ヨジ×シケン×カイシ






クラピカは試験官の説明を静かに聞き終えると、周囲の受験者たちの反応を観察している。彼は慎重に腕を組み、目を細める。



「狩る者と狩られる者か……これは単なる実力試しではなく、心理戦も重要になってくるな。クジ引きの結果がどうあれ、私たちは冷静に立ち回るべきだ。必要なのは6点……相手を見極めることが重要だな」



キルアはクジを受け取りながら、眉を上げた。



「へー、面白そうじゃん」



彼は自分のクジを見た後、さりげなくレンの方を見る。キルアは声のトーンを下げ、周りに聞こえないように話す。



「お前は大丈夫か? その男、気になるな。もし何かあったら教えてくれ。オレなら一瞬で片付けられるから」

「うん、ありがとうキルア」



キルアは軽く指を鳴らし、暗殺者時代の自信を垣間見せる。キルアは自分のクジを握りしめ、周囲の受験者たちを観察する。どことなく楽しそうな表情を浮かべている。



「でもまずは自分の獲物を探さないとな。お前は誰のナンバー引いた?」



その横でゴンは真剣な眼差しでクジを引くと、自分の紙片を確認し「オレのターゲットは……44番! ヒソカだ!」と言った。その言葉にレンとキルアは目を丸くして驚いた表情を見せ、ゴンの方を振り向く。



「えっ! ゴン、大丈夫? ヒソカって、かなりヤバそうだけど……」

「おい、マジかよ!」



キルアは彼は頭を抱え、溜息をつく。



「ヒソカを引くなんて……あいつはここにいる中でも間違いなくトップクラスに危険なヤツだぞ。アイツ、普通じゃないんだ」

「そうだよゴン、危険だよ……下手したら、殺される」



心配する二人に、ゴンは「大丈夫、必ず6点集めてみせるよ!」と言い、キルアは少し考え込むような表情をして、声を潜める。



「オレのは199番だ。誰かはまだ分からないけどな。でもゴン……お前本気でヒソカから奪うつもりか?」

「うん! 勿論だよ!」

「ゴン……そんな楽しそうに言うなよな、まったく」

「全くだ……ま、止めても聞かないだろうけど、気をつけろよ。あいつは殺しを楽しむタイプだ。オレと同類だから分かる」



キルアは一瞬だけ暗い表情を見せたが、ゴンは「二人も気をつけて。もし困ったことがあったら、すぐに助けに行くからね!」と言って走り出した。



「今一番困った状況にいるの、ゴンだよね……?」

「ホントにな……」



二人はどこか呆れた顔だ。気を取り直してレンが自分のクジを見て「キルアは199番か。僕は198番だから一個違いみたいだね」と言うと、キルアは口元に小さな笑みを浮かべながら、レンの方を見た。



「そうか、198番か。隣り合ってるのって偶然だよな..….」

「なあキルア、提案があるんだけどさ。お互いに標的を探すの、協力してみないか? 二人で行動した方が安全だし、情報も共有できる」

「えー、オレは一人でも平気だしお前自分でやれよ。これは試験なんだぞ」

「そうだよな、ごめん」



キルアはそう言ったもののしゅんっとするレンを見て、頭をガシガシとかくと周囲に誰もいないことを確認してから声を落とした。



「まあどうしてもってんなら一緒に行ってやってもいい。でも最終的にはそれぞれ自分の標的を自力で狩るんだぞ。そうじゃなきゃ面白くないからな」

「ホント!? ああ、もちろんだよ! ありがとうキルア!」



やれやれとばかりに肩を竦めてみせたキルアは島の方向を見つめ、少し興奮した様子を見せる。



「あの森の中は危険だらけだろうな。でも、それが面白いんだよ。オレたち、絶対に6点集めて最終試験に行こうぜ。あのバカもなんとか生き残ってくれるといいけど...…」



キルアは心配そうな表情を一瞬見せたが、すぐに自信に満ちた笑顔に戻した。



「ゴンを信じるしかないよ、今は。けど、連番してるからもしかすると知り合い同士の可能性はあるね。その時はどうしようか」

「標的が連番だと厄介だな。まあオレには楽勝だけど。実力不足なヤツなら俺たちで圧倒的に有利だし」

「そうだな。とりあえず長期戦になるだろうし、拠点と食料、水を確保しないと。あっち行ってみる?」



レンはそう言いながら木々の生い茂った場所を指差す。キルアは鋭い目つきでレンの指差す方向を見つめ、すっと立ち上がった。そして軽やかに木の方へ動き始め、レンに手招きした。



