シンジ×タク×ナイ
アジトの薄暗い部屋に足を踏み入れた瞬間、胸の奥が締め付けられる。幻影旅団の連中がずらりと並ぶ中、ヒソカの隣に立つ小さな影。……ステラだ。ピンクの髪が目立つツインテール、間違いねえ。
「ステラ……!? なんでこんなとこに……」
声が震える。無事な姿に安堵が広がるが、同時に怒りと不安が湧き上がる。ヒソカの不気味な笑みが視界の端でチラつく。ステラをこんな危険な場所に置いておけるわけがない。
「おい、ステラ! こっち見ろよ、大丈夫なのか!?」
ゴンが俺の肩をつかむが、意識はステラにしか向かない。あいつの灰色のシャツが目に入るたび、心臓がうるさい。守らなきゃ。あいつを連れ戻すんだ。
「ゴン、なんとかして近づくぞ。絶対に……」
周囲の視線を感じながら、頭をフル回転させる。念はまだ基礎しか使えないけど、この場を切り抜ける方法を見つけなきゃ。ステラの安全が最優先だ。
「どういうこと? アンタ達知り合い同士かい?」
マチが眉を顰めながら言う。ステラは意を決したように静かにゴンとキルアに目を向けた。そしてそのまま目を逸らす。
「……うん。私の友達」
ステラの小さな声が部屋に響き、俺の胸に刺さる。友達……その一言が重く、なぜか切ない。ヒソカの隣に立つあいつの姿が、まるで遠い場所にいるように感じる。でも、確かに無事だ。少しだけ息が楽になる。だけど、視線を合わせようとしないステラの態度に、胸がざわつく。なんで目を逸らすんだ?何か隠してるのか?頭の中がぐちゃぐちゃになるけど、まずは落ち着け。幻影旅団の連中がこっちをじっと見てる。
「なあ、ステラ。どうしてこんなところにいるんだ?」
一歩近づこうとするが、フェイタンの冷たい視線が突き刺さる。動けない。この状況で下手な行動は命取りだ。でも、ステラのそばに行きたい。あいつの顔をちゃんと見たい。心臓がうるさいほどに焦る。
「おい、ちょっと話させてくれないか? 俺たち、ただの友達だ」
マチが鼻を鳴らし、団長のクロロが静かに微笑む。不気味な空気が漂う中、俺は必死に言葉を紡ぐ。なんとしてもステラを守る。そのためならどんなリスクでも背負う覚悟はできてる。団長たちがザワザワし始める。ヒソカはため息をついている。ステラはその横で俯いたままキルアの方を見ない。マチが鋭い目つきで言う。
「アンタ、何言ってるんだい? ステラはアタシらの家族だよ」
「……は? 何言ってんだ、お前」
マチの言葉が、鋭い刃のように俺の心臓を抉る。家族……?冗談じゃねえ。ステラが、こんな危険な奴らの家族だって?ふざけるな。声が冷たくなるのが自分でもわかった。ゴンの制止する気配を感じるが、もう無視できない。ステラが俯いたままなのが、余計に俺を苛立たせる。
「ステラは俺たちの仲間だ! お前らみたいな人殺し集団の家族なわけねえだろ! おい、ステラ! 顔上げろよ! こいつらに何かされたのか!? 言えよ!」
一歩前に出ようとした瞬間、マチの殺気が肌を刺す。だが、俺は止まらない。ステラの震える肩を守れるなら、こいつら全員敵に回したっていい。ヒソカが立ち上がり、キルアの肩に手を置く。
「話をするなら場所を考えるべきなんじゃない? まずはここを脱出することが大事だ……彼女を連れて、ね」
そうこっそり耳打ちをする。それから団員たちに向けて手を広げて「鎖野郎を知らないなら置いておけばいい。見張りはノブナガがいれば大丈夫」と言った。
ヒソカの囁きが耳元で不気味に響く。こいつの考えは読めねえ。だが、今はその提案に乗るしかねえか。ステラを連れて、ここから出る。それだけが頭を支配する。
「……チッ。おい、ステラ。行くぞ。こんなとこに長居は無用だろ」
俺は小さく舌打ちし、ヒソカの手を振り払う。ノブナガがこっちを睨んでるが、どうでもいい。今はステラのことだけだ。俯いたままのあいつの肩が、やけに小さく見える。返事はない。だが、俺は構わずステラの腕を掴む。その瞬間、ステラの体がビクッと震えたのが分かった。拒絶か? それとも恐怖か?どっちにしろ、こいつをここに置いていく気はねえ。
「聞こえねえのか? 俺とゴンと一緒に帰るんだよ」
「待ちな。ステラはアタシらの仲間だ。気安く触るんじゃないよ」
マチはそう言ってキルアを念糸で縛り上げた。結局ゴンとキルアは牢屋に入れられ、ノブナガが見張りにつくという流れになる。それ以外のメンバーは別の仕事に向かうためアジトから出ていった。ステラもフェイタンに連れられてアジトから出ていく。
マチの念糸が食い込み、俺の動きを完全に封じる。クソッ……!何もできねえ。目の前でステラが、他の団員に連れられてアジトから出ていく。その小さな後ろ姿が、薄暗い出口に消えていくのを、俺はただ見ていることしかできなかった。
「ステラ……!」
