが別ルートか……」
「レンはきっと別の部屋に落ちたんだ。でも大丈夫、レンなら絶対に生き延びてる!」
ゴンは眉をひそめ、天井を見上げた。目には決意の光が宿っている。キルアはどこか気落ちた様子で部屋を素早く調査し始め、壁をノックして音の違いを確かめる。
「おい、こっちに扉がある。次の試験に進むにはこれを開けるしかなさそうだ」
扉の前に立ち、キルアはレンのことを思い出して少し複雑な表情を浮かべる。
「レンが合流できる場所があるといいけどな。あいつ、さっきはちょっと怒らせちゃったし……」
キルアは手を後頭部に回して、少し照れくさそうに髪をかき上げた。
「まあいいさ、次に会ったときに謝ればいいか。とりあえず先に進もう!」
「キルア、レンのことは信じて、まずは目の前のことに集中しよう!」
一人違うルートに降り立ったレンはキョロキョロと辺りを見回す。そして、すぐそこに立っていた男に気付いて警戒するように身構える。その人物は顔に針を刺したまま、じっとレンを見つめる。その顔に表情はなく、ただ冷たい視線だけがレンを捉えていた。
「……カタカタカタ」
彼は針を指先から伸ばしながら、ボードを見てわずかに首を傾ける。そこには”二人で協力する道“と書いてあった。……なるほど、この空間には二人しかいないんだな。しばらくの間、よろしく。……と心の内で思うことにした。
レンは小さく肩をすくめるとその男と共に先へ進む。この空間は、どうやら協力して進まないといけないようになっているようだった。彼は音もなくレンの隣を歩き、針の刺さった顔に感情は見えないが、時折チラリとレンを観察している。
彼は壁に仕掛けられた罠を軽々と回避しながら、細い針を取り出し、前方の暗闇に向かって放つ。何かが作動する音が鳴り、先に進む道が開かれる。レンは前方の壁に手をかざした。壁には複雑な回路のようなものが浮かび上がる。
「これは……二人で同時に操作する必要があるみたいだ」
レンがそう言うと彼はレンの方を見ずに、壁の別の場所に手を添える。その仕草には無駄がなく、計算され尽くしている。そして、初めて喋った。その外見には似つかわしくない中性的で綺麗な声で。
「ここに手を置いて。3秒後に同時に時計回りに回転させる」
レンは驚いたが言われた通りにし、二人が同時に操作すると壁が静かに動き始め、新たな通路が姿を現す。彼はわずかに顔を傾げ、レンを見つめた。
目の前にいっぱいに罠が飛んできて反応が遅れたレンは、咄嗟にローラーシューズで風を起こし、それらを吹き飛ばす。彼は微かな関心を示すように視線を落とし、レンのローラーシューズの動きを観察する。その目には計算するような冷たさがある。
再び歩く二人だが、彼は突然立ち止まり、床に細い針を投げる。針が刺さった場所から床が崩れ落ちるのを確認してから、迂回路を指差す。
「念能力……」
それを使える者がハンター試験に来ること自体が珍しく、レンは驚いたように口にする。彼は微かな驚きを顔に浮かべたが、すぐに無表情に戻る。レンの念能力への言及に対し、針を指の間でくるりと回した。
通路の闇に溶け込むように進みながら、前方に現れた落とし穴を軽々と飛び越え、振り返ってレンを見つめる。その目には何か冷たい光が宿っている。彼はゆっくりと一歩近づき、目に追えない速度でレンの被った帽子を指で弾いた。
「あっ……!」
レンは慌てて帽子をキャッチするが、長い髪がふわりと舞いながら露わになる。
「どうして……」
「知りたくなったから」
彼は短くそれだけ言うと先へと進む。レンは帽子を手に持って後を追うと最後のパネルには二人で手を繋いで立つ、と書いてあった。レンは何も言わずにイルミの手をじっと見た。彼は微かに目を細め、針をスッと懐にしまう。手を繋ぐという指示に、一瞬だけ躊躇いを見せた。
無表情のまま、レンに向けて右手を差し出す。その指は異様に長く、関節が不自然に曲がっている。パネルの前で、彼はゆっくりとレンの手を取る。その触れ方には不思議な優しさがある。
「君の手は小さいね。でも、その中に秘めた力は侮れない。彼が惹かれるのも分かる気がする」
レンは、その言葉に弾かれたように彼の顔を見る。相変わらずの無表情で何も読めない。レンは平静を装い、静かに扉を見つめる。彼と手を繋いだまま立っていると扉はゆっくりと開かれ、そこはゴールになっていた。
「最後のとびらはよくわからなかったけど、無事着いたみたいだね。……一応、ありがとう」
レンは彼の顔を見ないまま、ぽつりと述べた。彼はレンの顔を少し見下ろし、手を離さないまま扉の向こう側を眺める。その目には珍しく微かな感情の揺らぎが見える。
