テンクウ×トウギ×ジョウ






俺のせいじゃねえって?嘘つけ。さっきまで平気だったくせに、俺が問い詰めたからこうなったんだろ。



「……ふうん」



俺は膝を抱えたまま、ぼそりと相槌を打つ。こいつがそう言うなら、そういうことにしておいてやる。今は何を言っても、言い訳にしかならねえ。隣に座るステラの気配が、やけに近く感じる。



「おまえさ、ジンを探してるって言ってたよな。なんでそいつを探してんだ?」



沈黙が気まずくて、つい口から出たのはずっと気になっていたことだった。ゴンの親父。なんでこいつが、ゴンの親父を探す必要がある?センチになってたって言うなら、その原因はそこにあるのかもしれねえ。



「……言いたくねえなら、別にいいけど」



俺はステラの顔を見ずに、独り言のように付け加えた。もう、無理に聞き出すのはやめだ。ただ、こいつが少しでも話しやすいように、きっかけを作りたかった。



「……ジンは育ての親であり師匠だから。ジンを探し出すことが課題」



ステラは顔を背けたままぶっきらぼうに答えた。

……育ての親で、師匠?ジンが?ゴンの親父が、こいつの?予想外の言葉に、俺は思わずステラの横顔を見た。ゴンの話じゃ、あいつはジンの顔すら知らねえって言ってたはずだ。それなのに、こいつはジンに育てられた……?どういうことだ?



「……課題、ね」



俺はステラの言葉を反芻する。つまり、こいつがハンターを目指してるのも、その「課題」とやらをクリアするためってことか。だとしたら、今まで俺たちに黙ってたのも頷ける。簡単に話せるような内容じゃねえだろうからな。



「そりゃまた、とんでもねえ師匠を持ったもんだな」



俺は呆れたように呟いた。自分の息子はほったらかしで、どこの馬の骨とも分からねえガキを育ててたってのか。ジンのことはよく知らねえが、無茶苦茶な奴だということだけは確かみてえだ。



「……で? その課題ってのは、ジンを見つけりゃ終わりなのかよ」

「うん……めちゃくちゃな人だなって思う。どこの馬の骨ともしれない私なんかを弟子にするくらいだからね……ジンを見つけたら無事合格、で卒業だって。よくわかんないけど、恩人の課題だからね。



……卒業?その言葉に、俺はかすかな違和感を覚えた。まるで学校みてえな言い草だ。こいつにとって、ジンに育てられた日々は「課題」をこなすための期間でしかねえってことか?



「……おまえ、自分のこと『どこの馬の骨』とか言うなよ」



俺は思わず、低い声で呟いていた。投げやりなこいつの態度が、妙に気に食わねえ。育ての親なんだろ。恩人なんだろ。だったら、もっと他に言い方があるはずだ。



「つーか、卒業したらどうすんだよ。そいつと一緒にいるんじゃねえのか? ……それとも、他にやりてえことでもあんのか」



純粋な疑問だった。育ての親なんだから、見つけたらまた一緒に暮らすのが普通じゃねえのか?それなのに、こいつの口ぶりはまるで、ジンを見つけたら関係が終わるみてえに聞こえる。



「……ないよ。卒業したら……どうするかなんて考えてないし、師匠と弟子だからね、あくまでも。養子には入ったけど」



ステラは淡々とした口調で述べた。……養子?
なんだよ、それ。師匠と弟子で、しかも養子だって?ますます訳が分からねえ。こいつの話は矛盾だらけだ。養子なら親子みてえなもんだろうに、「あくまでも師匠と弟子」だなんて、まるで他人みてえな言い方じゃねえか。



「……考えてねえって、本気で言ってんのかよ。ハンターになって、ジンを見つけて、それで終わり? その後、おまえはどうすんだよ」



俺は呆れて溜息をついた。先のことを何も考えずに、ただ「課題」だからとジンを探す。そんな危なっかしい話があるか。こいつは一人で生きていけるほど、強くもなければ、ずる賢くもねえのに。俺はつい、問い詰めるような口調になっていた。こいつの投げやりな態度が、見ててイライラするんだ。



「……じゃあキルアは何かやりたいこととかあるの? ゴンとの冒険がなかったら、家を出てどうするつもりだったの?」



ステラは逆に問いかけてみた。



俺に、やりたいこと……?



