プロローグ
……え? ハンター試験会場ってここ?
定食屋の中は普通の客でごった返していた。カウンター席に座る老人、窓際の席で談笑する会社員風の集団。どこをとっても普通の飲食店だ。ステラの困惑した表情を見た店員が、カウンターから顔を上げる。どう見ても子供にしか見えないその姿を見て、店員は一瞬は驚いたもののすぐににこやかに微笑んだ。
「いらっしゃい。何を召し上がります?」
店員は穏やかな笑顔を浮かべているが、その目は何かを見抜くように鋭い。ステラが戸惑っていると、店員は小さく咳払いをした。
「特別メニューでも如何ですか?」
ステラの視線の先、店の隅にいた青年が微かに反応する。よく見ると彼の胸元には小さなピンバッジ。それは何かの番号のようだ。ステラが再び店員を見ると、彼は静かに頷いた。あの青年は何だろう、気にはなったもののその青年に促されるままステラは暗号を口にする。
「ステーキ定食、弱火でじっくり……」
店員の目が一瞬光った。彼は満足げに微笑み、カウンターの下に手を伸ばす。
「弱火でじっくりですね。お客様、少々お待ちください」
店員がカウンターの奥へ消えると、店内の雰囲気が微妙に変化した。会話の音量が下がり、いくつかの視線がステラに向けられる。青年はゆっくりと立ち上がり、ステラのテーブルに近づいてきた。
「正解だ。君もハンター試験の受験者なんだな」
青年は小声で話しかけながら、自分のピンバッジを指さす。そこには数字が刻まれていた。
「俺は今年で3回目の挑戦だ。君は初めてか? 案内がないと戸惑うよな。この定食屋は表の顔に過ぎない」
そのとき店員が戻ってきた。しかし彼の手にあったのは料理ではなく、小さなカードだった。
「……うん、ハンター試験に参加するのは今回が初めてだ。正直戸惑った。あの時はありがとう」
ステラはこくりと頷き、男声を作って答えた。そこで店員が再び現れ、カウンターの奥に設置された壁のパネルに手をかざした。すると、床から低い振動が伝わってきた。
「お二人とも、準備はよろしいですか? 試験会場へご案内します」
パネルの向こう側に隠された通路が現れ、店内の何人かの客が自然な動きで立ち上がり始めた。彼らもまた受験者だったのだ。
「なあ、緊張するなよ。最初の関門はここを見つけることだった。それはもう突破したんだ」
青年は微笑みながら、暗い通路への一歩を踏み出した。
「ちゃんと合格して帰ってくるよ。だって私……ううん、僕、ジンさんの子供だもん」
声に出して言うと、サイドに結んだピンクの髪の毛を帽子の中にしっかりしまって軽く撫で、ステラも一歩を踏み出した。
───いよいよ、始まろうとしていた。