ウラ×ハンター×シケン






ステラとゴンは顔を合わせて首を傾げていた。



「待ってよキルア、次はゴンの試合だよ! 一緒に応援するでしょ?」



ステラが追いかけてくる足音が聞こえる。うるせえな、放っとけよ。



「……当たり前だろ。先に行ってる。お前はゴンと来ればいいだろ」



俺は足を止めずにぶっきらぼうに答える。ゴンの試合を応援しないわけねえだろ。けど、今はステラの隣にいるのが気まずい。俺はそう言って、さらにペースを上げた。さっきのハンカチの感触が、まだ手に残ってる。あいつの顔をまともに見れそうにねえ。この胸のざわつきは、なんだってんだ。これは嫉妬……なのか?俺が、ゴンに?バカみてえな話だ。



「ええ……ゴンと来ればって、そのゴンは試合に出るんじゃん……」



ステラはぽつんと取り残され、仕方なく一人で応援席に向かった。そしてリールベルト対ゴンの試合が始まった。ステラは緊張した面持ちで椅子の端に腰掛け、リングを凝視している。

一人で観客席に向かうステラの後ろ姿が、やけに小さく見えた。俺の言い方が悪かったのか? ……いや、あいつが馴れ馴れしいのが悪い。



「ちっ……」



俺は舌打ちをして、ステラから少し離れた席にわざと音を立てて座った。隣に座れば、またペースを乱される気がした。ゴングが鳴り、試合が始まる。ゴンはいつも通り、真正面からリールベルトに突っ込んでいく。だが、ステラはさっきまでと違って、声も出さずに固唾を飲んでリングを見つめていた。



「………」



その横顔が、妙に気になる。俺のせいであんな顔させてんのか? ……そう思うと、胸の奥がチクッと痛んだ。

ゴンは床のパネルを引っぺがして投げつけ、速攻で勝負を決めていた。ゴンの勝利で締めくくられる。勝利のガッツポーズをするゴンを見て、喜びと安堵がステラの表情を明るく照らした。

ゴンの勝利に、ステラの顔がパッと明るくなるのが見えた。その笑顔が、なぜか俺じゃなくてゴンに向けられていることが、また胸にチクリと刺さる。



「……ふん、あんなの当然だろ」



俺は聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟き、腕を組んだ。わざと興味なさそうにしてるが、本当はステラの反応ばかり気にしている自分がいる。ゴンすごい!って、またあいつの隣で笑うのか?ゴンがリングから降りてくる。ステラが駆け寄っていくのが見えた。また、俺の時みたいにハンカチで汗を拭ってやったりするのか。その光景を想像しただけで、腹の底がむかむかする。



「……くだらねえ」



俺は立ち上がると、二人に背を向け、さっさと控室への通路を歩き出した。あいつらの顔なんて、見てらんねえ。




















「お疲れ様、ゴン。……私ってさ、なんかキルア怒らせてばかりなんだよね。嫌われてんのかな?」

「え? キルアがステラのこと嫌ってるなんてことないよ! あいつ、素直じゃないだけなんだ。でも本当はステラのこと大事に思ってるよ」



ゴンは首をかしげて、ステラの心配そうな表情を見つめる。それからにっこり笑って拳を握る。



「キルアがステラに話しかける時の目、見たことあるでしょ? あれはキルアが信頼してる証拠なんだよ! だから安心して、明日も一緒に楽しもうよ!」

「でも怒らせてばっかりなんだ。すぐ怒るから私もつい言い返しちゃう。昨日だって『俺が……俺たちがどんだけ心配したと思ってんだ……!』って怒鳴られて『心配してんのはこっちの方だもんバカ!』って言っちゃった。そんで、結局今日も怒らせたし」



ステラはため息をつく。ゴンは小さく笑い、空を見上げる。風が二人の髪を優しく撫でていく。ゴンはステラの肩に手を置く。



「それって……仲がいいからだよ。キルアが怒るのは、ステラのことを大切に思ってるからなんだ。天空闘技場を出たらオレたち三人で、釣りに行こうよ。キルアと競争すれば、きっと楽しくなるよ!」


















控室に向かう通路の途中で、足を止める。ステラの声が、嫌でも耳に入ってきた。



───嫌われてんのかな?



その言葉に、心臓がドクンと嫌な音を立てた。違う。そうじゃねえ。むしろ、逆だ。だが、それをどう説明すりゃいいのか分からねえ。



「……バカじゃねえの」



俺は壁に寄りかかり、小さく悪態をつく。怒ってばかり。そう言われる自覚はあった。でも、嫌うなんて選択肢、俺の中にいつから無くなってた? あいつの不安そうな声が、頭から離れねえ。くそ、どうすりゃいいんだよ。

三人はウイングの所に来るとワクワクしながら説明を聞く。今日からは発の修行。ウイングは「これをマスターすれば念の基礎は全て修めたことになります」と言って、念能力の属性の説明をし、ゴンとキルアと水見式を行いそれぞれの系統を調べる事にした。キルアは両手をポケットに突っ込み、少し退屈そうな表情を浮かべながらも、内心では期待に胸を躍らせていた。

