ビミョウ×ナ×カンケイ
辺りはすっかり暗くなっていた。星空が見える。俺のタンクトップはステラには少し大きくて肩から少しずり落ちているのも構わず、ステラは星空を見上げていた。夜空の下、星々が冷たく輝いている。俺はステラの横に立ち、ズリ落ちたタンクトップの肩をちらりと見る。少し大きすぎるその姿に、なぜか胸がざわつく。異変を乗り越えた安堵と、言いようのない感情が交錯する。
「おい、ステラ、そんなに上ばっかり見てると首が疲れるぜ。ま、とりあえず今は少し休もうぜ」
俺はわざと軽い口調で話しつつ、近くの岩に腰を下ろす。ゴンは少し離れた場所で星を見ながらニヤニヤしてる。こいつ、絶対何か変なこと考えてるな。俺はステラとゴンに視線を移し、小さく笑う。星空の下で感じるこの平穏が、なぜかとても大切に思える。ゾルディックの血とは関係なく、ただ仲間としてここにいる自分を、少しだけ受け入れられそうだ。
「うん……星、綺麗だなって思って。もう夜だし、そろそろ寝ないとね。少し休んだら家に戻る?」
キルアに視線を向けられてもステラはキルアの顔を見ようとしないままそっぽを向いて答えた。
俺はステラのそっぽを向く態度に小さく舌打ちしそうになるが、ぐっと堪える。星空を見上げるその横顔が、なぜか無性に気にかかる。ピンクの髪が夜風に揺れるたび、胸の奥がざわざわするんだ。
「おい、顔も見ねえで話すなよ。なんだよ、俺に文句でもあるのか? ま、家に戻るのはいいけど、警戒は解くなよ」
ステラの提案に少し考えつつ、俺は腕を組んで空を見上げる。家に戻る、か。今は休むのも悪くねえかと思い直す。ゴンが遠くで「うん、そうだな!」と同意する声が聞こえる。俺はステラの肩に軽く手を置き、無理やり視線をこっちに向けさせようとする。でも、その小さな抵抗に、なぜか笑みが漏れる。
「とりあえず、少しだけ休もうぜ。そしたら出発だ。ほら、ちゃんとこっち見ろって。仲間だろ?」
星空の下、ステラとゴンと過ごすこの時間が、ゾルディックの血とは無縁の何かを感じさせる。家に戻る前に、もう少しだけこの平穏を味わっていたい。そう思う俺に、自分でも驚いている。
「いーやーだー」
ステラはキルアに肩を掴まれてこっち向かせようとされても頑なに拒み、絶対にキルアを見ようとしない。ゴンは強引にこっちを向かせようとステラの肩を掴むキルアを見て笑っている。
「だってキルア上半身裸だもん……私はいいっていったのに、私に服を放るからでしょ、バカ」
ステラはそっぽを向いたまま答えるとゴンの横に座った。
ステラのぶっきらぼうな言葉に、思わず顔が熱くなるのを感じた。なんだよその反応……。上半身裸なことなんて気にしてなかったのに、今さら意識させやがって。
「はぁ? 誰がバカだって? お前が寒そうにしてたから貸してやっただけだろ。感謝しろよ」
ゴンの隣に座るステラを見て、俺は少し距離を置いて腰を下ろす。夜風が素肌を撫でて、少し肌寒い。でも、そんなことを気にするより、ステラの言葉が妙に引っかかる。
「まったく……そんなに気になるなら見なきゃいいだろ。ゴンと寝るってんなら、勝手にしろよ。とりあえず、ちょっと火を起こすぞ。夜は冷えるからな」
そう言いつつも、木の枝を集めて焚き火の準備を始める。ステラとゴンの方をチラリと見れば、二人がささやき合って笑ってる。なんだか妙に疎外感を感じる。でも、そんな弱音は吐けない。
「寒そうって……ちょっと水しぶきかかっただけなのに大げさなんだから。夜は冷えるならこのタンクトップ返すから着なよ……それとも私のシャツ着る?」
ステラは自分が元々着ていた水色のシャツをキルアに差し出す。
ステラが差し出したシャツを見て、思わず鼻で笑う。この状況がどうにも馬鹿馬鹿しく感じられてきた。
「いらねえよ。返さなくていい。そのままでいろ。水しぶきで透けてたの、お前気づいてないだろ。ゴンはバカだから気づかなかったみたいだけどな」
木の枝を組み合わせながら、ステラの方には敢えて目を向けない。なんだか視線を合わせるのが妙に気まずい。火打石を取り出し、慣れた手つきで火花を散らす。乾いた小枝に火が灯り、徐々に大きくなっていく。炎の明かりが辺りを照らし、ステラの表情がはっきり見えるようになる。
「それより、もうちょっとしたらちゃんと休めよ。明日も長い一日になるぞ」
焚き火が安定してきたのを確認して、ようやくステラの方を見る。彼女の髪が炎の光に照らされて、いつもより鮮やかに見える。妙に気になって、思わず目が離せなくなる。
「え、透けてた……って、……キルアが裸のままだと、なんか直視できなくて困るって言ってんの。いいから着なよ」
そっぽを向いたままかあっと頬を染める。ステラは困ったようにそっぽを向いたまま自分のシャツをキルアに向かって投げつけた。
ステラが投げたシャツが俺の顔に当たって、反射的に手で掴む。相変わらず素直じゃねえやつだ。でも、その頬を赤らめる姿が妙に……いや、なんでもない。