声にならない叫びが喉の奥で詰まる。牢屋に放り込まれ、鉄格子の冷たい感触が背中に伝わる。ゴンが心配そうに俺の顔を覗き込んでいるが、今はそれどころじゃねえ。
「……絶対ぇ、助け出す」
見張りのノブナガが刀に手をかけてこっちを睨んでいる。だが、そんな脅しはどうでもいい。頭の中は、連れ去られたステラのことでいっぱいだ。あいつを守るって決めたのに、またこのザマか。ゴンは静かな声で作戦を立てた。
「アジトにはノブナガしかいない。ノブナガは一つしかない扉の前にいる。近寄れないと思う。でもオレは、出口がないなら作ればいいんだと思うよ。左右の壁を破壊して二人で同時に出る。追われた方は部屋の壁をぶち壊しながらノブナガを誘い、建物内で戦うと見せかけて外に逃げる。追われなかった方はそのまま外に出る。ノブナガがどっちを追うかはわからないけど。どう?」
ゴンの冷静な声が、俺の燃え上がるような焦りを少しだけ鎮めてくれる。壁を破壊して脱出……か。単純だが、それしかねえ。俺はゴンの顔を真っ直ぐ見据え、固く頷いた。
「ああ、いいぜ。それでいこう」
ノブナガは強い。一対一で勝てる相手じゃねえ。だからこそ、ゴンの作戦は理にかなってる。俺たちの目的はあいつを倒すことじゃなく、ここから脱出してステラを追うことだ。
「俺が囮になる。お前はその隙にステラを探せ。俺より鼻が利くだろ。合図は俺が出す。一発で決めんぞ、ゴン」
これは俺自身の問題だ。ステラを危険な目に遭わせたのは、俺の弱さのせいでもある。だから、このリスクは俺が背負う。ゴンの返事を待たずに、俺は壁に触れて硬さを確かめた。ゴンは壁の一点に集中し、拳に力を込める。念を両腕に集中させ、肉体の限界まで強化する。それから俺を見て頷く。二人同時に壁を破壊して飛び出した。
即座に立ち上がったノブナガはゴンの方を追いかけた。ゴンは部屋の壁を次々にぶち壊しながらノブナガを誘う。ゴンは「こっちだよ!」と挑発しながら壁を破壊していく。キルアはノブナガがゴンを追って行くのを見届けると、すぐさま反対方向へ走り出した。
ゴンが派手に壁を破壊する音が背後から響く。ノブナガの怒鳴り声も聞こえるが、振り返ってる暇はねえ。今は一秒でも早くステラを見つけ出す。それだけだ。
「……チッ、どこ行きやがった」
俺は舌打ちしながら、アジトの外へ飛び出す。廃墟が立ち並ぶ殺風景な街。どこにステラが連れて行かれたのか、見当もつかねえ。焦りで心臓が早鐘を打つ。
「くそっ……! 手掛かりが何もねえ……! 待ってろ、ステラ。絶対に見つけ出してやる……!」
辺りを見回すが、人影はまばらだ。マチやフェイタンとかいう奴らの気配も完全に消えている。俺の勘が、最悪の事態を告げているようで、ギリッと奥歯を噛み締めた。
ゴンは、ノブナガにゴンとキルアがアジト内に残ると見せかけて外に出た。べーっと舌を出して走り出し、外に出てきたキルアと合流する。
「キルア! ステラは……?」
ゴンは気配と嗅覚を探るが完璧に痕跡が消えている。
「だめだ……完璧に消されてる。こうなったら、レオリオとクラピカにも助けを求めよう!」
「……チッ、仕方ねえな」
ゴンの言葉に、俺は悔しそうに顔を歪めた。クラピカとレオリオに助けを求める……?今の状況じゃ、それが最善なのは分かってる。分かってるけど、俺自身の無力さが腹立たしくてたまらねえ。拳を強く握りしめる。ステラを守るって決めたのに、結局また他の奴らの力を借りなきゃなんねえのか。だが、今はプライドよりステラの安全が優先だ。あいつがいないと、意味がねえ。
「……今は手段を選んでる場合じゃねえか」
俺は一度大きく息を吐き出し、気持ちを切り替える。感傷に浸ってる暇はねえ。一刻も早くステラを取り戻す。そのためなら、何だってしてやる。
「行くぞ、ゴン。ぐずぐずしてる時間はねえ」
その日はゴンと二人で宿を取り、その次の日の夜に改めてゴンとキルアとレオリオでホテルに集合した。
「クラピカと連絡は取れた。明日にはここに到着するそうだ」
レオリオの言葉に、俺は苛立ちを隠せずに舌打ちした。明日……?そんな悠長なこと言ってられるかよ。ステラが今どんな目に遭ってるか分かんねえのに。
「明日だあ? ふざけんな! こっちは一刻を争ってんだぞ! クラピカが来るまで待てってのかよ。その間にステラに何かあったらどうすんだ!」
思わず声を荒らげてしまう。ゴンの心配そうな視線を感じるが、構っていられなかった。焦りと不安で、冷静さを保つのが難しい。俺はホテルの窓からヨークシンの街を見下ろす。この街のどこかにステラがいる。そう思うだけで、今すぐ飛び出して探しに行きたくなる衝動に駆られた。だが、無策で動いても意味がないことくらい、頭では分かってる。
「いや……そのステラの事だが……」
レオリオは悲痛な面持ちで言い淀む。悔しげに顔を覆った。