ウイングの説明を、俺は腕を組んで聞いていた。水見式、ね。葉っぱを浮かべたコップの水にオーラを流し込むだけで、自分の系統が分かるってやつか。合理的でいい。



「ふぅん……」



俺は横目でステラを見た。こいつはもう自分の系統を知ってんだろ。どんな能力なんだか。ゴンは目をキラキラさせてコップを見つめてる。俺は……どうなる? 変化系か? それとも……。期待してないと言えば嘘になる。



「ま、なんでもいいけどな。どうせ使いこなしてやるし」



俺はそう呟いて、ニヤリと口角を上げた。ステラの不安そうな顔が頭をよぎったが、今はこっちが先だ。強くなれば、あいつを守れる。……いや、違う。あいつに認めさせられる。俺の方が、ゴンよりも……。そんな考えが浮かんで、俺は自嘲気味に鼻で笑った。俺とゴンは水の入ったグラスを見つめ、集中して自分のオーラを注ぎ込む。ゴンのコップは少し水のかさが増えた。



「ゴンは強化系だね!




キルアの目の前のグラスに葉が浮かぶが変化はない。才能無し?!と焦るキルアにウイングが静かに頷いて説明をする。水を舐めてみせて、僅かに甘くなっているから変化系だという。



「キルアは変化系なんだね!」



ウイングの言葉に、俺はコップの水をまじまじと見つめた。変化系……。水が甘くなるのがその証拠らしい。なるほど、悪くねえ。むしろ、俺の性に合ってるかもしれねえな。



「へえ、変化系か」



俺は指でコップの縁をなぞりながら、不敵に笑ってみせる。隣でステラが嬉しそうに声を上げる。その顔を見て、さっきまでの胸のつかえが少しだけ軽くなる。



「ああ。これでようやく、お前らに追いつけるってわけだ」



これは本心だった。強くなって、あいつの隣に、ゴンよりも先に立つ。そのために、こんなところで足踏みしてるわけにはいかねえ。さっきの"嫌われてんのかな"って言葉が、まだ耳の奥で反響してる。



「……ま、見てろよ。すぐにすげー技、見せてやっから」



俺はステラの顔を真っ直ぐ見て、そう宣言した。これはただの強がりじゃねえ。こいつの不安を断ち切るための、俺なりの覚悟だ。もう、あんな顔はさせねえ。






















「裏ハンター試験合格です」




それから三人はそれぞれで念の鍛錬に励み、再びウイングの前で水見式を行う。キルアとゴンは以前よりも強い変化を生み出すことに成功し、ウイングから合格を言い渡された。



「おめでとう! ゴン! キルア! 裏ハンター試験合格!」



ウイングの合格宣告と、ステラの弾んだ声。俺はポケットに手を突っ込んだまま、悪態をつくみたいにそっぽを向いた。



「……ったりめーだろ。こんなの、ただの通過点だ。お前が心配するようなヘマは、もうしねえよ」



本当は、めちゃくちゃ嬉しい。ステラが俺の名前を呼んで、笑ってくれてる。それだけで、胸の奥が熱くなる。だが、素直に喜べない自分がもどかしい。これは、合格したことよりも伝えたかったことだ。もうお前に「嫌われたのかな」なんて顔はさせねえ。俺が隣にいて、お前を守る。そのための強さだ。



「……だから、そんな顔すんな」



嬉しそうに笑うステラの顔を、真っ直ぐ見ることができない。心臓がうるさくて、顔が熱くなるのが分かった。



「……ふふ。キルアのそういう自信満々な所好きだよ。キルア、ゴン。これで念の基礎はマスターしたってことだね! それにもうすぐ9月1日……クラピカ達と再会する日も近いよ」

「そっか、もうすぐなんだね。でもその前に……オレ、一度くじら島に帰ろうと思ってる。オレの町を二人に紹介したい!」



ゴンの言葉に、俺は一瞬虚を突かれた。くじら島……あいつの故郷か。



「……は? なんで俺たちまで」



ステラの「好き」って言葉が頭の中でぐるぐる回ってる。顔が熱い。それを悟られたくなくて、ついぶっきらぼうな口調になった。ゴンはニカッと笑って「だって友達だろ!」なんて言う。単純な奴。だが、その言葉は悪くねえ。



「……まあ、暇だし付き合ってやってもいいけど」



俺はそっぽを向いて答える。ステラはどうするんだ? あいつが行くなら、俺も……なんて考えてる自分に気づいて、内心で舌打ちした。ちらりとステラを見ると、彼女は楽しそうにゴンと話している。その光景に、また少しだけ胸がざわついた。



「うん! もちろんだよ。だって、二人ともっと一緒にいたいんだもん」



ステラは笑顔で答えた。ゴンは元気よく飛び跳ねた。



「よし! 行こうクジラ島に! オレ案内するよ!」











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