「はぁ? 俺のことが気になるのか? ……わかったよ。そんなに言うならな」
からかうように言ったものの、シャツを手に取りながら少し考える。確かに、このまま上半身裸で夜を過ごすのも悪くないが……。不承不承といった様子でステラのシャツを着る。少し小さいが、まあ一晩なら我慢できる。
「満足したか? これでお前も安心して俺を見られるだろ。明日はゴンの部屋でなんか見せたいもんがあるらしいぜ」
焚き火がパチパチと音を立て、その光が辺りを柔らかく照らす。ステラの困った表情が火の光に照らされて、なんだか可笑しくて笑ってしまう。話題を変えながらも、内心では妙な気恥ずかしさを感じていた。
「キルアのことっていうか……あんまり見慣れてないし、そういうの」
キルアのからかうような言い方にムスッとした顔をする。
「キルアだって今私がこのタンクトップ脱いだら困るでしょ」
「それはオレも困るけど」
ゴンが苦笑していた。俺はステラの言葉に一瞬言葉を失い、思わず目を見開く。想像してしまった自分に驚いて、慌てて目をそらした。
「ば、バカ言うなよ! そんなことするな!」
声が少し裏返りかけたことに気づいて、自分の反応にイラつく。冷静さを取り戻そうと深呼吸する。
「まあ、確かにお互い様ってことか...…」
「ゴンが見せたいものって、たぶんジンからの手紙だろうな。この島のどこかに何か隠してあるらしいんだ。明日はそれを探しに行くつもりだと言ってた」
焚き火に枝を足しながら、さりげなく話題を変えようとする。
「これだよオレが見せたいもの」
次の日はジンからの手紙をゴンの部屋で見ることにした。どうやらラジカセで聴くタイプのテープのようだ。真っ白なメッセージケースが目に入った瞬間、その中身が何なのか察した。ゴンの顔には期待と興奮が溢れていて、まるで宝物を見つけたみたいだ。
「へえ、テープか。ジンからのメッセージってわけか」
ステラと視線を交わし、彼女も同じように興味深そうな表情をしていることに気づく。ゴンがラジカセにテープを入れると、少し雑音が混じった後、落ち着いた男の声が流れ始めた。ジンの声だ。一瞬、部屋の空気が凍りついたように感じる。
「...…ゴンの父親か」
思わず呟いてしまった。俺には理解できない感情が、ゴンの目に浮かんでいる。家族って何なんだろう。暗殺者の家に生まれた俺には、普通の親子関係なんて想像もつかない。ジンの声は続く。どこか遠い場所から届く声のように感じられた。俺は無意識のうちにステラの方を見ていた。彼女も真剣な表情でメッセージに聞き入っている。
「...…親子ってのは、俺たちには縁がないもんだな」
小さく、聞こえないように呟いた。
「……うん。私は生まれてすぐ捨てられたからそういうのはよくわかんない」
キルアの言葉に反応して、ステラも小さく呟いていた。どうやらそのカセットによると、ジンはGIにいるらしいことがわかった。
ジンの声がテープから流れ続ける中、ステラの小さな呟きが耳に入った。俺は一瞬、言葉を詰まらせる。捨てられた、か。暗殺者の家に生まれた俺とはまた違う重みが、その一言にはあった。
「...…そうか。まあ、似たようなもんだな。けどジンがGIにいるってことは、ゴンは絶対追いかける気だろ」
視線をテープの方に戻しながら、無理やり感情を押し込む。家族なんて、俺にとってもただの枷でしかなかった。でもゴンの様子を見ると、なんだか胸がざわつく。少し皮肉っぽく言うが、心の奥ではゴンの決意が眩しく見えた。ステラの方をチラリと見ると、彼女も何か考え込んでいるようだった。過去と重ねてるのかもしれない。
「ステラ、お前も何か感じるものあんのか?」
「うーん……わかんないや。でもさ、ゴンも母親いなくて父親の顔を知らないんだよね。私達三人とも、家庭環境は複雑なのかもね」
「まあ、そうだな。似た者同士ってやつか」
ステラは小さく笑った。ステラの小さな笑い声が、なんだか胸に刺さる。家庭環境が複雑って言葉が、妙に重く響いた。俺もゴンも、ステラも、どこか似てるのかもしれない。
「ヨークシンに行こう。そこならクラピカとレオリオもいるし、GIのための資金稼ぎについて聞いてみようよ」
カセットを聞き終えるとゴンは言った。ゴンの提案に目を細める。ヨークシンか。クラピカとレオリオに会えるのは悪くないけど、ステラを危険な場所に連れて行くのは気が進まない。
「ヨークシンか……確かに資金稼ぎの話は大事だな」
内心では、ステラを守るためにどうすればいいか考え込んでしまう。ヨークシンはただの街じゃない。いろんな思惑が渦巻く場所だ。
「お前ら、変なことに巻き込まれるなよ。特にステラな」
「はぁい」
少し強い口調で言うと、ステラの方をチラリと見る。彼女の無邪気な顔を見ると、余計に不安になる。俺が守らなきゃいけない。
「まあ、とりあえずクラピカたちに会ったら相談だな」