「そうだな、まずは基本だ。生きるための拠点と食料確保が先決だ」

「気配を消して行動しようか。この島、すでに獲物を狙ってる連中がいるだろうし」



レンがそこまで言うとキルアは突然立ち止まり、木の陰に身を隠した。数メートル先では何人かの受験者たちが集まり、作戦を立てているようだ。キルアは小さく笑い、レンの肩を軽く叩いた。



「見ろよレン、あいつら集団で動いてる。頭数だけは多いけど、連携は取れてなさそうだな」

「ほんとだ。数が増えるとその分纏まりにくさが増すよね」

「オレたちは質で勝負だ。さあ、あいつらに気づかれないように回り込んで、いい場所を見つけよう」



先に行動するべきだと判断し、レンとキルアは気配を消して先回りをする。



「……キルア、あっちに水場があるみたいだ。その近くに果物の木。誰かに見つかる前に取っておく?」



水場となると誰か来ててもおかしくはない……レンは思案顔だ。キルアはレンの発見した水場を見つめ、すばやく状況を判断した。彼は身を低くして茂みの中を進みながら、レンに手振りで指示を出す。



「よし、行くぞ。でも気をつけろよ。水場は他のヤツらも絶対に目をつけてる場所だ。俺が先に木に登って様子を見る。お前は下で見張りな。何かあったら口笛で合図してくれ」



キルアは猫のような素早さで果物の木に登り、枝の間から周囲を警戒しながら実を手に取った。レンは周囲に神経を研ぎ澄ませた。



「これ、食べられるぜ。毒じゃない。ほら、受け取れ」

「ああ、ありがとう」



キルアは木の上から数個の果物をレンに投げ降ろし、さらに上の方へと登っていく。すると突然、キルアの動きが止まった。彼は木の葉の間から何かを見つけたようだ。



「レン、やばい。ヒソカだ……あいつが水場の向こう側にいる。今はこっちに気づいてないみたいだけど、いつ気配に敏感なあいつが気づくかわからない。静かに撤退するぞ」

「……ヒソカがいるのか? それはやばいな、慎重に逃げないと」



果物を鞄にしまい込んだレンはキルアと一緒に気配を消しながらその場を移動する。しかし坂ほどゴンが言っていたことを思い出した。



「けど、ヒソカの後ろにゴンがいるかも……」

「ゴン? マジかよ! あいつ、もうヒソカに近づいてるのか」

「いや、まだわかんないけど……」



キルアは素早く木から降り、レンの隣に着地すると歯を食いしばり、一瞬だけ水場の方向を見つめる。キルアは小さく舌打ちし、頭を振った。



「でも今はアイツを助けに行くのも危険すぎる。オレたちはまず安全な場所に移動しよう。少し距離を取りながら様子を見る。ゴンなら何とかなるはずだ」

「ゴンの事は気になるけど、あのヒソカに気づかれず尾行してるんだとしたらすごいよ」



レンはどこか誇らしげに言う。キルアは慎重に後退しながら、レンの腕を軽く引っ張る。二人は静かに林の中を進み、水場から離れた小高い場所に辿り着いた。キルアは周囲を確認し、少し安堵の表情を見せる。



「ここなら一旦安全だな。それにここからだと島の様子もよく見える。レン、このあとオレたちはどうする? ゴンと合流するか、それとも自分たちのターゲットを先に探すか……」

「人数が増えたら、ヒソカの尾行は難しくなるかも。……今は、自分たちのターゲットのことを考えよう」



却ってゴンの足を引っ張るかもしれない、そう思っていると突然キルアは立ち止まり、レンの前に腕を伸ばして進むのを制した。前方の草むらが不自然に揺れている。



「シッ……誰かいる。感じるか?」



キルアはしゃがみ込み、声を潜めて囁いた。レンも草むらをじっと見つめる。



「見てみろ、あそこ。人影が二つ……もしかしたら、オレたちのターゲットかもな」

「……あの二人、見覚えあるよ。いつも三人で一緒に動いてた。だからもう一人、来るかもしれない。今は二人みたいだけど。とりあえずこのまま隠れながら様子を見る?」



レンが記憶を辿りながら答えるとキルアは鋭い眼差しで草むらを観察しながら、レンの言葉を慎重に受け止めた。



「三人組か……それは厄介だな。一人が見張りに行ってるかもしれない」



キルアは素早く周囲を確認し、頭上の木の枝を見上げると「オレがちょっと偵察してくる。お前はここで待機してろ」と言って猫のような俊敏さで木に登り、枝を伝って二人の方へと近づいていった。数分後、彼は音もなく着地し、レンの横に戻ってきた。