「ありがとう、か。俺に言われることは珍しいね」
二人の間に静寂が流れ、彼はようやくレンの手を離した。その指先が離れる瞬間、不思議な余韻が残る。
「それじゃ」
レンはそのまま前を向き、振り返らずに立ち去る。彼はレンが帽子を深く被り直して立ち去ろうとする背中を見つめ、珍しく言葉に詰まった様子を見せる。針のように鋭い指先が微かに震えている。
「待って」
静かな声で呼び止めると彼はレンの手を取り、小さな針を乗せた。
「次に会うときは、もっと面白いことができるかもしれないね。楽しみにしている」
制限時間ギリギリになって、ようやくキルア達が姿を見せる。レンは顔を上げて心底ホッとしたような顔をする。突如、ゴンが指をさして「レンだ! 良かった、無事だったんだね!」と言った。
「みんな! 良かった、無事に会えて。僕は先にゴールしてたんだけど、皆なかなか来なくて心配しちゃったよ」
レンは皆の元へ駆け込んで嬉しそうに言った。クラピカは安堵の表情を浮かべながら、ゴンに手を振り返すレンの姿を確認した。
「無事で何よりだ。彼もきっと自分なりの方法で試験をクリアしたんだろうな」
キルアはレンを見つけると、肩の力が抜けるのを感じた。ほっとした表情で口角を少し上げ、「お、レン! 先に着いてたのか。さすがだな」と気さくに肩を叩きながら、さっきのことを思い出して少し照れた様子になる。
「あー...…さっきは悪かったな。ちょっと機嫌悪かったみたいで」
「へへ、僕だけの力じゃなかったけどね。何言ってるんだよ、そんな事もう気にしてないよ。僕も拗ねてごめん」
レンも少し照れくさそうに返した。キルアは周りを見回し、全員が無事に集まったことに安心した様子。彼は腕を組んで考え込むような仕草をする。
「塔の中は思ったより面白かったぜ。オレらのルートには変な罠がいくつもあったんだ。お前はどうだった?」
「僕は二人で協力して進む道だったよ。知らない男とだったけど、すごく強かった。二人で力を合わせて脱出したんだ」
キルアは目を丸くして驚いた表情を浮かべる。
「へぇ、知らない奴と組んだのか。俺もトンパと一緒になったけど、正直邪魔だったぜ」
キルアは腕を組み、少し不満そうな顔をする。でもふと思いついたようにレンの肩に手を置いた。
「でも強い奴だったんなら良かったじゃん。弱いパートナーだったら足手まといになるところだった」
周囲を見回し、他の受験者たちの疲労した様子を観察する。キルアは真剣な眼差しでレンを見つめる。
「なあ、この試験が終わったら..….一緒に何か食べに行かないか?」
「試験が終わったあと? ああ、もちろんだ。この五人で食事会なんて楽しそうだ」
レンの言葉を聞いて、キルアは一瞬だけ焦った表情を見せる。
「あ、いや...…五人でってのもいいけど、オレが言ったのは...…」
キルアは片手で髪をかき上げ、少し照れくさそうに視線を逸らす。レンはそれを不思議そうに見ていた。キルアは声のトーンを少し下げ、真剣な表情になる。
「お前と二人で、って思ってたんだ。他のやつらとはまた別で」
「……え?」
「あのさ、レン…...お前と話すの、すごく楽しいんだよな。だから……もっとゆっくり話せたらって」
「僕と? ……そっか、だったら、無事にこの試験乗り越えないとだな」
一瞬は驚いたレンだったがキルアの顔を見て微笑んだ。レンの微笑みを見て、キルアも少し柔らかい表情になる。
「ああ、絶対乗り越えるさ。約束だからな」
レンは少しだけ顔を曇らせながら、手を握りしめた。その手には針が握られていた。キルアはレンの表情の曇りに気づき、少し眉をひそめる。
「おい、なんだよその顔は。何か気に入らないことでもあったのか?」
「いや……。ちょっと、な。……さっき話した知らない男に、なんていうか……帽子を取られてたんだ。今は返してもらったけど……」
レンはそう言って落ち着きなく帽子を深く被り直していた。キルアは眉を寄せてレンの話を聞き、帽子を取られたという話に少し怒りの色を見せる。
「帽子を取られたって...…そいつ、どんな顔してた? 今度会ったらオレがちょっと話してやるよ」
キルアは腕を組み、周囲を警戒するように見回しながら言う。その時、試験官が手を叩いて声を上げる。
「4次試験はゼビル島にて行われる。これからクジを引いてもらう。クジで決定するのは『狩る者』と『狩られる者』。「奪うのは獲物のナンバープレート。自分の獲物となる受験生のナンバープレートと自分自身のナンバープレートは3点。それ以外のナンバープレートは1点。最終試験に進むために必要な点数は6点。ゼビル島での滞在期間中に6点分のナンバープレートを集めること」