ステラの言葉に、俺は一瞬、言葉に詰まった。家を出て、どうするつもりだったか。そんなこと、考えたこともなかった。ただ、あの家から逃げ出したかっただけだ。ゴンに出会わなければ、俺は今頃どこで何をしていたんだろう。



「……さあな。少なくとも、人殺し以外の何か、だ」



俺は自嘲気味に呟く。家業を継ぐなんて真っ平ごめんだ。でも、それ以外に俺に何ができる?何も思いつかねえ。ステラの質問は、俺がずっと目を逸らしてきた核心を突いていた。



「ゴンといると、退屈しねえからな。今はそれでいい。……おまえも、見つけりゃいいだろ。ジンを探す以外の、何かを」



俺はステラから視線を逸らし、ぶっきらぼうに付け加えた。こいつに言われたくねえ。おまえと俺は違う。俺にはゴンがいる。だが、こいつには…?



「……そうだね」



……なんだよ、その返事。気のない相槌に、俺は苛立ちを覚える。「そうだね」じゃねえだろ。俺が言いたいのはそんなことじゃねえ。こいつは分かってねえ。自分がどれだけ危うい状況にいるのかを。



「……おまえ、本気で言ってんのか?」



俺は思わずステラの方を向き直る。こいつの将来の話をしてんのに、まるで他人事みてえな態度だ。ジンを見つけたら終わり、その後は考えてない。そんなんで、この先どうやって生きていくつもりなんだよ。



「ゴンには、ジンを探すっていう明確な目標がある。けど、それはあいつが自分で決めたことだ。おまえは違うだろ。ジンに言われたからやってるだけじゃねえか。てめえの人生、他人に決めさせてんじゃねえよ」



俺は畳み掛けるように言った。こいつに必要なのは、誰かに与えられた課題じゃねえ。自分の意志で動くことだ。俺が家を飛び出したみたいに。ゴンが親父を探す旅に出たみたいに。



「そんなすぐに見つけられないよ、そんなの……。やりたい事なんて、ない。親戚もいない。……何もないよ、私には。ゴンについていってるだけのキルアに言われたくない」



ゴンについていってるだけ……その言葉が、ナイフみたいに俺の胸に突き刺さった。図星だったから、何も言い返せねえ。確かに俺は、ゴンがいなけりゃただ家を飛び出しただけのガキだ。ステラの言う通り、俺にも目標なんてねえ。



「……っ、るせえな!」



俺は苛立ちを隠さず、壁を殴りつけた。鈍い音が響く。分かってる。こいつに八つ当たりしたって何にもならねえことくらい。でも、そうでもしなきゃ、やり場のない感情が爆発しそうだった。



「……おまえと俺を一緒にすんじゃねえよ。俺は、おまえみたいに空っぽじゃねえ」



俺は吐き捨てるように言う。俺は自分の意志で家を出た。ゴンと一緒にいることも、俺が選んだことだ。だが、こいつは違う。ジンの言いなりになってるだけじゃねえか。それは、ステラにではなく、自分自身に言い聞かせるための言葉だった。そうだ、俺は空っぽなんかじゃねえ。



「……そうだよ、私は空っぽだよ。何しに来たの? 私を馬鹿にするために隣に来たの?」



俺の言葉に、ステラが牙を剥く。その目に宿る怒りの色を見て、俺はハッとした。馬鹿にするため?違う。俺はただ……こいつが心配で……。



「ちげえよ……」



俺は目を逸らし、壁に寄りかかったまま小さく呟いた。そうだ、俺はこいつに、俺と同じになってほしくなかったんだ。誰かに敷かれたレールの上を歩くだけの、空っぽの人生を。



「……悪かった。言い過ぎた。……ただ、おまえ見てると、昔の自分を見てるみてえで……ムカつくんだよ」



素直に謝るのは癪だが、今の俺は明らかに言い過ぎだ。こいつの事情も知らねえで、勝手なことばかり言っちまった。俺はぼそりと本音を漏らす。暗殺者になるために、親父や兄貴に全てを決められていた昔の自分。おまえも、そうなっちまうのかよって。



「……もう、ほっといてよ。聞きたくない。これ以上私を惨めにしないで。出ていって!」



ステラは操作系の念能力を発動して風を操作し、キルアを強制的に部屋から追い出した。



───バタン!