「おい、確かにターゲットだ。198番と199番……でも変だぞ。何か策略を練ってるみたいだ。罠を仕掛けてる」



キルアは声をさらに潜め、レンの耳元で囁いた。



「罠、か……迂闊に近付いたらヤバそうだね」

「もう一人はまだ見当たらない。でも油断はできない。ここで時間をかけるより……」



彼は不敵な笑みを浮かべ、指先が鋭く変化した。



「今、正面から仕掛けるのはどうだ? 二対二なら、オレたちが有利だぜ」

「なるほど……確かに罠が完成する前にこちらから仕掛けたほうが良いいか。今なら二体ニだし」



レンは静かに自分の靴に内蔵されたローラーを起動する。キルアはレンの靴に目を向けた。するとそのローラーから風が発生していた。思わずキルアの目が驚きに見開かれる。



「その靴、なに? どういう仕組み?」



彼はマジマジと靴を見ながらも指先を鋭く変化させ、姿勢を低くした。



「靴っていうかローラー。まあ、まだ改良中なんだけど」

「フーン……まあいいか、じゃあ作戦はこうだ。お前は右から風で奴らの視界を遮り、オレは左から動きを止める」

「うん、わかった」



キルアは素早く左側へ移動し、草むらに身を潜めた。彼は指でカウントダウンの合図を送る。



「行くぞ……3、2、1……今だ!」



二人は同時に飛び出した。レンのローラーが地面を滑り、風が敵の周囲で渦を巻く。キルアは電光石火の速さで敵の背後に回り込んだ。



「へへっ、残念だったな!」



キルアに手刀された199番の男が倒れる。すかさず198番が反撃しようとするが、レンの風に阻まれて動きが鈍い。



「レン、いま!」



キルアの掛け声に合わせてレンはローラーを滑らせて走り込み、198に蹴りを入れて昏倒させた。すると姿を消して来た197が背後から現れてレンを羽交い締めにしようとし、レンは素早く相手の顎にアッパーを入れて距離を取る。それを見たキルアの目が一瞬で鋭く変わる。



「レン!」



キルアは瞬時に姿を消し、素早い動きで197の後ろに現れる。キルアは冷静さを取り戻し、197を殴って昏倒させる。197が崩れ落ちると、キルアはすぐにレンの元へ駆け寄った。彼の表情には珍しく心配の色が浮かんでいる。



「大丈夫か? 怪我はないか?」

「大丈夫だよ。ごめん、油断しちゃったな。もう一人いるって、わかってたんだけど」



キルアはレンの肩に手を置いた。彼の目には安堵の色が浮かんでいる。



「別に心配なんかしてねーからな。ただ……お前が危なかったから、ちょっとな。それよりもさ、休む場所を探そうぜ。あっちに木々が茂ってるから、あそこなら少しは安全だ」

「キルアも一緒に休もう? 少し休んだら、食料確保しないとね」



キルアは倒れた敵たちのターゲットを回収すると、木々の方へゆっくりと歩き始めた。彼は木の幹に背を預け、疲れた体を休ませながらも周囲への警戒は怠らない。



「ああ、少し休んで食料を探そう。この湿原には毒を持った生物もいるから気をつけろよ」



キルアはポケットから小さな缶詰を取り出し、マヤに差し出した。



「これ、さっきの敵から拾ったチョコレート。疲れた時には甘いものが一番だ。半分こしようぜ」

「わあ、チョコレートだ。ありがとうキルア。……なんか、半分こっていいね。友達って感じする」



彼はチョコレートを二つに割り、マヤに半分を渡しながら少し照れくさそうに視線を逸らした。後ろからの気配を察知したレンとキルアは一瞬で反応し、身構える。二人の目が鋭く光る。レンは息を殺しながら囁く。



「……後ろに誰か一人、付いてきてるね」

「気づいてたのか。さすがだな」



キルアも声を潜め、ほとんど唇を動かさずに話す。



「3秒後に分かれて挟み撃ちにしよう。俺が前、お前が後ろ。合図は……」



キルアはレンに小さく頷くと、まるで影のように静かに身を翻す。レンも目で合図を取ると音を立てずに移動する。キルアが素早い動きで相手の背後に回り込もうとした瞬間、木の陰から姿を現したのは意外な人物だった。