背後で乱暴に閉められたドアの音に、俺は思わず舌打ちした。風に押し出されるなんて、無様な真似させやがって。ったく、あいつ、あんな能力隠し持ってたのかよ。



「……ちっ、なんなんだよ……」



追い出された部屋のドアを睨みつけ、苛立ち紛れに壁を蹴る。心配してやってんのに、あの言い草はねえだろ。だが、それ以上に、あいつの最後の言葉が胸に突き刺さっていた。『惨めにしないで』……か。俺は、あいつをそんな風に追い詰めたかったわけじゃねえ。ただ、昔の自分と重なって見えたんだ。言いなりになるしかねえ、空っぽの人形みてえだった自分と。おまえはそうなるなよって、伝えたかっただけなのに。



……クソ、うまく言えねえな。



俺は頭をガシガシと掻きむしり、その場にずるずると座り込んだ。結局、俺はあいつを傷つけただけだ。最悪だ。



















目の前には天空闘技場。だけどキルアとステラは顔を合わせようともせず、ゴンがオロオロとしていた。ステラはキルアから一定の距離を取りながら天空闘技場に参加登録をして、そのまま中へ足を踏み入れていく。

ステラの背中を、俺はただ黙って見ていた。



「キルア、ステラと喧嘩したの?」

「……ほっとけよ」



ぶっきらぼうに答えると、俺はステラの後を追うように登録カウンターへ向かった。あいつ、怒ってやがったな。当たり前か。俺が言った言葉は、全部自分に跳ね返ってくるブーメランみてえなもんだ。ゴンについていってるだけ……か。違えよ。俺はゴンと友達になりたくて、一緒にいたくて、自分の意思でここにいる。けど、あいつにはそれがただの依存に見えたのか。

……それも、仕方ねえのかもな。結局、俺もあいつも、自分の足で立ってるって胸を張れるほどの何かは持ってねえ。それを突きつけられたみてえで、胸糞悪ぃ。……あいつ、風を操る能力、隠してやがった。ジンに教わったのか?それとも元々持ってたのか?どっちにしろ、あいつが抱えてるもんは、俺が思ってるよりずっと複雑なのかもしれねえな。

ゴンとキルアとステラの試合は一瞬でおわり、一気に50階まで進む。三人でエレベーターを降りると、先ほどモニターで見たばかりの道着姿の少年と出会った。少年は「押忍」と言って頭を下げて通り過ぎていった。その後、モニターに『キルアVSズシ』と表示される。



「さっきの少年だ! キルア! オレたちあっちで応援してるから!」



ゴンはキルアにそう声をかけたがステラはキルアの顔を見ずに小さな声で「頑張ってね」とだけ言った。

ステラの横顔を盗み見る。応援の言葉も、どこかよそよそしい。当たり前か。俺が散々、あいつを傷つけるようなことを言ったんだから。



「……おう」



短く返事をして、俺は闘技場へと続く通路へ歩き出した。ゴンの真っ直ぐな応援と、ステラのよそよそしい言葉。その対比が、今の俺たちの距離を物語っているみてえだった。ズシ、とか言ったか。あいつ、ただもんじゃねえな。微かだけど、奇妙なオーラを感じた。だが、今の俺に負ける要素はねえ。



「さっさと終わらせてやるか」



俺は首をコキリと鳴らし、不敵な笑みを浮かべた。ステラに格好悪いとこは見せられねえだろ。意地でもな。あいつに言われた「ゴンについていってるだけ」って言葉を、この拳で否定してやる。俺は、俺の力でここにいるんだってことを。

観戦席に座るステラとゴンは並んで座り、キルアの応援しながら見守る。試合が開始してすぐにズシのいた場所の背後にキルアが立っており、ズシが地面に伏せられた。審判のクリーンヒットの合図が出される。ズシは思わず「練」を使ってしまう。キルアの体が突然硬直し、目に見えない恐怖に囚われる。周囲に漂う得体の知れない圧力が彼を取り囲み、呼吸さえ困難にさせていた。



なんだ……これ……。



ズシとかいうガキから、得体の知れない圧力が放出される。体が鉛みてえに重くなり、指一本動かせねえ。見えねえ何かに全身を締め付けられてるみてえだ。息が、詰まる。



「……っ、ぐ……!」



これが……イルミが言ってた「念」ってやつか……?暗殺者の修行でも感じたことのねえ、本能的な恐怖。脳が危険信号をガンガン鳴らしてる。逃げろ、と。観客席にいるステラたちの顔が、一瞬、頭をよぎった。あいつの前で、こんな無様な姿、見せられるかよ。



「……は、ったり……じゃねえの……」



俺は震える足に力を込め、無理やり笑みを作った。意地でも、この恐怖に屈してたまるか。俺は、ゴンについていくだけの空っぽな存在じゃねえ。この手で、未来を掴むんだ。キルアは歯を食いしばり、少しずつ指先を動かし始める。

ウイングが立ち上がり、大声でズシの名前を叫んだ。ステラはとっさに耳をふさいだので大丈夫だったが、驚いた周囲の人が転がりながら逃げた。あれから、試合は何事もなかったかのように進んでいった。何度もキルアの攻撃を受けたズシはTKO負けした。











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