「お、トンパじゃないか。なんだよ、こんなところでストーカーみたいなマネして」

「え、トンパ? まさかお前のターゲットって……」



キルアは冷ややかな笑みを浮かべながら、相手を上から下まで観察する。



「まさか、オレたちのプレートが欲しいのか? それとも……また変な飲み物でも配るつもり?」



キルアはポケットに手を突っ込んだまま、爪を伸ばす気配はないものの、いつでも攻撃できる態勢を崩さない。トンパは慌てた顔で「待て、落ち着けよ、オレは攻撃しに来たわけじゃない。お前らがターゲットでもない。レンの事で気になることがあるんだよ」と不敵に笑った。



「……僕が、なに?」



キルアはトンパの言葉に眉をひそめ、レンの方へちらりと視線を向ける。キルアは緊張を解かずに、むしろより警戒を強める。



「へぇ、レンのことが気になるって? 面白いな。どうせろくな話じゃないんだろ。お前の言うことなんて信用してないけど、一応聞いてやるよ」



キルアはレンとの距離を詰め、さりげなく彼を守る位置に立ち、挑発するように笑みを浮かべながらトンパの些細な動きも見逃さないよう目を光らせた。



「さあ、早く言えよ。オレたちには時間がないんだ。それとも..….また誰かの手先になって、オレたちの邪魔をしにきたのか?」

「トンパ、そんなこと言ってるけど、誰の差し金? もしかして、僕がターゲットの奴に頼まれたんじゃ……」



キルアの声には冷たさが混じり、かつての暗殺者の影が一瞬だけ表情に浮かぶ。レンは警戒心を強め、靴に手をかけてローラーを出そうとする。トンパが「いやレンに聞きたいことがあるだけだ」と慌てて言ったその時、レンは後ろから何者かに昏倒させられる。そのまま意識を失い、倒れた。キルアの表情が一変し、瞳が鋭く切れ長になる。彼の手から爪が突き出た。



「レン!」



彼は一瞬でトンパの首に爪を突きつけ、冷酷な声で言い放つ。



「お前の仲間か? 誰がレンを襲った? 話さないと、この爪がどれだけ鋭いか試させてもらうぞ」

「ヒィッ……!」

「くそっ……こんな罠にはまるなんて。オレたちのプレートを狙ってるのか?」



キルアはレンの方を気にしながらも、トンパから目を離さない。そのとき背後から足音が聞こえる。キルアはトンパを睨みつけ、声を低くして脅す。



「5秒以内に話さないと、お前の心臓を抜き取るからな。オレはそういう訓練を受けてきたんだ」



トンパは両手を上げて「オレは、脅されて従っただけだ。針だらけの顔の変な奴に……。助けてくれ!」と怯えた声を出した。その時、ギタラクルが音もなく現れ、気を失ったレンを抱きかかえて去っていった。キルアは一瞬でトンパから目を離し、レンを連れ去るギタラクルの姿を捉えた。



「レンを返せ!」



彼は反射的に飛び出し、ギタラクルを追いかける。足は素早く、まるで影のように地面を滑るように動く。



「くそっ、針男の手下か」



キルアは振り返ることなく、ただレンを追う。手から鋭い爪が光り、暗殺者の本能が呼び覚まされる。



「おい、どこに連れていく気だ? レンを巻き込むなら、相手はオレだ!」



彼は追いつきそうになるが、ギタラクルは予想外の方向へ素早く進路を変える。キルアは歯を食いしばり、速度を上げる。



「レンを返せよ……友達を傷つけるヤツは、絶対に許さない!」



ギタラクルは追ってくるキルアを一瞥し、素早くキルアの背後に移動して手刀をかまし、あっという間にその場からレンを連れて走り去る。キルアは背後からの気配を感じ取るが一瞬遅れ、首筋に鋭い痛みを感じる。



「ちっ……!」



しかし完全に意識を失うことはなく、ゾルディック家の特訓のおかげで体を制御し、倒れるふりをする。ギタラクルが去った気配を確かめてから、素早く立ち上がる。



「甘いな……オレは暗殺者の家系だぞ。こんな程度の攻撃で倒れるか」



キルアは目を細め、ギタラクルの残した微かな痕跡を見つける。わずかな足跡と匂いを頼りに、森の奥へと進む。



「レン……待ってろよ。今、絶対に助けに行くから」



暗い森の中、キルアの目は猫のように光り、静かに獲物を追う捕食者のように音もなく進んでいく。











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